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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第28話 〚息が詰まる優しさ〛(澪視点)
「澪、可愛いよね」
その言葉は、
褒め言葉のはずだった。
実際、
悪口じゃない。
責めてもいない。
……なのに。
胸の奥が、
ぎゅっと縮んだ。
(……苦しい)
理由が、
すぐに分からなかった。
教室の空気が、
変わったのは分かる。
視線が、
一斉に集まって、
すぐ逸れていく。
私は、
何も言えなかった。
「ありがとう」
そう言うべきだったのかも、
しれない。
でも、
声が出なかった。
息が、
浅くなる。
(……なんで)
褒められてるだけ。
それなのに、
心臓が静かに拒否している。
私は、
前を向いた。
後ろからの視線が、
刺さる。
真壁恒一の視線。
まっすぐで、
迷いがなくて、
逃げ場がない。
(見られてる)
それだけで、
喉が詰まる。
悪い人じゃない。
そう、分かってる。
でも——
“私だけ”を見られるのが、
こんなに苦しいなんて。
(……これ、違う)
頭じゃなくて、
心臓が言っている。
私は、
何もしてない。
ただ、
ありがとうって言っただけ。
それが、
“特別”に変換されるのが、
怖い。
授業中、
文字が目に入らない。
息を吸って、
吐く。
それだけで、
精一杯。
(助けて、って言うほどじゃない)
でも、
一人で受け止めるには、
重い。
ふと、
海翔の背中が見えた。
何も言わずに、
前を向いている。
それだけで、
少し呼吸が戻る。
(……あ)
私は、
やっと分かった。
安心って、
「優しくされること」じゃない。
“逃げられる距離”があること。
“見られすぎないこと”。
褒められても、
近づかれても、
選べないなら——
それは、
苦しい。
チャイムが鳴った。
私は、
ゆっくり立ち上がる。
まだ、
どう伝えればいいか分からない。
でも——
心臓は、
はっきり言っていた。
「これは、
安心じゃない」