テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「でも、先輩」
「マスター」
「ハハッ、マスター。直美をカウンターの外には出さないでよ?それは電話でも頼んだだろ?」
「ちょっと……ハルくん……先輩っていうのだけはわかったけど、もう少し詳しく教えてくれる?」
「うん?仕事したいって、直美が言っていたから考えた。仕事っていったって、前みたいに商社でフルタイム勤務っていうわけにはいかない」
それはわかっている。
亜優もまだ小さいし、私と夫どちらの実家も関西だから頼れる親もいない。
「通勤時間も、勤務時間や勤務日の融通がきくのは知り合いのところが一番やろ?それに、どこの誰と一緒に直美が働くのか分からんような仕事は、俺が嫌」
私は夫の言葉に、自分の呼吸が浅くなった気がした。
亜優が生まれてからハルくんは……こういうところがある。
「ここやったら、マスター夫妻を俺がよく知っているから、その点が安心。直美と付き合っている時にわざわざ連れてくるほどの店でもなかったけど、社会人になってからよく通っていた。俺のアパート、ここから近かったやろ?」
それは覚えている……
「コーヒーは自信あるよ。どうぞ」
「……ありがとうございます」
「で、ここがええけど、接客は最低限にしてもらわないと、直美がどんな客に声かけられるかわからないからな。直美は勤務時間中、カウンター内でしか仕事はするな」
はっ?
コーヒーカップに伸ばしかけた手が、中途半端に止まる。
「溺愛っていうやつ?」
「そんな上っ面の既成の言葉で言い表せないですよ」
「アハハッ……直美さん、愛されているねぇ。カウンター内だけで、十分仕事はしてもらえるから、よろしく」
「…………」
「直美?心配せんでも、俺も営業の途中で立ち寄ったりするから」
「あ……そうじゃなくって、何もしないうちに決まったなって……ビックリ……」
ハルくんとマスターはニコニコと談笑し始めたけれど……男の人は、これを溺愛と思うの?
私はそういう思いが頭をグルグルとして、マスターが自信あると言ったコーヒーの味が全然わからなかった。