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恋花

1 - キンセンカ

♥

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2023年04月12日

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朝、目が覚めると私の瞳には涙が溜まっている。

このところ毎日。

何に泣いているのか夢なのか記憶なのかすらもよく分かっていない。

ただ、心の中にある小さな穴から抜け出すように涙が溢れてしまう。

それはまるで、ひとピース足りていないパズルのよう。

何かを、誰かを探している。

この穴はなんなのか、不思議でたまらない。

何をしても楽しくない。

ただ淡々と生きるだけが私の人生なのかと疑問に思う。

こんな人生ならば生まれて来なければと思ったことすらもある。

私とは何なのか。

ふと、考えてしまう。


「みーなみ!おはよ!」

「おはよう。」

何に対しても無頓着な私は友人関係にも興味が無い。

友達なんて別に欲しい訳でもないしひとりで生活だってできる。

ひねくれてるのではなくただ、楽しいという感情が行方不明なのだ。

「みなみってさーほんとに!愛想悪いよね〜」

「りさが勝手にそう思ってるだけでしょ。」

りさみたいな人間は脳内がお花畑状態で誰と仲良くした方がいいかすらも間違えている。

不思議な子。

第一印象はそれだった。

彼女は何に対してもばか真面目でとにかく全力でやれば大丈夫だと思っているような子。

好きなタイプでも苦手なタイプでもない。

というか、私に好き、嫌いなんてもの無いのかもしれない。


「好きです!付き合ってください!」

初めて男の子に告白された。

名前も顔も知らない見知らぬ男の子。

学年章には私と同じⅡのマークがついている。

2年生だ。

この場合知らないなら断るのが普通なのかもしれないが断る理由も無い私。

「いいですよ。」

そう一言返事をして校舎に戻ろうと一歩足を出そうとした時。

「えぇぇぇぇぇぇ!」

大きな声で驚く彼がりさのように不思議で目が離せなくなっていた。


「俺のどんなところが好きなの!?」

そう聞かれたが別に好きなところなどない。

どう答えればいいのか迷ってしまう。

「えっと、元気なところ。」

数日間一緒に過ごしてみて分かる。

彼は凄く元気で明るくて優しい。

ただ、やはり好きという感情はどうしても湧かなかった。

何がいけないのだろうか。

彼のどこが、そんなに足りないのか。

自分でも疑問で仕方がなかった。

だが、彼を見ていると昔の記憶が時折ふっと蘇ることがある。

あの子は誰なの。

私の事を優しい声で呼ぶキラキラしたあの眼差し。

なぜ私に手を差し伸べているのか理解ができない。

まるでこの感情の無い地獄から助けてくれるかのように私に手を差し伸べるあの子。

いつか会ってみたい。会いたい。

誰かに会いたいと思ったのは今のが初めてだった。


「え?!みなみそのピアスの穴どうしたの?!」

かなた。私の付き合った人の名前。

誰かわからず承諾したので友達が彼のことをなんと呼んでいるのか耳を傾けていた。

友達は皆かなたと彼を呼ぶ。

かなたくんという人は最初付き合ってみたらただの元気ないい人だったが今となっては私に沢山のことを経験させてくれる人。

このピアスの穴も彼が開けてあげるとピアッサーでやってくれた。

痛かったけど初めてのピアスに少し戸惑ってしまい次第に痛さなど感じなくなった。

その後もかなたは私に煙草、お酒、性的行為などの遊びも教えてくれた。

私はかなたに教えて貰ったことを全て行った。

りさとも縁を切りかなたの周りの友人と仲良くするようになった。

かなたの教えてくれた遊びは全て私の心の穴を埋めてくれる道具となった。

それに酔っている時だけは何もかも忘れられる。

だけど酔いが覚めてしまえばそれはまた私の心に穴を開ける。

かなたに教えて貰った遊びは全て抜け出せないもので手放せなくなっていた。


とある日。

それは平凡な日でかなたとのデートの日だった。

改札を通り電車に乗ろうとホームで待っていると彼は突然現れた。

私の横に並ぶ彼。

無意識だったんだろう。

その時私の感情は動き始める。

彼を見た瞬間心臓の音が速くなったのが分かる。

顔が赤くなる。

あぁ、これが好きという感情。

ぴたりと私の心に空いた穴に埋まっていく。

「あの、!霜野 茉白くん?」

勝手に口が動いていた。

「そう、ですけど。って、朝原 美波ちゃん?!だよね?」

覚えててくれてた。

どうしよう。好きが止まらない。


その日ましろ君と一日中話していた。

かなたには連絡も入れ無かったから沢山電話が来ていたがそんなことどうだっていいくらいに彼に夢中になってしまう。

彼の鞄から見える栞。

「それ。」

「え?この栞?」

「それ私があげたやつ。」


10年前。

「ましろ君。本当に行っちゃうの?」

「うん。仕方ないんだ。僕だってみなみちゃんと離れたくないよ〜…。」

当日7歳の私たちに小さな頃から一緒だった子が突然引っ越すのはどうしても受け入れたくない現実だった。

7歳でも恋はする。

初恋だった。

その時私があげたのがキンセンカの栞。

綺麗に庭に咲いていたキンセンカを押し花にしようと提案してくれた母と作ったものだ。

ましろ君と離れてから3年もしたら彼の存在は頭の中から消え去っていた。

あの子の名前は?あの子の顔は?あの子の声は?

というか、あの子って誰?

そんな風に私の記憶から消えていった彼。

もう思い出すことなど無いと、思っていた。


数日後私は学校でかなたに別れを告げた。

勿論止められたし口喧嘩にもなった。

学校側にはお酒や煙草の事は知られていない。

バレてもいないのにわざわざ公表する必要など無い。そんなことをするのはただの馬鹿だと思う。

かなた達が先生に言うかと言われると絶対にしないはずだ。

なぜなら言ってしまえば自分達もバレるから。

りさとは仲直りをして今でも仲良くしている。

それが高校3年生の秋。9月だった。

まだ少し暑いと感じる季節。

ましろ君と公園へ出掛けた時の事。

公園の花壇にはキンセンカが咲いている。

「わぁ!キンセンカだ!」

「そうだね。綺麗だ。」

キンセンカの花言葉は「初恋」なんだよ。ましろ君。

私の初恋がどうか、実りますように。

私達が付き合うのは少し後のお話です。

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