夕方、ロビーの空気が少し落ち着いたころ。
「律くん、今日もお疲れさま」
穏やかな声とともに現れたのは、柊木琴音だった。
律の表情がわずかに緩む。
「柊木先輩。お疲れさまです」
自然なやり取り。その柔らかい雰囲気は、華の知らない一面だった。
「今日の研修はどう? 華さん、頑張ってる?」
琴音が微笑んで尋ねる。
律は一瞬だけ華を見やり、「……まあ、少しずつ慣れてきてます」と答えた。
その言葉に胸が高鳴るのと同時に、華は苦しくなった。
――琴音に向ける律の声は、やっぱり自分とは違う。