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「雅輝、俺は今現在、誰と付き合ってるんだっけ?」
「俺です……」
唐突になされた橋本の質問を、宮本は不思議に思いながら静かに返事をした。
「俺が好きなヤツは、どこの誰だ? 本名で答えろ」
「……宮本雅輝です」
答えてる間も橋本の両腕は、自分の躰をしっかり抱きしめたままだった。伝わってくる温かさを感じたら、思わず涙腺が緩みそうになる。
「それがわかってるのに、なんに対してくだらないことを考えてるんだ?」
「くだらないことだって、どうしてわかるんですか?」
宮本は横目でちらっと橋本の顔を見てから、すっと視線を逸らす。
「答えは簡単だ。楽しいことを考えていたら、そんな不貞腐れた顔にはならないだろ」
「むう……」
「俺は接客業をしてるからさ。必要以上に、人の顔色を窺っちまうクセがある。だからすぐに、雅輝の変化に気がついたわけなんだけど。これまでやったことで、何か不快に感じるものがあったのか?」
橋本の視線が突き刺さるように、自分に注がれているのがわかった。
「不快には、感じてなかったんです」
「だよな。途中までいい雰囲気だったし」
「俺にしたことを、他の人にもしてるんだろうなって思ったら、なんていうか。複雑な気分になっちゃって……」
宮本がたどたどしく口走ると、橋本の躰から手荒な感じでソファの上に戻されてしまった。いきなりのことで、声をあげる暇もなかった。
「何だよ、やっぱりくだらないことじゃねぇか」
吐き捨てるように告げられたセリフに、宮本は躰をびくっと震わせた。大好きな橋本を怒らせてしまったと思ったら、居ても立っても居られないのに、謝る言葉すら出てこない。
「終わった過去にこだわったところで、今更どうしようもないだろ」
橋本は笑いながらグーパンチで、宮本の頬をぐりぐりする。
いつものように頭を撫でず、痛い攻撃を繰り出す橋本の行動が謎すぎて、宮本の頭の中に疑問符が浮かんだ。
「陽さん……?」
「雅輝のその考え、つい最近まで俺が思っていたことなんだ」
「えっ!?」
ぐりぐり攻撃を止めて、優しく頬を包み込んだ橋本の手は、愛おしそうに宮本の顔を引き寄せて、触れるだけのキスをした。隣で座ったままの自分に、橋本は顔を真横に向けてキスしているため、いつもと違う感じがした。
(陽さんの中に舌を入れて責めてみたいけど、今すべきじゃないんだろうな)
触れ続けるキスを受けていたら、角度を変えてもう一度触れてから名残惜しげに離れる。
「雅輝に抱かれると、江藤ちんとはどんなふうだったのかを考えちまって……」
「そんなの――」
「そんなの、考える必要のないことなのにな。頭でわかってたんだけど、どうしてもチラチラ過っちまって。雅輝をもっと感じさせることを、いろいろしていたんじゃないかなんて」
笑ってるのにどこか泣き出しそうな笑みを見て、宮本は迷わず橋本の腰を抱き寄せ、ぎゅっと強く抱きしめた。
「陽さん、ごめんね。ヤってる最中に過去を匂わせるなにかを、俺がしていたせいで悩ませてしまって」
「そのセリフ、まんまお返しする。だけどさ雅輝」
躰に橋本の両腕が回され、同じように抱きしめられた。
「なんでしょうか?」
「お互い、いろんな過去があったからこそ、こうして巡り合えたんじゃないかと思うんだ」
ベルベットのような柔らかい声を耳元で聞いたからか、宮本の中にくすぶっていたモヤモヤした感情が、蒸発するようになくなっていった。
「そうか、陽さんと出逢うための過去」
「その考えに辿りついたら、江藤ちんに嫉妬している自分が恥ずかしくなってさ。終わったことなんだから、しょうがねぇだろ?」
(やっぱり陽さんはすごい。俺よりも先に壁にぶち当たっていたのに、自分で解決できちゃうなんて――)