テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
16
ゆゆゆゆ
76
29
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
午前三時。
誰もが眠る時間。
FORSAKENの館も静まり返っていた。
本来なら。
本当に本来なら。
だが。
ノスフェラトゥは飛び起きた。
「――はっ!!」
呼吸が荒い。
額には冷や汗。
心臓は暴走。
最悪だった。
夢を見た。
とんでもなく最悪な夢を。
スペクターが振り返らない。
呼んでも止まらない。
追いかけても届かない。
そして最後に。
『もう、お前などいらないよ』
その一言。
それだけで世界が終わった。
夢の中のノスフェラトゥは崩れ落ちた。
だから。
目が覚めた瞬間。
理性も何も吹き飛んだ。
「主様……!」
部屋を見回す。
いない。
匂いもしない。
気配もない。
いるはずなのに。
館のどこかにいるはずなのに。
今この部屋にはいない。
それだけで恐怖が膨れ上がる。
「嫌だ」
ぽつり。
「嫌だ嫌だ嫌だ」
古代吸血鬼終了。
理性終了。
思考停止。
パニック開始。
次の瞬間。
ドォン!!
床が爆発した。
神速。
吸血鬼の誇る超高速移動。
廊下が黒い残像で埋まる。
使用人たちが寝ている部屋の窓が揺れる。
壁の絵画が傾く。
誰かが寝言で悲鳴を上げた。
ノスフェラトゥは止まらない。
目標。
スペクターの寝室。
数秒後。
到着。
普通ならノックする。
礼儀がある。
常識もある。
だが。
今のノスフェラトゥにそんなものはない。
バゴォォォォォン!!
扉が吹き飛んだ。
館中に轟音が響く。
防壁。
粉砕。
高級木材。
粉砕。
職人の魂。
粉砕。
「主様ぁあああーーーーッ!!」
突入。
一直線。
ベッドへダイブ。
どごん。
布団の塊に抱きつく。
「捨てないでくれ!!」
「私は良い子にする!!」
「反省もする!!」
「ちゃんと呼ばれたら来る!!」
「いや元から来てた!!」
「だから捨てないでくれぇぇぇ!!」
半泣きである。
完全に半泣きである。
数千年生きた古代の王。
現在の姿。
夜泣き。
最悪だった。
しばらくして。
布団の中から。
深いため息が聞こえた。
「…………はぁ」
世界の終わりみたいなため息だった。
布団がもぞもぞ動く。
現れたのは。
寝癖だらけのスペクター。
帽子なし。
余裕なし。
気品も半分くらい寝ている。
そして何より。
機嫌が最悪だった。
「ノスフェラトゥ」
低い。
怖い。
眠い。
全部混ざっている。
ノスフェラトゥは涙目のまま顔を上げた。
「あぁ……!」
「主様……!」
「よかった……!」
「夢でお前が……」
「私をいらないと……」
「それで私は……」
「うわぁぁぁん!!」
再び抱きつこうとする。
その瞬間。
パチン!!
「あ痛っ!!?」
デコピンだった。
綺麗に入った。
完璧な角度。
完璧な威力。
ノスフェラトゥが額を押さえて固まる。
スペクターは真顔だった。
「静かに寝なさい」
「……」
「午前三時だ」
「……」
「君は今」
「……」
「神速で館を走り」
「……」
「私の扉を破壊し」
「……」
「ベッドに突っ込んできた」
「……」
「正気かい?」
正論だった。
あまりにも正論だった。
ノスフェラトゥは何も言えない。
スペクターは続ける。
「悪夢を見たのは気の毒だ」
「だが私の睡眠はもっと気の毒だ」
「壊した扉を片付けなさい」
「それから」
一拍。
「朝までそこで跪いていなさい」
命令だった。
ノスフェラトゥの瞳が見開く。
スペクターは気付かない。
気付いていない。
完全に気付いていない。
彼はそのまま布団を被った。
「おやすみ」
終了。
会話終了。
再び睡眠モード。
だが。
ノスフェラトゥの脳内では。
花火が上がっていた。
(命令された)
(私に)
(命令をくれた)
(朝までここにいていいと)
(許された)
デコピンの跡を押さえる。
熱い。
嬉しい。
幸せ。
全部同時だった。
「あぁ……」
うっとり。
「あぁ……」
完全復活。
さっきまで泣いていた男とは思えない。
ノスフェラトゥは神速で動いた。
扉の残骸回収。
神速。
木屑掃除。
神速。
床清掃。
神速。
数十秒後。
部屋は完璧になっていた。
そして。
ベッドの横。
完璧な跪き。
完璧な姿勢。
完璧な笑顔。
じーーーーーーっ。
スペクターの寝顔を見守る。
じーーーーーーっ。
微動だにしない。
じーーーーーーっ。
怖い。
普通に怖い。
数時間後。
朝。
スペクターが目を覚ます。
目を開ける。
そこには。
まだいた。
パジャマ姿の古代吸血鬼。
跪いたまま。
嬉しそうに。
ずっと。
見ていた。
「おはようございます」
爽やかな声だった。
スペクターは数秒沈黙した。
そして。
「……やっぱりちょっと怖いね、君」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
それでもノスフェラトゥは幸せそうだった。
もう駄目だった。完全に。