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「と、朋也さんは大丈夫なんでしょうか?」
「今、手術中です。先生が一生懸命処置してますからね。どれくらいかかるかわからないですが、ここで待たれますか?」
「はい、待ちます」
一通り、朋也さんの名前など、わかることを看護師さんに伝えた。
とりあえず深呼吸して、私は手術室の前にあるイスに腰掛けた。
「朋也さん、お願い。絶対に死なないで」
心の底から祈る気持ちでつぶやいた。
朋也さんのお父さんに連絡したい、どうしよう。
そうだ、一弥先輩ならわかるかも知れない。
私は、すがるような思いで連絡をした。
夜中にも関わらず、すぐに反応してくれた。
『どうしたの、恭香ちゃん。こんな時間に』
「一弥先輩、すみません、こんな時間に。本宮さんが誰かに刺されて、今、手術中なんです。すぐにお父さん、社長に連絡したいんですけどどうしたら……」
一弥先輩はすごく驚いている。
『刺されたって……だ、誰に?』
「わかりません。私も何もわからなくて、どうしたらいいか……」
『わ、わかった。会社に警備員さんがいるだろうから、そこから社長の連絡先わかると思うから。それは僕に任せて。すぐに僕も病院に行くから』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
『大丈夫。きっと大丈夫だから。すぐ行くからね、待ってて』
一弥先輩がいてくれて本当に良かった。
「大丈夫」との言葉に救われる。
だけれど、またすぐに不安に襲われ、全然冷静になれない。朋也さんのことを考えたら怖くて怖くて、震えが止まらない。
もしこのまま――
嫌だ、絶対嫌だよ。
そんなの、嫌だ……
誰もいないその場所で、私は声をあげて泣いた。
我慢していたものが溢れ出してしまった。
朋也さん、お願い、お願いだからずっとそばにいて。
私のそばで笑っててほしいよ。
絶対生きて、私のこと、また抱きしめて……
私のことを絶対に守ると言ってくれたのは朋也さんだ。
なのに、死んだら守れない。
嘘つきだよ、そんなの。
心が苦しくて、痛くて、せつなくて、寂しくて……
今、ハッキリとわかった。
私は、朋也さんが好きだ――
朋也さんのいない世界なんて考えられない。
朋也さんを失いたくない。
その時、廊下を走る足音がして、一弥先輩が来てくれた。息を切らしている。
「恭香ちゃん、大丈夫?!」
涙で目をパンパンに腫らした私を見て、一弥先輩が心配してくれた。
「一弥先輩……夜中にすみません」
「そんな事いいから? それより本宮君は?」
「まだ……意識なくて……。今、手術中だから何もわからないって……。ずっとずっとわからなくて不安で……」
「そんな。どうして本宮君が? それに、刺されたって、誰がそんなこと……」
「本当に何もわからないんです」
「刺したやつを許せない。きっと、警察が動いてくれてるはずだ。犯人、必ず見つかるよ」
「……はい」
「あと、社長に連絡ついたよ。ただ、今は社長は出張中で海外だから、ここは僕達に任せてもらった。すごく心配されてたよ」
父一人、子一人で、ずっと支え合ってきた2人だから……
朋也さんも、本当にお父さん思いで。
社長のためにも、何としても助かってほしい。
私達はイスに座って、祈りながら朋也さんの手術が終わるのを待った。
待つ時間は、とても長く感じる。
それから、どれくらい経っただろうか。
手術中のランプが消えて、手術を執刀してくれた先生が出てきた。
なんて言われるのか、心臓が止まりそうになる。
お願い、朋也さん……
生きていて……
「先生、ありがとうございました。朋也さんは……朋也さんは大丈夫なんでしょうか?」
なるべく冷静になるよう努めた。
そんな私を見て、先生は少しの間をあけてから慎重に答えた。
「手術は無事に終わりました。急所は外れていましたし、ナイフが刺さったままで栓の役割をしてくれていたので、思いのほか出血が少なく済んだのが幸いしました。ただ、まだ意識がない状態です。今はとにかく、意識が回復するのを待つしかないですね」
「……そ、そうですか。あ、ありがとうございました」
そういうのが精一杯だった。