テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
ナハトは素早く後方へ退避すると、魔女とシイナユウとの闘いを鋭い眼光で見つめた。 体を低くし、毛を逆立て、警戒心をあらわにしている。
しかし——やはり、ナギに気がついている様子はない。
魔女とナハトは、ちょうどナギの位置から同じくらいの距離に立っていた。
(ここで黒猫を殺せば、魔女を斃せる。だがその場合、ナカムラソウゴは——ニアは死ぬこととなる)
焦りの中、ナギはもう一度魔女に目をやった。
「このぉ——糞がぁぁぁ!」
魔女は今や、左手に持った箒を投げ捨て、両手で応戦していた。
だが——それでもなお、明らかにシイナユウの方が優勢だ。
(今斬りかかれば——魔女を仕留められるのでは?)
そんな都合のいい考えを嘲笑うかのように、再び戦況は動いた。
「フン——ようやく始まったねえ!」
それまでの腹立たしそうな様子から一変、魔女がニヤリと意地悪く笑う。
見ればシイナユウの全身に、真っ赤な色をした文字列が、刺青のように浮かびあがっていた。
「ううっ……!?」
それに呼応し、シイナユウが苦悶の表情を浮かべ、その場に片膝をつく。
発する〝力〟が弱まり、シイナユウの体は魔女の魔力に吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
「由宇!」
シイナユウの悲鳴と、モリヤオサムの叫びが重なる。
「そいつは前もってつけておいた生贄の印さ!〝夜〟が近づくにつれて苦痛は増すよ!」
「このっ——!」
モリヤオサムが、魔女に向けて銃弾を放つ。
「おおっと!」
すかさず、魔女がモリヤオサムに左の掌を向けた。
銃口から伸びた赤い線が、掌の直前で途切れる。
停止した弾丸が、一瞬遅れて地面に落下した。
「そんな——」
「引っ込んでな、小僧!」
続けざまに掌から放たれた魔力が、モリヤオサムを直撃する。
「うわあっ!」
モリヤオサムが吹き飛ばされる一方で、魔女へと素早く駆け寄る影があった。
——ニアだ。
ニアは獣の様な咆哮と共に、魔女へと飛びかかった。
だが。
「遅いっ!」
魔女の左の掌が、今度はニアに向けられた。
ニアの体は、魔女を殴りつける寸前のモーションのまま、空中でピタリと静止した。
「くそっ……!」
「小蝿がブンブンとやかましいねえ——そんなに死に急ぎたいなら、お望み通り殺してやるよ!父親と同じ殺し方でねえ!」
そう叫ぶ魔女の右の掌に、漆黒の火球が生じる。
その炎を見た瞬間——ナギは駆け出していた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
叫びながら、矢のような速さで距離を詰める。
魔女はギョッとした表情でナギの方を向き、咄嗟に彼女のいる方向——自身の右側へ向けて火球を放った。
しかし火球は、体勢を低くしていたナギの頭上を素通りした。
髪が僅かに焦げるのを感じつつ、ナギは抜刀した。
勢いそのまま、高速の斬撃を連続で繰り出す。
「ぐあっ——!?」
ナギは魔女の右手と首を続け様に斬り落とした後——よろめく魔女の体を、真上から唐竹割りに両断した。
魔女の肉体はバラバラとその場に崩れ落ち、魔力から解放されたニアも地面に倒れた。
(——勝った、のか?)
余りにも呆気ない幕切れ。
勝利の実感を得るよりも早く——
ドスッ。
——胸のあたりに、衝撃があった。
視線を下に下げる。
ちょうど心臓のあたりから、血に濡れた刃物の先端が顔を覗かせていた。
「なるほど〝新月の秘薬〟かい」
背後から、しゃがれた声が——今しがた自分が殺したばかりの、老婆の声が聞こえた。
「……え?」
ナギは呆然としながら、首だけでゆっくりと背後を振り返った。
そこにはいつの間にか背後に忍び寄り、短剣を巻き付けた蔓を口から伸ばしたナハトの姿があった。
「流石のアタシも、こいつは前もって知っていなけりゃあ感知できないわな。しかし、惜しかったねえ」
ニヤリと笑って、ナハトが短剣を引き抜く。
「そのババアの体は、囮の肉人形——本体はアタシだよ」
「そん、な——」
口と傷口から血が一斉に溢れ、ナギはその場に崩れ落ちた。
すぐ側に転がっている老婆の体が、蝋人形の様にどろどろに溶けていくのが見えた。
立ちあがろうとするが、体に力が入らない。
視界も、急速に霞んでいく。
五感が失われていく中、最後の瞬間——
「ナギ!ナギ!——姉さんっ!」
——どこか遠くで、そんな悲痛な叫びが聞こえた気がした。
——同刻。
堺の世界に存在する、巨大な城壁にぐるりと囲まれた街にて。
その街の神殿には、異界から流れ着いた、壊れたラジオが祀られていた。
神殿の内部には、今日も大勢の参拝者が押し寄せている。
昆虫の様な複眼を持った老人が、いつもの日課で、ラジオの前に膝をついて祈りを捧げたその時だった。
「あーらら、そっちを選んじゃったかぁー」
突然、目の前のラジオから、そんな声が聴こえた。
男性の、低音の効いた美声だった。
老人は驚いて顔をあげた。
長いことこの神殿に通っているが、こんなことは初めてだった。
声は、おかしくてたまらないといった口調で続けた。
「ちゃんナギ、ゲームオーバーっ」
——それを最後に、声は聴こえなくなった。
背後で咳払いがした。
振り返ると、すぐ後ろに並んでいる体中から毒々しい茸を生やした女が、「早くどけ」と言いたげにこちらを睨んでいた。
老人は逃げるようにして神殿の外へ出ると、先程の声について考えた。
お告げにしては意味がわからな過ぎる。
他に声が聴こえた人もいないようだったし、おそらく——いや、きっと自分の聞き間違いだろう。
苦笑しつつ、空を見上げる。
間も無く〝夜〟が来る。
若い頃のように、妻と一緒に夜空を見上げてみるのもいいかもしれない。
蠢く黒い太陽の下、老人は一人家路を急いだ。
コメント
1件
うわっ……第74話、衝撃的すぎました……! ナギが魔女を倒したと思ったら、まさかのナハトが本体で、しかも背後から刺されるなんて。あの「ゲームオーバー」のラジオの声も不気味で、世界の仕組みまで見えてきた感じがしてゾクゾクしました。 シイナユウの苦しむ姿も、モリヤオサムが吹き飛ばされる瞬間も、一瞬一瞬が詰まっていて、読んでるこっちの心臓までバクバクでした……。 続きが気になりすぎます!