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バイトがなくなって、響との約束通り、部屋の掃除をすることにした。
寝室は毎日寝てる部屋だし、クローゼットに服を取りに行かされたりして全部開けたことかあるから、楽勝。
でも…書斎に入るのは初めてだ。
「…失礼、します…」
プライベートな空間に勝手に立ち入ってる感覚
…なんか落ち着かない。
部屋は10畳くらいのフローリング、
大きなデスクが、窓を背に配置してあって……「役員室」的な雰囲気が漂う。
コの字型のソファとテーブル。
そして壁一面の本棚には、ずらりと難しすぎてよくわからない本が並んでる。
そんな本棚の一角に、縁なしの写真立てを見つけた。
近寄って見てみると…古い写真。
「…え?うそ…これ」
1枚だけじゃない。何枚も、同じような写真立てに入れられてる…
驚いた…子供の頃の私だ…。
お母さんに着せられた紺色のワンピースを覚えてる…。
夏休み…どこかに出かけたけど、大人たちの話ばかりでつまらなくて、帰宅してすぐ…お母さんに捕まる前に外へ飛び出した…
確か、小学4年生…。
あの時の記憶が蘇った。
私の後をついてきた弟と公園で遊んでいると、そこに何人か集まってきて、その中に…響がいた。
写真は…ブランコを立ち漕ぎしてる姿。
あの時、カメラとか携帯を持ってたのか、記憶はない…。
でも、きっと持ってたんだよね。
「懐かし…」
写真立てを手にして、思わず顔がほころぶ。
すべての写真は…私を中心に撮られていることに気づいて、響が本当にこの頃から私を思ってくれていたことを実感した。
…その中に、私より全然可愛い女の子が写っているのを発見した。
子供ながら、スラっとしてて、目鼻立ちが大きくて…これ、優菜ちゃんだ。
まるで写真を撮ってる響を見てるみたいな角度で、横に映り込んでて、目線が響に向いてることもわかる。
「…そういえば、今も連絡取ってるって言ってたなぁ…」
写真立てを戻しかけて…手にしていたホコリ取り用の布で丁寧に拭く…。
私の子供の頃の写真を、こんな風に飾って手元に置いてくれてるのが、あの響だなんて。
嬉しいような恥ずかしいような、甘酸っぱい感じ…!
デスクに移動すると、わりとゴチャゴチャものが置いてあって、勝手に触らないほうがいい…と判断。
パソコンのモニターとキーボード、そしてノートパソコンの表面のホコリを取るため拭いた。
…ノートパソコンを開いてみたのは、その画面とキーボードも掃除しようと思ったからだ。
「…うわっ!!」
自動的に電源が入る設定なのか、その画面に現れた画像を見て心臓が止まるかと思った…。
「…い、今の…私?」
慌てて閉じたのを、ゆっくり開けてみる。
…やっぱり私だ…。
結構アップな寝顔は、伏せた目元のまつげの1本1本まで映し出されてる。
そして…唇が妙にテカってて…色っぽい。
コレって…キスされた直後…?
いったいいつの間に…?と、頭を抱える…それになんでこんな画像をパソコンの待ち受けにしてる?
まさか…携帯の待ち受けも私には内緒の1枚になってたりして…
………………Side 響
「…あっ!次長…見えちゃいました…」
「ん?冬のボーナス30パーカットね?」
そりゃないっすよ…とうなだれる経営企画室のマネージャーの河本、明るくて裏表のない男だ。
琴音にメッセージを送ろうとして開いた携帯。
電源が入ると隠し撮りした琴音が俺に笑いかける…。
それを、河本が目ざとく見つけたのだ。
「…でも、すごく可愛いっすね。彼女…?婚約者、とか?」
あたりを見渡すと、ランチで入った蕎麦屋には、うちの社員がそこかしこにいる。
いくら河本が控えめに喋っても、聞き逃すまいと耳をそばだてているヤツは多くいるだろう。
それでも俺は気にせず言う。
…なんなら聞きたいヤツの耳にしっかり入るように。
「あぁ。最近再会できた、幼なじみ。10年以上の片思いがやっと実った…」
ええっ?とわかりやすく驚く河本が面白い。
「…10年以上、1人の人を思ってた?次長ほどのイケメンが?」
すげーと言いながら、俺の手から携帯を奪って、琴音の笑顔をしげしげと見つめた。
可愛い…とか、当たり前だろ。
でもそれ以上の褒め言葉はいらない。
…のに、河本のヤツ、いらん一言を口にした。
「色白っすね。清楚なのに…なんか見てるとヤバい気持ちに…」
俺は河本の手から携帯を取り返し「…死ね!」と呟いて会計に向かう。
慌てて追ってきた河本の分も払っておく。
「ごちそうさまです…」と頭を下げ、横に並んで歩きながら、河本が俺を見た。
「なんか、響次長ってホントなら雲の上の人なのに、こうして社員たちと交流してくれるの本当に嬉しいです」
河本の言葉に俺は笑顔になった。
それは、武者小路グループ会長である父に、幼い頃から言われてきた言葉「企業は人で、できている」があったからに他ならない。
働いてくれる人がいなければ成り立たない。何より人を大事にしろ…という、父の教えだった。
よからぬ思いを持って近づいてくる者がいるのも心得ているが、俺は社員の中に入ることをあまりためらわない。
「…よかったですね!10年以上の思いが実って!」
河本の言葉に笑顔になる。
「まぁな。今の一番の原動力…!」
…そこへ、秘書がこちらに向かってせわしなく歩いてくるのが見えた。
すると河本は頭を下げてその場から立ち去り、変わって秘書が近づいて言った。
「響次長…浅野様が、お見えになりました」
もうすぐ戻るのは時間を見ればわかるのに。
わざわざ言いに来るこの秘書、何度言っても勘違いをやめない山科美久、35歳。
「わかりました」
立ち止まって言う俺が歩き出さないのを見て、しびれを切らしたように来た道を戻っていく。
しばらく先に行ったのを見届けて、やっと歩き出す俺。
見られているのを意識してるようで、腰をブリブリ振るのはどうにかならないか…。
…それにしても、浅野とは。
オフィスに戻るのが嫌になる。
ただこちらは…山科と違って、もう一度ハッキリ伝えなければ、わかってくれないようだ…。
コメント
2件
琴音ちゃん、めっちゃ愛されてるね~♥️♥️♥️ 琴音ちゃんもそうだけど、響もモテモテ😎✨✨ おちりプリプリ山科に浅野.... 厄介なことに巻き込まれないと良いけど😔
どんだけLOVE❤️琴音なのよぉ〜( *≖͈́ㅂ≖͈̀ ) おちりブリブリ山科と、浅野…厄介な感じがする… 琴音ちゃんはその辺奥手だし、響はそれなりのおいたはねぇ〜お盛んだろうしねぇ〜。