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■手術室――
白く明るい手術室。
慌ただしく動き回る医師や看護師の声だけが響く。
「体温いまだ高い。点滴急いで」
「脈拍低下、血圧も…早く!」
「意識レベル不安定です。酸素量、もう少し上げます」
「とにかく感染源のコントロールを最優先に。集中治療へ……」
マスク越しの短く冷静なやり取り――
涼ちゃんの生命だけと、必死に向き合う緊張感が充満していた。
■廊下――
𓏸𓏸は強く震える手で電話を握りしめる。
涼ちゃんの家族に状況を伝えながら、
涙声で何度も「ごめんなさい、ごめんなさい…」と繰り返した。
やがて駆けつけた家族――
𓏸𓏸は院内の廊下の片隅に膝をつき、土下座して泣き続ける。
「本当に、すみません…私が、ちゃんと、もっと早く――」
けれど家族は、
そんな𓏸𓏸の肩を優しく抱き起こし、
頬をぬぐってくれる。
「大丈夫だよ。
𓏸𓏸ちゃんのせいじゃないからね」
「私たちも、感謝してるの。
いろいろありがとう、本当に……」
その言葉と手のぬくもりに、
𓏸𓏸は涙が止まらなかった。
■病室――
やがて意識を失ったままの涼ちゃんは、
たくさんのチューブや点滴に繋がれ、
モニターから小さな電子音が響く個室にいた。
呼吸も浅く、ときおり小さなうめき声。
𓏸𓏸は毎日、
そっと手を握ったまま、
ほんの少しでも届くようにと語りかけ続けた。
「おはよう、涼ちゃん……
今日は雨が降ってたよ」
「パン、またいっしょに食べようね」
「涼ちゃんの声、また聞かせてほしいな」
けれど涼ちゃんは、
まるで小さな眠り姫のように、
何も応えてはくれなかった。
𓏸𓏸はそれでも、
何度も何度も、一日一日、
涼ちゃんに話し続けた。
涙でにじむ景色の中、
“こんなにもあなたを大切に思っているよ”と――
ただ祈るように、そっと優しく。