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第三章 氷晶と炎音
第四話 炎の旅芸人 後編
「兄さんは?」
そう言って、
赤髪の青年、シュンタは首を傾げた。
近くで見ると、
なおさら目立つ男だった。
燃えるような赤髪。
少し日に焼けた肌。
真紅の瞳。
背は高く、細身なのに妙にしなやかな身体つき。
異国風の柄のポンチョを無造作に羽織り、
首元では細かな装飾品が灯りを受けて揺れている。
人懐っこい笑顔なのに、
どこか油断ならない。
アロハが吹き出した。
「お前、命知らずだな」
「ん?」
シュンタはきょとんとする。
「この人が誰か知ってるのか?」
そう問われると、シュンタはジュウタロウをじっと見た。
それから肩を竦めた。
「有名人なんは知っとる」
「でも肩書きで人見ん主義やねん」
そう言って笑う。
「……座ってええ?」
返事を待たず、
シュンタは向かいの席へ腰を下ろした。
ジュウタロウは眉を寄せる。
普通ならあり得ない。
自分の前では皆、
遠慮するか、恐れるか、必要以上に気を遣う。
だがこの男は違った。
まるで昔から知り合いだったかのような気軽さで、
当然のように同じ席へ着いている。
「兄さん飲まへんの?」
店員が運んできた酒を片手に、
シュンタが尋ねた。
「飲まない」
「真面目やなぁ」
「……」
「人生損するで?」
アロハが堪えきれず笑う。
「お前に言われたくない奴は多そうだな」
「ひどっ!」
シュンタは大袈裟に胸を押さえた。
酒場の客たちからも笑いが起こる。
暖炉の火が揺れる。
賑やかな空気。
ジュウタロウは小さく息を吐いた。
こういう場所は苦手だ。
騒がしくて、落ち着かなくて、
何より人との距離が近い。
「兄さん、この国の人やろ?」
「……そうだ」
「綺麗な国やなぁ」
シュンタは窓の外へ目を向ける。
雪が静かに降っていた。
「寒いけど」
「死ぬほど寒いけど」
アロハが吹き出す。
「なら帰ればいいだろ」
ジュウタロウが言うと、
「せやけどな」
シュンタは笑った。
「ここでしか見れん景色もあるやろ?」
真紅の瞳が細められる。
「雪原とか」
「白い森とか」
そして
「めちゃくちゃ綺麗な王子様とか」
アロハが盛大に噴き出した。
「はははっ!
お前本当にすげぇな!」
周囲の客たちまで笑い出す。
ジュウタロウは冷えた視線を向けた。
だがシュンタは平然としていた。
「褒めたのに」
「別に嬉しくない」
「もったいな」
肩を竦める姿は、
どこまでも自由だった。
その時
シュンタは運ばれてきた酒を一口飲みながら、ふと思い出したように口を開く。
「それにしても、最近どこ行っても物騒やなぁ」
アロハが首を傾げる。
「物騒?」
「魔物や」
酒場の空気が少しだけ静まる。
北の国では、決して遠い話ではない。
「帝国でも聞いたし」
「西の方でも似たような噂あったわ」
「商人仲間も結構困っとる」
アロハは腕を組む。
「確かに最近は討伐依頼も増えてるな」
シュンタは頷いた。
「なんか嫌な感じするんよ」
暖炉の火がぱちりと音を立てる。
「旅しとると分かるんや。
空気が変わっとる時ってあるやろ?」
先程までの軽い調子とは少し違う。
けれど重苦しくなり過ぎる前に、
シュンタは笑った。
「まぁ俺は商売できたらそれでええんやけど!」
「切り替え早いな」
アロハが呆れたように笑う。
ジュウタロウは黙って二人を見ていた。
不思議な男だと思った。
騒がしくて。
遠慮がなくて。
自由で。
自分とは何もかも正反対だ。
なのに、
なぜか追い返す気にはなれなかった。
暖炉の火を背に笑うその姿は、
この雪国ではあまりにも眩しく見えた。
-–
酒場を出る頃には、雪は止んでいた。
「またな、兄さん!」
後ろから声が飛ぶ。
ジュウタロウは振り返らない。
雪を踏みしめながら歩く。
だが数歩進んだところで、
ふと足を止めた。
そして
「……ジュウタロウだ」
ぽつりと呟く。
数秒の沈黙。
やがて後ろから、
弾けるような笑い声が聞こえた。
「なんや、ちゃんと名前教えてくれるんや!」
隣でアロハが笑う。
ジュウタロウは小さく眉を寄せた。
だが、ほんの少しだけ、
その夜の足取りは、いつもより軽かった。
コメント
1件
いやー、今回のシュンタめっちゃいいキャラしてるわ! ジュウタロウの「近づきがたいオーラ」に物怖じしないどころか、平然と「めちゃくちゃ綺麗な王子様」とか言い放つ度胸、最高すぎる。あの距離感の詰め方が絶妙で、読んでてこっちまで笑顔になったわ。最後にジュウタロウが自分の名前を名乗るところ、めっちゃグッときた。少しずつ心開いてる感じがたまらん! 次回も楽しみにしてる!🔥