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美玖が転校してから、一ヶ月が過ぎた。
教室は少しだけ静かになった気がした。
笑い声も、話し声もあるのに、
すみれには、なにかが足りないように感じていた。
放課後、ランドセルを背負ったすみれは、
ひとりで校門を出た。
――となりに、みくはいない。
あたりまえだったはずの風景が、
少しだけ色あせて見える。
その日、すみれは、ひさしぶりにあの神社に行った。
みくといっしょに“お願い”をした場所。
階段をのぼると、前に来たときと同じように、
風鈴が静かに揺れていた。
すみれは、小さな声で言った。
すみれ:「ねえ、みく……元気にしてる?」
答えは、もちろん返ってこない。
だけど、不思議と、聞こえたような気がした。
「うん、元気だよ!」
そんな、明るい声が。
すみれはふっと笑って、目を閉じた。
帰り道、公園に寄ると、夕焼け空が広がっていた。
オレンジとピンクのグラデーション。
その中に、小さな白い飛行機雲がすーっとのびていた。
すみれは、リュックのキーホルダーを指でなぞる。
星の形をした、小さな透明ビーズ。
美玖がつけてくれたこのキーホルダーを見ると、
なんだか胸があったかくなる。
美玖がいない日々にも、ちゃんと、やさしい時間は流れている。
すみれ:「わたし、がんばってるよ。だから――」
――また、いつか会えたときに、笑って話せるように。
その日の夜、すみれはノートを開いた。
「みくといる時間は、わたしの宝物」
そう書いたページのとなりに、新しい言葉を綴る。
「また笑い合える日が来るって、信じてる。」
ペンを置いたすみれは、
そっと空を見上げた。
今日の星は、ひとつだけ光っていた。
でも、どこかでちゃんと見てくれてる気がした。
そのひかりに向かって、小さくつぶやく。
すみれ:「おやすみ、みく。夢で会えたらいいな」
窓の外の空は、しずかに深く、夜へと変わっていった。
つづく