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引き続きシャーリィ=アーキハクトです。ラウゼン=ガウェイン辺境伯との交渉を本格的に開始するために前提条件を整えないといけません。
「ガウェイン辺境伯様、今回の依頼はあくまでも裏社会に関わりがあることであると判断して構いませんか?」
「その通りだ。故にこの場合、私は友人の娘ではなく『暁』の代表と語り合わねばならん」
意を汲んでくれましたね、流石はガウェイン様。やり易い。
「では伺いましょうか。あなた様は私達に何をさせたいのですか?」
「先ずは、そうだな。何処から話すべきか……ここ数年シェルドハーフェンの発展ぶりは目を見張るものがある」
「同意します」
『ライデン社』を悩ませる貴族やギルドの柵とは無縁な街ですからね。その区域の支配者の方針が何よりも優先されるのです。
お義姉様が率いる『オータムリゾート』支配地域ではカジノを中心にギャンブルで栄えるシェルドハーフェン随一の歓楽街になっています。
黄昏?自由が売りですよ。よっぽど変なことでない限り何をしても良いんですよ。
「それで、だ。まあ簡単に言えばその繁栄を自分の手中に納めようと考える輩が帝都に現れ始めているのだ」
「自分は苦労せずに、ですね?」
「その通りだ」
外部勢力の干渉はある程度予測していましたが、思ったより早かったですね。
「その方々は貴族だと推測しますが、理解しているのでしょうか?」
この街では爵位を初めとした身分はほとんど意味を為しませんよ?貴族だと名乗れば拉致されて金蔓にされるだけです。
「理解していないのだろうな。残念だが君の父上や私は変わり者だよ。大半の貴族は特権階級意識が強い。言ってしまえば、民をどのように扱おうがそれは自分達の自由であり、何が起きても責任は伴わないし、自分達は護られていると考えているのだ」
「理解不能です。納めるべき民があってこその君主でしょうに」
だから私は圧政なんて行いません。黄昏の住民に対する税はかなり低いと自負しています。負担を強いるくらいならば産業を興して商業を活発化させるべきです。
「それで、だ。そんな連中の急先鋒と呼べる存在が、ガズウッド男爵家だ。君も知っているだろう?」
「もちろん存じ上げています」
ガズウッド男爵家は、本来アーキハクト伯爵家も属していたレンゲン公爵家の西部閥に属しています。元々貴族の一族と言うわけではなく、多額の献金で爵位を得たタイプです。色々悪どい商売で成り上がったとのこと。
ちなみに帝国は東西南北それぞれに派閥を持つ公爵家が四つ存在し、“四大公爵家”なんて呼ばれています。
「ですが、解せませんね。それは派閥としての動きなのですか?」
レンゲン公爵家を率いるのはカナリア=レンゲン女公爵。若き新鋭で、貴族の中では開明的な方です。私も九歳の頃初めてお会いしました。お母様と同じ燃えるような紅い髪の美人さんであり、理知的で先見の明を持ち合わせている方だったと記憶しています。
当時二十代前半。今は三十代前半でしょうか。少なくともガズウッド男爵を動かしてシェルドハーフェンに干渉するような方ではないと思うのですが……。
「君の疑念は最もだ。まして、レンゲン女公爵の人柄を知る君ならば尚更な。彼女は若くしてレンゲン公爵家を率いて辣腕を振るう女傑。シェルドハーフェンの発展に着目するのは間違いないが、黒い噂の絶えぬガズウッド男爵を動かすとは思えん」
「となると、ガズウッド男爵の独断ですか」
「うむ。ガズウッド男爵家は父親の代に爵位を得たが、シェルドハーフェンの裏社会と密接に関わっていたようだ。独自に動いても不思議ではない」
そんなガズウッド男爵がレンゲン公爵家の派閥に属する理由は、単に立地的なものだとか。
当然レンゲン女公爵の思想に共鳴したわけではないでしょうから、勝手に動く可能性もあると。
「その動きに女公爵様は?」
「彼女ほどの人物だ。当然気付いているだろう。だが今帝国は皇帝陛下が病に倒れられ、皇子殿下方による帝位継承問題で揺れている。レンゲン女公爵もそちらの対応で手一杯だろう」
「皇帝陛下は長くないのですか?」
帝位継承の話が出るくらいですからね。
「残念ながら、余命|幾ばく《いくばく》もないとのことだ」
となれば、今の帝都は全貴族を巻き込んだ権力闘争の真っ最中ですね。第一、第二皇子殿下による帝位争い。ユーシスお兄様は帝位なんかに興味はないから、うまく立ち回りつつ静観しているはず。
「既にガズウッド男爵は幾つかの組織に声をかけて、シェルドハーフェンの実効支配を目論んでいるようだ。君に依頼したいのは、それらの調査と可能ならばガズウッド男爵の息のかかった組織の壊滅だな」
「それはまた、壮大な依頼ですね。うちも抗争を控えているのですが」
「それならば問題はない。ガズウッド男爵が声をかけた組織の一つは、『ターラン商会』だよ。これならば無駄にはなるまい?」
流石はガウェイン辺境伯様。うちとの対立関係を調べましたか。
「『ターラン商会』については確約します。ただ、その他については断言できません」
「構わん、ガズウッド男爵にシェルドハーフェンの流儀を教えてやれば良い。いや、むしろ思い出させてやれ」
「分かりました。以後は……そうですね。進捗などはうちから使者を送ります。領主様への献金だとすれば怪しまれずに済みます」
街の外で商売をするなら、献金も珍しくありません。その辺りはマーサさんに任せるとしましょうか。
「構わん。献金を貰う俗な者だと思われる方が何か都合が良い」
「ただ、辺境伯様にもお願いしたいことがあります」
「何かね?」
これは大事なことです。
「ガズウッド男爵の背後関係を調べてください。いくら女公爵が多忙とは言え、下手をすれば潰されるのです。にも拘らずこんな冒険に出るのですから、必ず後ろ楯があるはず」
元商人でリスクを考えるならば間違いなく後ろ楯が居て、ガズウッド男爵を動かしているはずです。
「ふむ、確かにガズウッド男爵にとってリスクを伴う行動だ。露見しては、派閥内部で押し潰される危険もある。後ろ楯が居ると見るのは間違いではあるまいな」
「その通りです」
ふぅむ、難しそうなお顔をされていますね。
「だが、厳しいな。他の派閥が関わる。下手に刺戟するわけにもいかんからな。レンゲン女公爵の面子もあるから、大々的には動けん。調べるにしても限界はあるだろう」
「承知しています。此方でも探りますから、可能は範囲でと言うお話ですよ」
「うむ、少しでも情報を手に入れてみせよう」
ガウェイン辺境伯様ならば、良い知らせを期待できます。さて、大事なのはここからですね。
「さて、辺境伯様。依頼の内容は理解しました。ここからは大事なお話をしましょうか。報酬は?」
脚を組み、挑戦的な笑みを浮かべるシャーリィ。その姿にガウェイン辺境伯は頼もしさすら感じ、さて用意した報酬を気に入ってくれるかと少しだけ不安を抱いた。