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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第29話 〚話す先を選べないまま〛(澪視点)
放課後。
机の中を整理しながら、
私はまだ、さっきのことを引きずっていた。
褒められただけ。
悪いことは、何もされていない。
なのに、
胸の奥の違和感が、消えない。
(……これ、誰かに話すべき?)
でも、その問いの先で、
すぐに止まってしまう。
えまなら、
すぐ怒ってくれるかもしれない。
「それ嫌だよ」って、
代わりに言ってくれそう。
しおりやみさとも、
ちゃんと聞いてくれる。
りあも、
きっと真剣に考えてくれる。
でも——
(大げさじゃない?)
褒め言葉を、
怖いって感じるなんて。
相手は、
悪気があるようには見えなかった。
それを話したら、
“被害者ぶってる”って思われないかな。
(……違う)
頭では、
そう否定できる。
でも、
口に出す勇気が出ない。
海翔のことが、
一瞬、頭に浮かんだ。
でも、
すぐに首を振る。
(……巻き込みたくない)
守ってもらうのは、
もう十分。
それ以上を、
背負わせたくない。
教室を出て、
廊下を歩く。
いつもより、
足音が小さい。
(私、どうしたいんだろう)
助けてほしい、
というほどじゃない。
でも、
一人で抱えるには、
少し重い。
“何かおかしい”
その感覚だけが、
はっきりしている。
窓に映った、
自分の顔を見る。
困ってる顔。
でも、
泣いてはいない。
(……今は、まだ)
今は、
言葉にしなくていい。
そう、
自分に言い聞かせる。
でも——
心臓は、
静かに鳴っていた。
「忘れるな」
「これは、違和感だ」
私は、
その音だけを、
胸にしまった。
まだ、
誰にも話さないまま。