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(俺は死んでも真似できないな)
どう足掻いても手に入れられなかったというならばまだしも、なんとかすれば真衣香が手に入るかもしれないという状況で、彼女の幸せを優先できるかといえば残念ながら答えはノーだろうから。
「こんなふうに、ここ、舐めたりされた?」
次は太ももの内側にキスをする。
「さ、されてない、触られただけ」と、真衣香は大きく首を横に振った。
触られた”だけ”と表現することに納得はできないが、残念ながらとやかく言える立場でもない。
「こっちは? 指入れられてない?」
それにはさすがに、大きく身体を反らせて驚きを見せた。
「そ、そんなことされてない! タイツの上から、す、少し……」
「へぇ、マジで」
目的があったにせよ、好きな女を前に絶妙な匙加減で、きちんと最後までコントロールしてみせたのか。
「悔しいけど、今はまだ負けてるな」
「……え?」
「ううん、こっちの話。それよりも」
八木への罪悪感や、それを差し置いた勝手な嫉妬。全てをとりあえず置いておいて。
「お前どっか痛くない? 身体は辛くない?」
「え? ど、どこも、何も」
「良かった」
微笑んでキスをしたなら、驚いたように真衣香は声を飲み込んだ。
「もう一回してもいい?」
「……え、してもいいって、何……」
訳がわからないといった様子の真衣香を見て、坪井は胡散臭いと言われそうな笑顔を貼り付けて言う。
「もちろんセックス。お前を今から抱いてもいい?って確認してるの」
「え、え、でも、今って朝で」
わかりやすく目が泳いでいるし、顔が赤くなっていくし。身体も熱くなってきている。
嫌になるくらい可愛い。
「朝だから? 何か問題ありそう?」
「あ、明るいよ……電気消してても、その」
「だからいいんじゃん」と、坪井は真衣香に深く口付けた。そのまま首筋、鎖骨、胸元と順に唇で辿っていく。
「恥ずかしい……」
涙まじりの声に、昂り喉が鳴った。
「恥ずかしそうなお前の顔好きなんだよね」
優しく言ったつもりだけれど、そう聞こえたかは定かではない。
だからせめて触れる時にはこれ以上ないってくらいに優しく優しく大切に触れていよう。
思いながらも触れる肌のその愛おしさに飲み込まれていくように、奪われていく理性。抗うけれど、どうにも難しい。
――と。八木のように、うまくはいかないけれど大切にしたいと思って。
自分なりに、もう二度と傷つけたり裏切ったり嘘をついたり。そんなことがないように、精一杯大切にしたいと。
そう思っていた。