テラーノベル
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渉が激怒して教室を飛び出してから数日。東寺田中学校の男子生徒たちの「犯人探し」は、恐るべき速度で収束へと向かっていた。何しろ、瑠衣が他校の女子に漏らした条件がピンポイントすぎたのだ。『頭は飛び抜けていいけど、背が低くて、ひねくれてて、愛嬌が世界一ないクソガキ』東寺田中の生徒で、頭が良い奴はそれなりにいる。だが、そこに「小柄」「ひねくれ者」「愛嬌ゼロ」という最悪なまでのクソガキ属性を掛け合わせたら、該当者は学年に一人しか存在しなかった。
「……おい、嘘だろ」
放課後の教室。いつも通り、自分の席で不機嫌そうに読書をしていた渉の前に、クラスの主犯格たちが数人、神妙な面持ちで集まってきた。
「なんだよ。用がないならそこを退け。馬鹿が移る」
渉は本から目を離さず、いつも通りの可愛げのない毒舌を吐く。しかし、いつもなら「なんだとクソガキ!」と怒るはずの男子たちが、今日ばかりは顔を見合わせ、引きつった笑みを浮かべた。
「いや、さ……渉。お前、瑠衣と……その、付き合ってんの?」
「はあ!?」
渉の口から、素っ頓狂な声が出た。読んでいた文庫本が、指先から滑り落ちて机にバサリと音を立てる。
「何言ってるんだお前ら! 脳みそ腐ってんのか!? 僕があんな変態筋肉ダルマと付き合うわけないだろ!」
「いや、でもさ……瑠衣の言ってた『愛嬌がないクソガキ』って、どう考えてもお前じゃん」
「そうそう。お前、いつも瑠衣にだけ突っかかって顔真っ赤にしてるし、実はツンデレ的なやつだったのか?」
「瑠衣も、お前に足踏まれても嬉しそうに笑ってるもんな……」
「違う!!! 全然違う!!!」
渉はガタッと椅子を蹴立てて立ち上がり、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。だが、頭脳明晰な渉はすぐに理解してしまった。自分の普段の「可愛げのない態度」と「瑠衣への過剰な反応」が、周囲の目には完全に『痴話喧嘩』として補完されてしまっていることに。
「おいおい、みんな。俺の渉をあんまりいじめないでよ」
最悪のタイミングで、聞き慣れた爽やかな声が鼓膜を震わせた。部活帰りなのか、制服の第一ボタンを外した瑠衣が、タオルを首にかけたまま教室に戻ってきたのだ。クラスメイトたちは「うわ、本尊キタ!」と色めき立つ。
「瑠衣! ぶっちゃけどうなんだよ! お前の好きな奴って、渉なのか!?」
男子の一人が直球で尋ねると、瑠衣は困ったように眉を下げ、それから渉のほうをじっと見つめた。その瞳には、いたずらが成功した子供のような、極上の愉悦が宿っている。
「うーん……。俺は本気なんだけど、渉が照れ屋だからさ。あんまり刺激すると、また足踏まれちゃうんだよね」
「やっぱり確定じゃねえか!!!」
教室中が「マジかよ!」「お前らそういう関係だったのか!」と蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
「お前……っ、お前お前お前……!!!」
渉の羞恥心と怒りは、すでに限界を突破していた。自分の仕掛けた『男が好きだと言って断れ』という命令が、まさかこんな形で自分を縛るブーメランになるとは夢にも思わなかった。
「お前ら全員、死ね!!!!! 変態筋肉ダルマも死ね!!!!!」
渉は自分のカバンをひったくると、クラスメイトたちの制止を振り切り、真っ赤な顔のまま教室から脱兎のごとく逃げ出した。背後から「あ、また照れて逃げた!」「渉、分かりやすすぎ!」という声が聞こえてきて、耳まで沸騰しそうになる。渉が逃げ込んだのは、放課後には誰も来ない旧校舎の資料室だった。薄暗い部屋の片隅で、渉は膝を抱えて座り込み、激しく上下する呼吸を整えようとしていた。
「最悪だ……。なんで僕があいつのせいで、あんな変な噂を……っ」
ひねくれた頭で、どうやってこの状況を打開するか必死に計算しようとするが、瑠衣のあの「俺は本気なんだけど」という言葉が脳裏にこびりついて離れない。ガチャ、と資料室のドアが開いた。夕方の隙間風と共に、聞き覚えのある足音が近づいてくる。足が速くて運動神経抜群のあいつが、逃げた渉を見つけるなんて容易いことだった。
「見ーつけた。やっぱりここにいた」
瑠衣が暗がりに目を細めながら、渉の前にしゃがみ込む。
「来るな……! 近寄るな変態!」
渉は膝を抱えたまま、恨めしそうに瑠衣を睨みつけた。愛嬌は微塵もない。しかし、その瞳の端には、悔しさのあまり小さな涙の粒がたまっていた。それを見た瑠衣は、からかうような笑みを消し、少しだけ真面目な顔になって渉の頭を優しく撫でた。
「怒んなって。みんなにバレたのは自業自得だろ? 言い出しっぺは渉なんだから」
「うるさい……! 僕はあんな風にバレろなんて言ってない! お前のプライドをへし折りたかっただけなのに……!」
「俺のプライドなら、お前に『筋肉ダルマ』って罵倒された時点でとっくにないよ」
瑠衣はクスッと笑うと、渉の小さな両手を優しく包み込んだ。
「でもさ、噂が本当になっちゃえば、もう誰も俺に告白してこないし、お前の命令も完璧に守れるだろ?」
「な、何言ってるんだよ……」
「俺、本気でお前がいいって言ったじゃん。これでもう、お前は俺から逃げられないからね、渉」
至近距離で見つめ合う。夕暮れの資料室で、瑠衣の整った顔がすぐ目の前にあった。完璧超人の嘘から始まった包囲網。それに完全に囚われてしまったのは、他ならぬ、ひねくれたクソガキのほうだった。
コメント
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うわぁ……もう、渉が不憫で可愛くて仕方ないんですけど🤍🥀 「愛嬌がないクソガキ」が完全に自分にブーメランで返ってきて、しかもクラス中に「痴話喧嘩」扱いされて逃げ出す渉、最高すぎます…。瑠衣の「俺は本気なんだけど」がもう完全に追い詰める気満々で、でも最後の「逃げられないよ」が妙に優しくてドキドキしました。自業自得だけど、渉の悔し涙に胸がきゅっとなります……続きが気になりすぎる!🤍