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ああ、もうこのお化け屋敷のシーン、最高でした……!柊吾さんの強がりながらも震えてる感じが本当に可愛くて、でも瑞樹さんが「演技じゃなかったんですね」って確かめるように言うところでグッときました。そして腰に手を回して引き寄せる流れ、読んでて思わず息を止めちゃいましたよ。薄暗い中で体温と柔軟剤の香りが伝わってくる描写が生々しくて……柊吾さんが「この時間が終わらなければいいのに」って願う気持ち、すごく分かります。かんなさんの心理描写、毎回繊細で素敵です🌷
チュロスを食べ終え、手についた甘いシナモンシュガーをウェットティッシュで丁寧に拭い去っていた、まさにその時だった。
「柊吾さん、次はあそこに行ってみませんか?」
隣からかかった瑞樹の爽やかな声を追って、視線を案内板の指し示す方向へ向けた瞬間――柊吾の動きが、凍りついたようにピタリと止まる。
視界に飛び込んできたのは、夏の陽光を拒絶するかのように異彩を放つ一角。黒く塗装された不気味な洋館の看板には、まるでドロッと垂れ落ちる血のような禍々しい赤い文字が躍っていた。
「あ、あの! せっかく海沿いに来たんだから、もっと景色のいい観覧車とか……ほら、あっちのシューティングゲームもすごく楽しそうですよ!」
必死に別の方向を指差し、引きつりそうな顔に必死で笑みを貼り付けて誘導を試みる。
けれど瑞樹は、案内板と動揺を隠しきれていない柊吾の顔を見比べると、楽しそうに目を細めた。
「中は涼しいでしょうし、せっかくだから行きましょう」
「いや、でも僕、別に、そういうのは……」
「苦手ですか?」
試すような、けれどどこまでも穏やかな声で尋ねられ、柊吾は言葉に詰まった。
素直に苦手だと言ってしまえば済む話だ。けれど、道中で感じていた男としての引け目や「頼りないと思われたくない」という小さな意地、そして何より、瑞樹がどこか嬉しそうに自分を見つめているのが伝わってきて、どうしても弱音を吐き出せなくなってしまう。
「……べ、別に。大丈夫です」
「本当ですか?」
「大丈夫です。これくらい、平気ですから」
「分かりました。じゃあ、行きましょうか」
絶対に見透かされているという予感はあったが、自分から言った手前、もう後には引けなかった。
必死の抵抗も虚しく、重々しい扉の向こうへ足を踏み入れる。冷房が効きすぎた異様なほど薄暗い館内に一歩侵入した瞬間、柊吾の身体は全身の毛穴が開くような緊張で強張った。
足元で不吉に軋む床の音。どこからともなく低く響く女の啜り泣き。曲がり角を曲がるたびにゆらりと不気味に蠢く陰影。
その一つひとつに「ひっ」と短い悲鳴を喉の奥で押し殺し、情けないほど肩を竦めて縮こまる。
暗闇の中でも平然とした足取りで進む瑞樹の背中を見失うまいと必死で追いかけ、気づけば無意識のうちに相手のリネンシャツの袖口を固く握りしめていた。
「柊吾さん、足元、気をつけてくださいね」
「わ、分かってます……っ」
強がりながら握りしめる指先にギュッと力を込めた、まさにその瞬間だった。
通路の壁際、ただの装飾だと思っていたボロボロのマネキンが、ギギギと不穏な金属音を立てて突然こちらへ首を跳ね上げてきた。
「わっ……! だ、誰かいる……!」
あまりの恐怖に跳び上がり、柊吾は反射的に瑞樹の胸元へと抱きつくように顔を押し当てていた。強く目を瞑り、指先で相手のシャツをくしゃくしゃに掴んで震える。
頭上から、瑞樹の低く落ち着いた吐息が降ってくる。
「柊吾さん、大丈夫ですよ。ただのマネキンですから」
分かっている。分かっているのに、次の瞬間、壁際に吊るされていたボロボロの人形が、ギギギ……と不吉な音を立てて突然こちらへ首を跳ね上げてきた。
「ひぃっ!?」
柊吾は情けなく跳び上がり、気づけば反射的に瑞樹の腕へしがみついていた。恐怖でぎゅっと目を瞑り、指先が瑞樹のリネンシャツをくしゃくしゃに握りしめる。
一拍遅れて、自分が何をしているのかに気づいた。
(しまった……っ、また情けない姿を見せて……!)
慌てて離れようとした。けれど、足が竦んでしまって動かないうえに、怖くてどうしても目が開けられない。
その頭上で、瑞樹が小さく息を吐いた。
「……あのリアクションは、やっぱり演技じゃなかったんですね」
「えっ……? い、今、何か言いましたか?」
恐怖と自分の激しい心臓の音で耳が塞がれ、よく聞き取れなかった柊吾が涙目で顔を上げる。瑞樹は眼鏡の奥の瞳を柔らかく細め、首を横に振った。
「いえ。なんでもないです。それより、こうした方が怖くないですよ」
そう言うや否や、肩に置かれていた瑞樹の大きな手が、するりと柊吾の腰へ滑り落ちた。
ぐっと強固な力で引き寄せられ、隙間なく身体が密着する。
「っ……!」
鼻先をかすめる、清潔な柔軟剤の香り。薄暗がりの中でもはっきり伝わってくる、瑞樹の男らしい体温と力強い骨組み。耳元に触れそうなほどの至近距離から響く低く落ち着いた声が、お化け屋敷の冷気を一瞬で塗り替えていく。
腰に回された確かな手つきは、優しくも逃げ場を塞ぐようにしっかりと柊吾を抱き留めていた。
いつお化けが飛び出してくるか分からない恐怖と、肌が触れ合うほどの密着から伝わる甘い熱への動揺が混ざり合い、頭の中が沸騰しそうになる。早鐘を打つ自分の鼓動が瑞樹に伝わってしまうのではないかと、別のパニックが襲った。
(怖い……。めちゃくちゃ怖いのに……)
瑞樹の腕の中にすっぽりと収まった圧倒的な安心感と、身体の芯が痺れるような甘い刺激。
こんなに怯えているはずなのに、心のどこかで――この薄暗い時間がずっと終わらなければいいのにと願ってしまう自分がいた。
#ふかいわ
junp_Sn-Fk.
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#裏切り