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午前六時。
街の端にある、灰色のビル。
その最上階に、BPD本部はある。
窓の外はまだ薄い朝靄。
その中で、彼女、
──BPD第3現地対策班所属、
蓮 飛楽睦(はす とらむ)は、
いつも通り、白い隊服の襟を立てていた。
「おはよー!今日も元気に退治いっくよー!」
「……お前、朝からテンション高すぎだろ」
無線を繋ぎながら呆れる班長に、
彼女はにかっと笑ってみせる。
笑顔は、緊張をほぐすための癖だ。
本当は、いつも少しだけ怖い。
獣が現れるたび、自分の“普通の生活”が壊れそうな気がするから。
でも、任務中はそんな顔、誰にも見せない。
だから今日も元気に、笑ってみせる。
現場は、郊外の住宅地。
朝の通勤時間、薄く白い霧が漂う中、
黒い影が路地の奥に見えた。
「反応あり。獣胞濃度──レベルD。鎮圧、開始します」
仲間の声がイヤーピースから響く。
彼女は防護マスクをつけ、銃を構えた。
視界の先、毛並みが揺れた。
獣の瞳と、ほんの一瞬、目が合う。
その奥に映ったのは、
どこか“哀しみ”にも似た、紫の光。
(……やだな)
誰かが、助けを求めてるように見えるのは。
銃口が震えたその瞬間、
別班の隊員がトリガーを引いた。
乾いた銃声。
静寂。
彼女は息を吐き、空を見上げた。
夜。
任務を終えた彼女は、アパートのドアを開けた。
「おかえり」
柔らかい声が迎えてくれる。
白いシャツの袖をまくって、食卓に並ぶ夕飯を整える人。
尾憶 朱音亜(おおく すねあ)。
薬剤師、26歳。
「ただいま。今日も忙しかった?」
「うん、まあね。お客さんより薬棚と会話しよった気がするけど」
ふっと笑いながら方言が混じる。
その小さな違和感が、彼女は大好きだった。
朱音亜は、彼女の仕事を「警備関係」とだけ聞いている。
それ以上は、何も知らない。
だから彼女も、何も言えない。
彼の前では、ただの“普通の女”でいたかった。
「……ありがと、すねあ。帰る場所があるって、やっぱりいいね」
箸を持ちながら、彼女は笑った。
彼も、少しだけ笑って答えた。
「そねーこと、言うちゃいけん。帰るとこは、ずっとここじゃけえ」
その言葉を聞いて、
胸の奥が少しだけ痛んだ。
なぜだろう。
今日は、彼の瞳が少し赤く見えた。
それが──“始まり”だった。