エピソード7”ボロ雑巾の二人
ガラッと瓦礫の音が鳴り響く。瓦礫の中から手を出しなんとか上に上がる。
「いってー。大方、能力は死の拒絶って行ったとこか。死に戻りだったら精神崩壊もんだぜ。それはそうと疲労が回復したりは無さそうだし、代償とかねーよな。寿命が縮む的な奴。」
そんな軽口を叩きながらだらしなく立つと、正面に少女のぐったりした姿が見える。とりあえず動きはなさそうだ。足場の悪い瓦礫を弱々しく踏みながら彼女に近づく。
「これ、俺の勝ちってことでいいのかな?おーい、聞こえる?」
「…だ」
蚊の刺すような声で何か言っているが、なんと言っているのかわからない。
「とりあえず生きてはいそうだな」
「まだ…ぢゃ」
その言葉の後にぬめっと起き上がる幼女。まるでゾンビのように。
「マジすか…これで立つとかどんだけバケモンなんだよ」
ブーメラン発言はさておき、彼女は今にも倒れそうで、ボロ雑巾のようだった。
「負けられない、人間如きに…。負けちゃいけない…一族の誇りのために!」
彼女の声は震えて弱そうだが芯が通っている。
「おいおい、人間如きにって。こちとら科学様を味方につけてんだ。そうやすやすと負けねーよ」
直後彼女が物理攻撃の応襲が炸裂する。人間でも耐えれるが吹き飛ばされる程度には力強い。がダメージが大きいのためかかわそうと思えば普通にかわせる程度のスピードだ。
「いきなりあぶねーな。なんでそんな勝ちにこだわるんだよ。俺的には白旗あげた方がハッピーなんですけど。」
「……敗者は全て失う。誰も見てくれない、そばに居てくれない、誰も守れない……」
勢いよく拳を振るう態度とは裏腹にそのこぼれそうな涙が彼女の心境を語っている。
「要するに、可愛がってほしいって事か?」
「違う…違うもん!」
彼女の頬の朱が上がり、声の調子が数段上がった。
「じゃあ、ただ寂しいってこと?可愛いとこあんじゃん」
「う、うるしゃいっ」
攻撃が荒く大振りになる。戦闘経験が乏しいナギにも擦りやしない。龍化もできない彼女はただのロリッ子だ。
「オラァァいまだぁぁぁ」
渾身の掌底でカウンターを取る。さすがに子供を殴るのは抵抗があったため掌底にしておいてあげた。ナギなりの配慮である。彼女の体は宙を舞い粗悪な瓦礫に叩きつけられる。
「っう」
「よっしゃ、決まった!部活も勉強も捨ててシオンと格闘ゲームしたかいがあったぜ!勝ったことほぼないけど!」
彼女は力無く倒れている。まるで電池が切れたかのように。そして彼女の脳裏に浮かぶ記憶___
___暖かい風に乗って桜の花びらが舞う頃。
「××、龍人族は他の種族に負けてはならない。負ければ死んだも同然だ、分かったな?」
そんな言葉がパパの口癖だった。
「ママーー」
他の子が母親に抱きついたり、抱きしめられたりしているのを見て羨ましいと思った。だってパパは一度だって抱きしめてくれなかったのだから。近づけば、近づこうとするほどパパの背中は遠くなる。距離は日に日に遠くなり、渇きが日に日に強くなる。
「パパ、なんでアタシはママがいないの?」
「…」
そう聞くといつも何も言わなくなるパパ。頑張っても褒めてもくれないパパ、いつも厳しいそんなパパが嫌いだった。
怪しい空模様が広がるある日の事。桜のピンクの花の姿はもうなく、緑色の葉っぱさえもない。
「パパ、なんか黒いフードを被った怪しい奴が村に入ったて。
神の使いとか言ってた。」
「なん…だって…」
パパは驚いていた。こんな顔一度たりとも見せなかったのに。
「早く村から出る準備をしなさい」
「なんで」
「いいから早くしろ!死ぬぞ」
「なんで、龍人族なのに戦わないの?」
「……」
戦うことを教えられてきたアタシは疑問に思った。それが龍人族の誇りだと。
息を荒くプラスの気を纏うアタシに対して全く反対の気を纏うパパ。
その言葉と同時だった。
「あれーあれれれれ?、久しいねー。負け犬くん」
その言葉は何よりも重く濁っている。
フードを脱ぎ顔が見える。
青色の髪で、目に光がないように思われるくらい黒く濁った瞳。明らかに異質なオーラを醸し出す奴を一目見て、周りの村人、幼いアタシまでもが理解した。敵だと。
「敵襲だーーー」
村人の一人が叫びながらその男に襲いかかる。
男はそいつに触れる。たったそれだけなのに村人の胴体が無くなる。吹き飛んだんじゃない。無くなったのだ。
「おやおや、最強の龍人族が笑わせる…」
村人たちが次々と襲いかかるが、その分同じ数だけ命が消える。やつに攻撃しているのはこっちなのに、一方的に死んでいく。
「××、逃げなさい。みんなが時間稼ぎをしてる間に」
「やだ、アタシも戦う」
「ダメだ」
それを聞いたパパがアタシの両肩をガシッと掴み、じっと見つめる。かつてないほど真剣でどこか悲しそうな表情を浮かべている。
「じゃあパパも一緒に」
「ごめんだがそれはできない、あいつはママを殺した相手だ。俺は引けない。」
パパは難しい顔をしてアタシを見つめる。
衝撃的な事実を前に何も言えずただ聞くしかできなかった。
そんなことを言っている間に村人はほぼ全滅していた。パパは初めてそして急にアタシを優しく抱きしめる。
「ごめんな、褒めてあげれなくて。」
やめて
「ごめん。抱きしめてあげれなくて」
やめてよ
「ごめん。ママを守れなくて」
やめろ
「お前には、ママみたいに死んで欲しくなかったんだ。俺とあいつのたった一人の娘だから」
やめろよ。まるで___
「愛してる…我娘よ」
今から
(たった一つの我宝物)
死ぬみたいじゃんか…
「遺言はいいかい?」
嘲笑うように息を吐く男。
「ああ、テメーこそいいか?ああ、そうか空っぽのお前には、奪うことしかできないお前にはそんな物必要ないか」
「なんだと!?」
その言葉は怒気を含んでいた。
先手を切ったのはパパ。音速をも越えるスピードが一直線に奴を捉える。と思ったらのは束の間。吹き飛んだのはやつの首でなくパパの腕だった。
「女の死から学ばなかったのかい?ほんと、無駄死にだね」
「勝手に殺してんじゃねーぞ。童貞野郎!」
「何?何何何?勝手に決めつけて。ほんとむかつく。」
凍りつくような殺気を放つ。ただそこにいるのは圧倒的存在。
パパが次の攻撃をしようと構えた時。パパの目から光が消える。奴はパパの心臓を掴み、反対の手で首を刎ねる。
それはほんの一瞬の出来事だった。
「本当、龍人族は低脳な奴しかいないなー。4年前と同じ結果じゃないか、全く、面白くない。」
恐怖が絶望がアタシの足を地面に縛り付けている。
そんな絶望の中、パパの血が足元を濡らしている。
何もできない自分の情けなさと、弱さをしみじみと感じる。
そしてその時初めて、そばに居てくれる人の大切さに気づいたがもう遅い。
「やれやれ、鍵の守人がいないからスカウトしに来たって言うのに、人を見るなり敵なのなんやら、全く、虫唾が走るよ。まあいいやこのガキで。言っとくけど拒否権はないからね。お前の父親の死を無駄にしたくなかったら、大人しく着いてくることをおすすめするよ。大体神の使いであるこの僕に挑む時点で無謀だとは思はないのか全く。低脳はほんと困るよ。一応神の使いになるわけだから、僕たちと神以外に負けることがあったら君を処分しなくちゃだから、よろしくね」
パパを悪く言われて腑が煮え繰り返りそうになるが、圧倒的な者の前に恐怖が勝ってしまった。
そのまま着いていくしかできなかった。
自分の弱さを身に沁みて感じる___
「___ぱ、パパ…会いたいよ」
大粒の雫をボタボタと溢しながら、そんな事を呟く。
「また抱きしめてよ。まだ褒めてもらってないよ。帰ってきてよ…一人に…しないでぇ」
「おーい、早く出口案内してくれるかなー。おーい聞いてる?」
泣きじゃくる幼女は見ていられない。親がいなくなった悲しさはナギが一番知っている。ナギはその幼女を暖かく抱きしめる。かつて母がしてくれたように。
「いつまでも泣いてんじゃねーよ。負けたのが悔しいなら次勝てばいいだから…泣き止んでください、お願いします。あと殺さないでね……ほんとに」
それでも泣き止む様子がない幼女に、「こっちが泣きそうだっつの」と内心思うがそれを言葉にはしない。
「ほら…あれだ…一人がやなら俺が一緒に居てやる、その肩にのしかかった重荷も一緒に背負ってやる。失った物は戻らねー。いつまでも後ろ向いてないで前を見やがれ、バカやろー」
「……ほんとに一緒に居てくれぇるの?一緒、横を一緒に歩いてくりぇるの?」
また勢いで言ってしまった。また悪い癖が出てしまった。だがもう引き返せない状況と判断したナギは勢いで押し切ることにした。
「ああ」
さらに強く抱きしめる。彼女の涙が布を通り抜けて感じる。
「でもアタシが一緒に行ったら迷惑かける…」
「ああもう、めんどくせーな、ガキなんてな上に迷惑かけて成長するもんなんだよ!あ、でも人殺しはしないでね?頼むから」
さっきから引き腰な発言と強気な発言が交鎖するナギだが
あの斬撃で真っ二つになっちゃいましたは冗談抜きで笑えないのである。
「うん…」
ナギの制服は幼女の涙と鼻水でぐちょぐちょになっている。
「キッタネ…。とりあえず仲間のとこに戻んなきゃなんだけど、歩ける?」
「歩けね」
正直なところ、慣れない動きをしたオケげで全身激痛なのだが、彼女はさらに重症だ。
「ああーもう、わったよ!さっきまで脳を支配してくれてたアドレナリン様はどこへ行ってしまったことだか……」
そんなことを嘆きながらナギは知らず知らずのうちに過去の自分と重ねていたのだろう。少しむず痒さを感じたのであった。
君は誰よりも優しく、暖かい___
そして数ターン流れ、あることに気づくナギ一行。
(シオンだけ、いいマスに溜まりすぎじゃね)
そうすでにナギ-10000円、宮本くん-3000円、オーナー-100000円と言った具合だ。
オーナーはさっきから魂を抜かれたような顔をしているがそこは触れないであげる。
(どうにかカラクリを見破らなければ。次はシオンのターン)
目で協力シグナルを宮本くんへ送る。
(オッケー、僕の方からもみておくよ)
多分こんな感じの返答だろう。多分。
何かないかと眉を顰めてみているうちにあるものをナギの目がとらえる。そう下に磁石を構えているシオン。
「おい、シオン。下の磁石はなんだ?」
「え!?あぁま、まぁね」
ナギはそれを没収しこの場は収まった……
(ふっふっふ、これはフェーイク!本当はこっちのコントローラーで操れるってわけよ!)
そしてコントローラーのボタンを静かに押しつつ針を回すそぶりをする。
「1,2,3……えーとなになに?神召喚?」
「なんで語尾にはてなついてんの?」
宮本くんが指摘する。
「え、あ、こんなの書いたっけ?」
「製作者だろ!しっかりしろよ」
確かに現実でできないことを書くはずがない。不思議だ。
「おい、そこの紫髪」
聞き覚えのない声がここにいる全員の鼓膜を揺らす。
「誰だ?」
シオン以外の一同が口を揃えて言った。
「こいつは作者だ」
衝撃の事実に声が出ない。そして、その作者はシオンを担ぐ。
「こいつ、しばらく借りるわ。あと金」
その言葉の直後、目の前に奪われたであろうお金があるではないか。
「おい、作者こんなことして許されるとおも……」
そう言いかけた時、作者とシオンの姿が消える。
「なんか……うん……」
こうして、無事幕を閉じたのであった(?)
end
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