テラーノベル
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桜は、ちゃんと散った。
それだけで、俺は泣きそうだった。
あんなに何度も春を繰り返してきたのに。
何十回も、何百回も同じ季節を歩いてきたのに。
──今年の春だけは、ちゃんと先に進んでいる。
教室の窓辺で、俺は静かに目を閉じた。
頬に感じるあたたかな陽射しも、隣の席から聞こえてくるくすぐったい笑い声も、
全部が“当たり前じゃない”って、今ならわかる。
ループの中で見た無数の別れ。
ないこが死ぬたびに崩れた世界。
繰り返す時間は、まるで永遠みたいで、
でもそのたびに、確実に俺の心は削れていた。
だけど――
ないこは、最後に「生きる」ことを選んでくれた。
“自分の意志”で。
“俺の想い”を受け取ったうえで。
あれから、世界は壊れなかった。
何度も見てきた“終わり”は来なかった。
もう、戻ってきたりしない。
もう、時間は巻き戻らない。
それが、俺たちの願った“本当の春”だった。
「なあ、りうら」
後ろから声をかけられて振り返ると、
制服の襟をちょっと曲げたまま、ないこが立っていた。
「ん?」
「今日、帰り寄ってく? あの、駅前のカフェ……ほら、初めてループした春に、俺がコーヒー吐き出したとこ」
「……ああ、あそこか」
俺は吹き出しそうになるのをこらえて、肩をすくめた。
「あん時はすげぇ顔してたな」
「うるせぇ」
ないこはわざとらしくそっぽを向いたけど、
耳まで真っ赤なのはちゃんと見えてた。
俺たちの間に流れる空気は、以前とは違う。
過去も痛みも、ふたりだけが知ってる秘密みたいに包まれてる。
「なあ、りうら」
「ん?」
「生きてて、よかったな」
その言葉が、すべてを肯定してくれた気がした。
「……ほんとだよ」
そして、心の中で静かに答えた。
愛してる。
君が選んでくれたこの未来ごと、何度でも。
風が吹いた。桜がひらひらと、もう散りかけた枝から舞い落ちる。
それはどこにも戻らず、ただ前へと流れていった。
──ループのない春は、こんなにも優しい。
僕らの物語は、今ようやく“始まった”のかもしれない。
end
ここまで読んでくれてありがとうございますた!
これからテスト期間に入りますので、投稿ができなくなります!ご了承ください!
コメント
2件
え...まじですごい... テスト期間了解!頑張って!