翌日、学校が終わると、俺がいつも乗り降りしている駅に向かった。母さんが駅まで迎えに来てくれることになっていたからだ。マナは嫌々俺の後をついて来ていた。そして学校を出てから電車を乗り継いで、約束の場所に着くまでに30分以上もかかってしまった。俺一人ならもっと早く着いていたが、マナがダラダラ歩いていたせいで、倍の時間がかかってしまった。駅のロータリーには、既に母さんが車で迎えに来ていた。
「乗って」
「うん、ありがとう」
母さんに言われて車に乗り込もうとしたけど、マナは相変わらず不貞腐れて、中々入ろうとはしなかった。
「マナ、入りなって」
「――――」
「マナさん、遠慮しないで乗って」
「別に遠慮なんかしてませ〜ん」
「マナっ!」
「えっ!? 何?」
「なっ、何でもないよ。あんまり調子が良くないんだ。つわりがヒドイうえに、風邪も引いちゃってさ」
「風邪? 何で私が?」
不貞腐れているマナは、あからさまに態度が悪かった。
「いいから、早く乗れって!」
「やめろよ! わかったから押すんじゃねえよ!」
嫌々車に乗せられたが、マナの声が聞こえるんじゃないかとヒヤヒヤした。
「これから私の知り合いの産婦人科の先生に会いに行くわ。病院で会うのは難しいから、ファミレスで待ち合わせをしてるの」
「そうなんだ。迷惑かけちゃって、ホントにごめん」
「いいのよ、気にしないで!」
「マナもお礼を言いなよ」
「何で私が?」
「いいから言いなって」
「別にお礼なんて言ってくれなくてもいいのよ。それより、1日も早く処置をした方がいいわね」
「何ですか? 処置をするって?」
「あなたのお父様に知られないうちに、お腹の子をおろすのよ」
「私、おろすなんていっ――」
俺は慌ててマナの口を塞いだ。
「母さん、その話は――今とっても精神的にナーバスになってるから――」
「そっ、そうね」
それから母さんの知り合いの先生が待つファミレスに10分程度で到着した。中に入って行くと、そこには意外にも20代後半くらいであろう若い女性が待っていた。母さんの知り合いと聞いていたので、もっと年齢を重ねたベテランの医師なのかと思っていた。
「お待たせ」
「明石先生、お待ちしておりました」
「忙しいのに本当にごめんなさいね」
「いいえ、先生の頼みとあれば、直ぐにでも駆けつけます」
「ありがとう、助かるわ」
2人の会話を聞いているだけでは、どういう関係なのか全くわからなかった。
「圭太、堀越先生にご挨拶をなさい」
「こっ、こんにちは。明石圭太と申します。よろしくお願いします」