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月例テスト当日。教室は静まり返っていた。
紙をめくる音と、ペン先の擦れる音だけが響く。
内田一輝は問題用紙を一瞥し、内心ほくそ笑む。
(……三十代舐めんなよ)
表向きは17歳だが、中身は修羅場を潜った大人だ。
数学も論理も、取材で鍛えた読解力もある。
最後の一問まで迷いなく埋め、答案を提出した。
翌日。
教室前の掲示板に、成績ランキング表が貼り出される。
生徒たちが群がる中、内田も足を止めた。
最上段。
A+ 内田一輝
満点。
(よし)
声には出さないが、心の中でガッツポーズ。
30代の経験値は伊達ではない。
視線を下へ滑らせる。
A、B、C……。
そして、最下段。
F 1名(数学)
一人だけ。
空気が、わずかに冷えた気がした。
そのとき、教室の扉が開く。
「……F評価の生徒は、放課後、私のところへ来なさい」
サークル先生の声はいつも通り淡々としている。
「補習です」
それだけ言って、去っていった。
補習。
成績が悪ければ補習で改善。
普通の学校なら、ごく当たり前の制度だ。
内田は肩をすくめる。
(エンゲルは大げさだな……)
だが。
教室の空気は、明らかに違った。
さっきまで談笑していた生徒たちが、急に静かになる。
誰も、Fの欄を直視しない。
オリバーでさえ、いつもの笑顔が硬い。
エドワードは視線を逸らし、ルビーは無言で窓の外を見ている。
バブルが小さく呟いた。
「……今回は、数学なんだ」
“今回は”?
内田の胸に、微かな違和感が広がる。
スケルが、かすれた声で言う。
「Fは……怖いよ」
「何が?」
思わず聞き返すと、スケルは口を閉ざした。
エンゲルがこちらを見ている。
その目は、昨日よりもずっと重い。
「言っただろ」
小さな声。
「Fだけは、取るなって」
放課後のチャイムが鳴る。
Fの評価を受けた生徒が、立ち上がる。
その背中を、誰も見送らない。
まるで、存在しないかのように。
内田は眉をひそめる。
(補習だろ? そんなに怖がることか?)
だが、胸の奥で何かが軋む。
森で感じた、あの“理屈では説明できない違和感”。
F。
その一文字だけが、やけに重たく感じられた。