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Episode 6:向き合う覚悟
覚悟「じゃあ、また明日」
収録が終わり、いつものように控室を出ようとしたとき、神谷はふと足を止めた。
ドアの前に、自由が立っていた。
入野「……」
言葉を交わすのも気まずい。
でも、もう避けられない。避けるべきじゃない。
神谷は深呼吸をして、覚悟を決めた。
神谷「何か用か?」
入野「用は……ちょっと、あるんですけど」
自由は照れたように少し肩をすくめた。
その姿が、今までにないほど可愛らしく感じて、神谷はまた心の中で息を呑む。
入野「これ、もらってください」
差し出されたのは、小さな袋だった。
神谷「お前、なんだよ」
入野「……いや、特別なことじゃないです。ただ、神谷さんにお礼を言いたくて。いつもお世話になってるし、先輩として頼りにしてますし」
言葉だけなら、いつも通りだった。
だがその表情には、どこか真剣さが見え隠れしていて、神谷は思わずその袋を受け取った。
神谷「……ありがとう」
そして、なんとなく目をそらした。
自分でも分かっていた。
これまで自分が自由に感じていたことと、今抱えている“感情”が、全く違うものだということに。
そのまま、自由は少しだけ黙った。
彼の目が、まるで神谷の心を見透かすようにじっと見つめてくる。
入野「……神谷さん、今、俺のこと、どう思ってますか?」
その言葉に、神谷は一瞬息が止まった。
心臓が、何度も跳ね上がるような感覚を覚える。
神谷「どうって……」
入野「もし、少しでも迷ってるなら、無理に答えなくてもいいです。でも、俺は……神谷さんに、ちゃんと気持ちを伝えたかった」
その言葉が、強く、そして優しく響いて、神谷はしばらく黙っていた。
その沈黙の間、自由はじっと待ち続けた。
神谷の答えを、少しも急がせることなく。
神谷はその目を見つめることができなかった。
視線を下ろして、なんとか口を開いた。
神谷「……俺、昔から、こういうことは苦手で」
入野「わかります。無理に答えを出さなくてもいいです」
けれど、その優しい言葉に、神谷は心の中で少しだけ答えを出したような気がした。
(これ以上、避けてはいけない)
そして、顔を上げる。
神谷「答えが出るのには、少し時間がかかるかもしれないけど……だから、今は焦らないでくれ」
自由は穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。
入野「わかりました。焦らないで待ちます」
その瞬間、神谷は自分の中で“何か”が少しだけ軽くなった気がした。
彼の想いに、少しずつ応えられる日が近づいていることを感じながら――