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レベル1 畠山 里香
「里香?! どうしたんだ?!」
勇の声で私は道路の端で立ち止まった。すぐそこには辞めた探偵兼土地家屋調査士の事務所がある。駐車場へ行く矢先だった。自転車が一台私の脇を通り過ぎていった。
「ううん。もういいのよ」
「途中で投げ出しちゃいけないよ! 一体どうしたんだ……」
「……」
私は父。勇の顔を見つめた。勇は私の無言の訴えが伝わったのだろう。一瞬、丸い顔がこくりと頷こうとした。車も一台。道路を通る。父は心配そうな顔をしていた。
「いや、駄目だ。途中で投げ出しちゃいけない」
「……ふぅーーー……」
「一体。どうしたんだ?」
「私の正式な依頼人だったの。西村 研次郎さんは……」
「……そうか。なら……なおさらだ。その人はもう死んでいるんだよ」
雨は相変わらず降っていた。傘は二人とも差していない。私たちのびしょびしょの姿は他の人たちには、どう映るのだろう。
「正式な依頼人だったんだね。西村 研次郎は?」
「……ええ。それは間違いわ」
私は捨てられ雨に濡れた子犬のような気持だった。
それは大きな存在に見捨てられた気持ちに似ている。
きっと、子犬もそんな気持ちのはずだ。
そう、途方もない大きな存在に……。
「本当にご本人? 同姓同名の別人でなく?」
「ええ。超小型電子カメラを作っていたって、言ったの」
「なんてこった!!」