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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第111話 〚離した手〛
― 海翔視点 ―
階段の上は、
少し風が強かった。
夕方の空気。
町並みが、
静かに広がっている。
澪が、
一段踏み外した。
一瞬。
考えるより先に、
体が動いた。
手首を掴む。
力は、
最小限。
でも、
離さない。
「危ない」
それだけ言う。
声が、
思ったより低かった。
澪が、
ちゃんと立ち直る。
転んでない。
大丈夫。
――確認。
それで、
すぐに手を離した。
……離した理由は、
一つじゃない。
長く掴んでたら、
澪が驚く。
怖がるかもしれない。
それに――
俺の方が
おかしくなりそうだった。
手の感覚が、
残ってる。
細い。
温かい。
そのままにしてたら、
守るじゃなくて、
繋ぐになる。
今は、
それを選ばない。
澪が、
「ありがとう」って言った。
顔が、
赤い。
俺は、
前を見る。
視線を逸らす。
耳が、
熱い。
後ろの方が、
やけに騒がしい気がした。
でも、
振り向かない。
澪の歩幅に、
合わせる。
近すぎない。
遠すぎない。
触れない距離。
手を離したのは、
拒んだからじゃない。
怖かったからでもない。
大事だから。
それ以上でも、
それ以下でもない。
理由は、
言葉にしない。
言葉にしたら、
崩れる気がした。
この距離が。
この帰り道が。
だから、
俺は何も言わない。
ただ、
一緒に歩く。
それで、
十分だと思ってる。