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急に美大落ちの話出てきて驚きました それにしてもアトリエ燃やすのはなかなかですね… 健気に頑張ってるヴィシーちゃんかわいいかわいい、応援してます(*´▽`*)
ヴィシーさんの焼いたスコーン食いてぇ、、、! そして自己肯定感低い。そしてそれに至る価値観も妙にリアルで私と似た感じだからなんか、こう、、、 可哀想になってくる。そしてそれを思いやりが包むんだけど結果的に自分で落とすから結局可哀想=とても可愛い!!!!!!! という方程式が成り立ちますね。何言ってるでしょうか() とにかく今回も楽しませてもらいました!!!
どうも皆様、サカナです
ヴィシーちゃんカワイイカワイイネ
かわいそ可愛いが一番似合います
これが書きたくて書き始めました
趣味を探すヴィシーちゃんです
ヴィシーには右腕がない。
傀儡政権としてナチスの所有物になった時、自分が世話をするから、などと言って肩から切り落とされたのである。
利き手を失ったヴィシーは何をするにも難しく、簡単には引かない痛みにも苦しんだ。
ヴィシーはフランスという国らしく、絵や料理が好きだった。
風景画を得意としており、自由フランスとはまた違うタッチの、画家の卵だった。
ナチスが落ちた美大とはまた違うが、フランスの美大にも通っていたことがある。
それも、年齢的にナチスが落ちたと同時期にだ。
ヴィシーを連れて行く際、ナチスはヴィシーと自由のアトリエを見た。
理解できないと嫌っていた近代絵画も多くあったが、中には写実的な風景画も多く存在していて、どれも写真のような素晴らしく良い出来栄え。
絵を諦めてしまったナチスにとって、それはまさに嫉妬と羨望の対象である。
適当な言い訳をして、ヴィシーが絵を描いていた右腕を切り落としたのも、そのアトリエにあった絵をアトリエごと焼いたのも、心の底にある嫉妬のせいだった。
そんなことのせいで利き手を奪われるなど、ヴィシーからすれば冗談で済まされないことだったが、先述したように過去のことは気にしていない。
全くと言えば嘘になるが、片腕でもできることは増えてきた。
現国に舞い戻りでもしない限り、腕は生えない。
それなら、大人しく前を向いたほうが楽なのだ。
しかしながら、そんなヴィシーにも一つ悩みがある。
「…暇です…」
イギリスの屋敷ではウェールズ、北アイルランド、稀にスコットランド、そして新たにヴィシー・フランスが使用人として働いているのだが、全員優秀すぎて仕事がなくなりやすい。
それに、元々2、3人で回っていた屋敷だからか、ヴィシーは手伝い以外やることはないし、できないのだ。
どうしようかと悩むものの、箒は持てないし、持てても掃けない。
窓を拭くくらいならと思うが、高いところにあれば届かず、ハシゴや脚立も使えず、なんならウェールズが飛んでいく方が早い。
ちなみに、床を雑巾がけしようとしたら思い切りバランスを崩してずっこけた。
料理も炒める、茹でる、焼く、混ぜるくらいで、皮剥きも紅茶を淹れることもできない。
運ぶのはまだできるが、一品ずつでないと、または重いと落としてしまう。
庭を手入れしようと思っても、ホースの勢いに負けたり剪定用の大きなハサミを使えなかったり、案外問題は多いようだ。
義手があればと思っても、1人では着脱すら難しいだろう。
「あれ…僕、もしかして役立たず…!?」
気がつきたくなかった真実に絶望しながら、けれど暇な時間はどうにかして埋めなくてはならない。
そうだ、お菓子作りはどうだろう。
生地を練るのは大変だろうが、焼いたり形を整えることならできそうだ。
「…スコーンだけでも用意できるなら、お茶会の準備を手伝えるはず…」
何度か挑戦しては生地を作る工程で失敗してきたが、練習すればなんとかなるかもしれない。
もうすぐお茶の時間だ、迷惑をかけない範囲でやってみよう。
読んでいた本を閉じ、ヴィシーは部屋を出た。
「あ、スコットランドさん」
「よう、ヴィシー。なんか作んのか?」
覚悟を決めたヴィシーがキッチンへ向かうと、すでに先客がいたらしい。
お酒を漁っていたであろうスコットランドだ。
「もうすぐお茶のお時間ですので、またお菓子作り…今回はスコーンに挑戦してみようかと」
「いいじゃねえか。お前一応フランスだもんな、料理は得意みてえだし」
「自由や皆さんほど上手ではありませんよ。いつも生地を作る段階で挫折してしまうので…」
「そりゃしょうがねえよ。俺も手伝おうか?」
棚からスコッチウイスキーを取り出しながら、真昼間から飲むつもりでいるスコットランドはヴィシーの頭を撫でる。
手伝って早めの酒盛りを許してもらおうという算段なのだろうか。
「いえ、大丈夫です。1人でできることを増やさなくてはなりませんから」
「OK、じゃあ見守るに留めておくとする。向こうで飲んでっから、なんかあったら言えよ〜」
そう言ってそそくさとこの場から離れようとするスコットランドの腕を掴み、引き止める。
「ありがとうございます、ですが飲むことは許可していません。お酒を棚に戻してください」
「ちぇっ、ダメだったか」
「僕だって禁酒してるんですよ、お昼からは流石にご遠慮願いたいです」
「わぁーったわぁーった。んじゃあよ、代わりに作るとこ見てていいか?俺料理はイギリスたちよりはマシだと思うんだけど、菓子は作れねえからさ」
「それはもちろん大丈夫ですよ」
そんなわけで、スコットランドとヴィシーによるスコーン作りが始まった。
「まず材料ですね。イギリスさんたちにお出しするものはウェールズさんが既に焼き上げていると思いますので、余りを使おうと思います」
「今更だが、勝手に使って大丈夫なのか?」
薄力粉やグラニュー糖を取り出すヴィシーを眺めながら問いかける。
ウェールズたちのことだから許してくれるのだろうが、無許可では良くないだろうと思った。
「ここに向かう途中北アイルランドさんに出会ったので、その時に確認は取りました。応援してくださるそうで、庭仕事が終わったら見に来てくれると」
無論仕事のできる男ヴィシーはそのあたりをきちんとしているので、なんの躊躇いもなく調理が進められる。
北アイルランドは庭の手入れが一番好きらしく、薔薇には特に愛情を注いでいるようだ。 きっとしばらく戻ってこないだろう。
「へえ、愛されてるねえ」
「失敗したら片付けに巻き込まれますから、きっとその対策ですよ」
「自己肯定感ひっく。イギリスの自己肯定感の高さを見習えよ」
「所詮傀儡政権でしたから、国として自立した皆さんとは天と地ほどの差があります。見習うところは多々あっても、自信を持つことはそれに見合った人に許されること。俗に言う自己肯定感が低い状態であっても、調子に乗らないのならそれが正解でしょう」
淡々と言い切られた価値観の違いに、スコットランドは思わずため息をつく。
ナチスの元で何があったのかは全く知らないし、知れば面倒になるのは火を見るより明らか。
けれども、ヴィシーが余程酷い目に遭い、自信を喪失させられるような体験だったことも明らかだ。
(拗れすぎだろ…)
「…暗い話はやめにして、スコーンを作りましょう」
ボウルの中に入れられた粉ふるいに薄力粉を入れ、取手を持ちふるう。
道具を使えば、片手でもある程度は自力でできるようだ。
「粉をふるってよく聞くけど、なんの意味があるんだ?」
「粉のダマやゴミを取り除いたり、空気を含ませたりといった意味があります。こうした方がふんわり焼き上げることができるんですよ」
「なるほど。いちいち聞いて悪いな、うざかったら無視していいから」
「いえいえ、楽しいですよ」
そういう割には無表情なので、本当に楽しいと思っているかは謎だった。
だが、スコットランドがヴィシーとこんなに話す機会は珍しく、色々と話しかけている。
その間にもヴィシーはテキパキと作業しており、ふるった薄力粉にベーキングパウダーやグラニュー糖、塩などを加えていた。
「…いつも、このあたりの工程で躓くんです…」
ぐっと眉を顰めてヘラを持ち、ヴィシーはボウルにまとめられた粉を混ぜる。
「ぅ…く…」
しかしボウルが動いてしまい、中々上手く混ぜられないようだ。
表面を動かすだけでは均等にすることはできない。
だが大きく動かせば、ボウルを支えられないので動いてしまう。
なるほど、これは躓くわけだ。
「ヴィシー、俺を使えよ」
「で、でも自力でやらないことには…」
「絶対にできないことを自力でやろうとするのは、ある意味バカのやることだ。お前は少し抱え込みすぎてる。簡単なことでもいい、もっと俺らを頼れ 」
「スコットランドさん…」
「俺がボウル押さえてるから、ほら」
「あ、ありがとうございます…」
スコットランドは善意で手伝ってくれている。
それはわかるのだが、やはり自分では何もできないのだと思わされ、結果振り出し。
焼き上げたスコーンは素晴らしく良い出来であったが、人の手を借りねばできないとなると、趣味とは言えない。
やはり読書しかないのだろうか?