「涼」
呼び掛けると、彼はようやく顔を上げた。俺達のやり取りを見て憔悴したのか、その眼にいつもの光はない。
うざったいぐらい明るい奴だと思ったのに。
あれは全て幻想だったのかと思うほど、今の彼は別人に見えた。
「俺に謝りたいことって、“これ”だった?」
苦しそうな表情を見たら、何も考えず、素朴な疑問として投げ掛けてしまった。不意に口を突いて出た……これはある意味、さらに彼を苦しめるものになるかもしれない。
けど訊かずにはいられない。
「准さん、……」
涼はなにか言いかけたが、やはり俯いて口を閉ざす。
もう、どれだけ待っても何も返ってこなかった。
「行くぞ、成哉」
遠くで痺れをきらした創の声に、涼はビクッとして。次いでこちらを見たものの、会釈してから去っていく彼の後を追った。
一秒が一分のように感じる、というのを久しぶりに味わった。時間も何もかも、彼と一緒に目の前から消えていく。
その後ろ姿は本当に小さく、弱々しく見えた。