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エピソード8”異界の地リザルト”
「お前、なんてゆー?」
「名前か?俺はナギって言うんだ。なんて呼んでもいいけど、お兄ちゃんとかにいにとかだったら少し嬉しいなーなんて」
さりげなく癖を入れ込んだ発言は二人以外誰もいないから言えることである。あとほんの一握りの淡い期待をしているナギであった。
「ナギ!いい名前!」
「え、あ、ありがとう。初めて言われたわ、そんな事。まだお兄ちゃんは厳しいか…」
予想外の言葉に戸惑うがそれを外には見せない。
期待を裏切られてしまったが密かにリベンジに燃えるのであった。
「そういや、君は?名前ないと呼びずらいから教えてくんない?」
「アタシ、名前ない。覚えてない」
彼女は声を低くし、目を逸らす。だがそれは彼には認識できない。
「じゃあ俺がつけるか…そうだな…ドラゴン…龍子(りゅうこ)とか?」
「安直。ちゃんと考えりょ」
割と妙案だと思ったがあっさり切られてしまい少し落ち込む。
「えーじゃあ龍子(たつこ)」
「ドラゴンから離れりょ!」
「えーーじゃあもう、龍子(ドラコ)で」
「ぷよぷよのキャラと同じなんですけどぉ!あと感じ使い回すにゃー!」
「お前がぷよぷよ知っての以外なんですけど」
「閻兄がよくやってるの見てた」
「お前、兄弟いたの…か…」
彼女はうんともすんとも言わなかった。ただ黙っているだけ。
少し悔しいような、嫉妬の感情がジワジワと湧いてくるのを感じる。なんだろこの気持ち……。
なんでかは言わなくてもわかるだろう。
「名前か…うーん。一華は?一輪の花みたいに可愛いって事で」
最後は少し早口めに大きめな声で言った。それは一種の照れ隠しである。心のなかでは冷静沈着、クールビューティーを思いながら、平静を装う。
「可愛いより、美しいの方が嬉しいじょ!なんたってアタシは大人ぢゃからにゃ」
「え…まあ気にってくれたならいいか」
と言うわけで名前は決まった。平和に談笑しながら歩いていると理科準備室についていた。話に夢中だったためか目の前が霞んできているのに気づいていなかった。その扉は穴が空いていて血のような物がべっとりとこびりついている。
「ナギ、嫌な奴がいる……」
その言葉を無視してぶっ壊れた入り口の前に立つ。
目の前には最初にモブの首を落とした、斧を持った大男目の前を塞いでいる。
「まじかいな……!?」
「ナギ!」
イチカが手を前に出し斬撃を放つ。それは奴に直撃し正中線を見事に両断した。
「ありがとう!助かったぜ!相変わらずすげーな」
「う、うん」
イチカの鼓動がとても早くなっている。きっとさっきの戦いで大分消費したのだろう。
「シオン!」
「な、ナギ…」
主犯の彼女が気を失っている。頭に出血があり、一悶着あった事を知らせていた。そして足元に転がる死体はモブ2の物だとすぐにわかる。だがその子の死を悲しんでいる暇はない。
「シオン!大丈夫か?怪我は?」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。子供じゃないんだし……それより望月さんを……」
「望月……」
「この子の名前」
「ああ、そうか。とりあえず脱出の目処がたったから早く出よう。その子を連れて」
背中に背負ってる子は誰?と言いたいのがその泳いでいる紫紺の瞳が語っているが、その子が脱出の鍵という事を同時に理解していたためか何も言わない。
「なあ、イチカ。今更なんだけど。どうやって脱出するの?魔法陣とか出ちゃう?ついにファンタジー来ちゃう感じ?」
イチカが困った顔をしている。
「え、ファンタジーだと!それは期待しちゃうなー」
シオンがナギに加勢する。イチカは自分より子供の奴らに一周回って呆れ、一種の軽蔑のような眼差しを送る。
「ごめんだけど、魔法陣は出ないじょ?非常口のとこをこの鍵で開ければ出れるって感じなんだけじょ…なんか…ごめぇん?」
シオンが明らかに残念という感じの大きいため息を溢す。
「しちゅれいなやつらだな!出れるだけ感謝しろ!」
「ごめん、ごめん」と息を合わせて謝るが幼女はほっぺを膨らませご機嫌斜めのままだ。そんなことを言いながら理科準備室を後にし、非常口を目指す。足音が空間を支配していると思わせるほどの静けさの中、望月が目を覚ます。
「う…どこ。さっきの化け物は」
「この少女が倒してくれたよ」
シオンがイチカを指差す。しかし気に入らなかったのか少し前のめりになってガッツリと指を噛む。しっかりと尖った八重歯が食い込み、痛そうと言う言葉では言い表せない。
「イッターーーー!何すんだよクソガキ!しばくぞごらーー!」
「指差しゅな。むかつく」
「この…クソガキ…」
「ガキゆーと、お前だけここから出さない」
その言葉はシオン、いやイチカ以外の全員に効果抜群だった。
「おのれ、ロリッ子…今は大人しく言うこと聞いてやる…仕方ない」
「じゃあ、3回回ってワンていえ」
「はいはい、こうね、クルクル、ワン…て調子乗んなよクソガキ!」
思わず吹き出してしまう望月とナギ。
「お前らもあとで締める」
そんなことを言っている間に目的地付近へ到着した。緑色の光を放つピクトグラムがここは非常口ですと言っているようだ。
「ここであってんの?マジで」
「あってりゅ。この鍵でドアあけりぇば帰れる。どこに出るかはわかんにゃいけど」
「まあ帰れればなんとかなるよ、よしじゃあこれでハッピーエンド」
「大丈夫それ?フラグじゃない…」
「やあ鍵の守人。久しいね」
その声は陽気な感じだが何故か重さを感じた。その重さの影響か冷や汗が滲み出る。振り返ることも許されないのではないかと思わせるような圧倒的なプレッシャーを感じながらそこに立つ。言った側からフラグ回収。
「紫髪!この鍵で早く扉を!」
イチカが一つの鍵をシオンに託し「走れ」と命令する。シオンは命令に従うしかなかった。15、20メーターくらいの距離を全力で走る。望月はこの圧にやられて動けずにいる。奴はシオンに見向きもしない。
「おやおや?おやおやおや?人間なんかと一緒にいて、心変わりでもしたのかい?あーーーそっかー…負けたんだね」
絶対零度のように冷たいその言葉は空間をも凍らせたと勘違いするほどであった。
「ナギ、アタシが合図したら走って」
「ああ」
聞こえない位の声で言った。
「そうそう君を殺すって言う約束だったね。全く、龍人族は本当バカと無能しかいないなぁ、君の親のように……」
イチカは表情を曇らせる。
「走れ!」
その大声が緊張していた二人の筋肉を震わせる。
「僕がまだ喋ってるでしょうが!」
シオンは扉を開けて向こう側で待っている。0.1秒が遅く思えるくらいの緊張。
「奴、の手に触れたらみんな死ぬじょ!」
「嫌な情報!」
この新情報がナギたちの緊張をさらに高める。
10メーターくらい走っただろうか。徐々に扉の向こうの世界をこちらの世界が侵食している。ここを逃したらみんなで地獄へランデブーって言う展開になってしまう。
「ほんと、僕の話を遮るとはいい度胸だ。君の認めた人間とやらごと殺してあげるよ」
すぐ後ろに迫る奴。魔の手が徐々に迫ってくる気配をひしひしと感じる。だがイチカは直に感じているだろう。
あと少し
あと一歩のところで
トンと手を置く音がする。
「…ごめん」
ナギは現実世界に押し戻される。そこは小さな花畑があり雑草がそこそこ生えていて手入れがされてないのが伺える。
イチカはその勢いのまま地面を転がり花畑まで飛ばされる。
花壇のたんぽぽをぐちゃぐちゃににする。
そうナギを押し除けたのは望月だ。
「本当は…シオンちゃんが羨ましかった。ナギくんと、私の好きな人の隣にいるあなたが」
彼女の頬に涙が一筋。それはどんな物よりも儚い。
「雨の日、君がくれた傘返せなくてごめん。そしてありがとう。最後に___」
そして触れている張本人が薄らな笑みを浮かべると同時に、彼女の上半身は消える。同時にあっちの世界も消えた。
時は夕暮れ時。橙赤色の日差しが彼、彼女らの目を焼く。晴れていて夕日が綺麗だが、なんだか黒い雲が懸かっているように思えた。
「なんとかおわ…」
目の前が急に暗闇になる。
ナギは電池が切れたロボットのように倒れ込む。
「お、おい、ナギ!しっかりしろ!ロリッ子とお前同時に運べるほど筋力ないぞ…てかなんか人気のないボロ屋に出ちまったか……言葉通りどこに出るかわかんないってか……」
可愛らしい寝息が僅かながらシオンの鼓膜を叩き続けている。
「寝てる…だと…こいつらどんだけ呑気なんだよ!」
カラスのなく声が響き渡っている。同時に足音が微かに近づいてくる。しかも一人じゃない。
「おいおい、ここで裏ボスみたいな展開はやめてくれよ」と願いながら足音が近づくのをただ感じることしかできなかった。
そして足音と緊張が最大値になる。
「おい、あんた、あっちから帰還した人間か?」
背丈が180以上ある赤髪の、付け加えるとπが大きく顔に傷がある女と、クール系の黒髪の刀を持った同い年くらいの目に刀傷がある男の子、猫耳を生やした色素の薄い感じの金髪風の少し年下に感じる少女。
「ああ、そうだよ…」
「すげーな、よかったで終わりたいんだが、横の金髪少女は鍵の守人だよな?」
シオンはその問いかけに答えることをしなかった。
「疲れてるとこ悪いが、強制連行だ」
そして、今日は不穏な空気を置いて終わる。
おまけ⑥
8話ご愛読ありがとうございます!
最近はいろいろ忙しめで挿絵もなかなか描けてなくて……すいません。。。
とりあえず第1章はこれにて終了!
第二章の終わりらへんまでしか描けてないので第二章が描き終わったらまた第二章1話から投稿しますので…つまり再来週の金、土曜日あたりに!
お楽しみに!