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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第112話 〚触れなかったはずの手〛
― 澪視点 ―
家に着いて、
ドアを閉めて。
靴を脱いで、
一息ついた。
それなのに。
なぜか、
手首が気になる。
触れていたのは、
ほんの一瞬。
助けてもらっただけ。
それだけなのに。
もう、
掴まれていない。
今は、
誰の手も触れていない。
それなのに――
温度だけが、
残っている気がした。
(……変なの)
自分で思う。
でも、
どうしても
忘れられない。
強くなかった。
引き寄せる感じでもない。
ただ、
「止める」ためだけの手。
なのに。
胸の奥が、
じんわりして。
顔が、
少し熱くなる。
海翔は、
すぐに手を離した。
必要以上に、
近づかなかった。
それが、
なぜか嬉しかった。
触れなかった時間の方が、
長いのに。
その距離の方が、
ずっと残っている。
(守られてた)
そう思う。
でも――
縛られてない。
そのバランスが、
心地よかった。
布団に座って、
手首を見る。
何も変わっていない。
赤くもない。
跡もない。
それなのに、
覚えている。
触れなかったはずの手の温度を。
言葉にしたら、
壊れそうで。
誰にも言わない。
ただ、
今日の帰り道を
思い出す。
少し遠回りしたこと。
夕方の階段。
町並み。
転びそうになった瞬間。
そして――
何も言わずに
離された手。
胸の奥で、
小さく思う。
(……また、一緒に帰れたらいいな)
理由は、
まだ分からない。
でも。
その温度だけは、
ちゃんと覚えていた。
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