テラーノベル
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夫の言っていた通り、お隣の音と声は場合によって聞こえるくらいの家。
車1台が置ける駐車場のある建売住宅は、建ぺい率いっぱいに建っている。
互いに面する壁には、玄関や階段の小さな窓がある。
もちろんプライバシーに配慮して、窓の位置はズレているから窓から見えるのは隣の外壁だけれど、音は漏れる。
中西さんの前に住んでいた人が大きな声で電話で話すのは、うちの玄関の小窓を開けているとよく聞こえていた。
うちが注意しないといけないのは千愛の声と階段の駆け降りだけど、中西さんにも子どもがいるから少し安心だわ。
その数日後から、朝の決まった時間、登校前に亜優ちゃんがぐずる声が聞こえてくるようになった。
「亜優~行くで。帰ったらたこ焼き、焼き焼きする?」
とか
「今日はママのビュンビュン自転車で、おやつ買いにいこか?」
とか
「帰ったら、ばぁばに亜優が電話してな」
とか…玄関のドアを開けてから言っているのでよく聞こえてくる。
奥さんは家族には関西弁のようね。
今日も
「亜優、靴、反対…あははははっ…ソレ…わざとやん。千愛ちゃんが待ってはるよー」
と全くイライラを感じさせず、余裕のある奥さんは偉いわ…と、娘がランドセルを持って靴を履くのを見ながら思う。
「おはようございます。千愛ちゃんお待たせしました!」
「亜優ちゃん、おはよー」
「おはよ!千愛ちゃん、公園まで走る?」
ママと手を繋いで家から出て来た亜優ちゃんは、千愛を見るとママの手を放して千愛に駆け寄る。
大きなランドセルが体より大きいのを見ると、1年前の千愛を思い出すわ。
「走らないよ~行ってきます」
「はぁい、お願いします。いってらっしゃい」
亜優ちゃんは千愛に懐いてくれているけど、まだまだママに公園まで来て欲しいようで、私は家の前で3人を見送った。
そして……聞こえてくるのは、朝の母子の会話だけではなかった。
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