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鍵は、ずっと俺が持っていた。
律子が妊娠したと知ったとき、俺は会社の屋上で30分間、動けずにいた。
結婚前。親にも言っていない。
俺たちはまだ、子どもを迎える準備なんてしていなかった。
でも、律子は涙を流しながら言った。
「この子を……育てるわ。ひとりでも」
その言葉に、俺は何も言えなかった。
俺が彼女と結婚したのは、責任でも、覚悟でもない。
ただ――「あの子の存在を許したかった」からだ。
だが、世間はそれを許さなかった。
家も、会社も、親も、すべてが「その子を隠せ」と迫ってきた。
律子は、折れた。
いや、折れたふりをしたんだと思う。
俺のために。
家の一番奥の納戸。
誰も入らないその部屋を選んだのは、俺だ。
電気も、ベビーベッドも、最低限の世話はできるよう整えた。
でも――名前を届けることは、しなかった。
あの子は、俺の目を見て笑ったことがあった。
まだ1歳になるかどうかの頃だ。
俺がそっとミルクを運んだとき、ベッドから体を起こして、笑った。
……今でも、夢に出てくる。
あの笑顔は、俺がこれまでに見たどんな幸福より、純粋だった。
その分、俺の罪は深くなった。
律子が二人目を妊娠したと知ったとき、俺は言った。
「今度こそ……“表の人生”を歩こう」
律子はうなずいたけど、目が泣いていた。
彼女はわかっていたんだ。
もう一人の圭吾を「封印」することの意味を。
俺は鍵を新しくした。
古びた南京錠。
合鍵は作らず、1本だけ、常にスーツの内ポケットに入れていた。
俺にしか、開けられないように。
ある日。
圭吾――いや、「表の圭吾」が家に帰ってきた。
そして部屋に入った。
俺が止める間もなかった。
気づいたときには、鍵は外からかかっていた。
誰が閉めたのか。
なぜ鍵が内側からではなく、外から閉じられていたのか。
俺は、ふと気づいた。
ポケットの中――南京錠の鍵が、消えていた。
あれほど肌身離さず持っていたものが、なぜか無い。
背筋が凍った。
「これは、俺の罰なのか……」
自分たちの罪に、ついに世界が形を与えたのだと思った。
そして数日後――
圭吾が戻ってきた。
だが、目が違っていた。
立ち方も、声のトーンも、どこか変わっていた。
「ただいま」
俺はその言葉に、どう返せばいいかわからなかった。
律子は泣きながら抱きしめた。
あの人は、許したんだと思う。どちらでもない圭吾を。
俺は――抱きしめなかった。
代わりに、納戸の前に立った。
静かに扉をなぞりながら、呟いた。
「お前は、まだ……この中にいるのか?」
返事はなかった。
だが、ふと懐に手を入れると――
鍵が戻っていた。
確かに、あの南京錠の鍵が。
握りしめた。強く。
そして、もう二度とその扉を開けることはないと決めた。
俺は、今もポケットにその鍵を入れている。
それが、父親として俺にできる、最後の責任なのだ。
いかがですか??W父親の登場は少なかったけどまぁ、ね???w
すいません!!語彙なくて!!!w
番外編続きですが、飽きないで!!あきないでよぉ🥺ってことで!!!