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「アリエッタ! いま助けるのよ!」
「ぱひー!」(ナニコレどうなってるの!?)
逆さまになりながら、パフィはカトラリーを振り回して、ゆっくりと迫ってくる周囲の蔓を切り払う。が、すぐに再生して、再びパフィとピアーニャを抱き締めて怯えるアリエッタに迫る。
「むぐぐ……ぷはっ! アリエッタはなせー! まわりがみえん!」
「ぴあーにゃ! だいじょぶ! だいじょぶ!」
妹分の顔を未熟な胸に押し付けて、周りが見えないように視界を塞いでいる。ピアーニャが怖がらないように、身を呈して護っているのだ。
しかし、その必死な善行によって、最高戦力のピアーニャは戦闘不能状態となっている。
「あーもう! 相変わらず使えない総長なのよ!」
「わちのせいじゃムグ……ぷへぁっ」
ついでに理不尽な評価まで下されてしまっていた。
パフィは無数の蔓の中で逆さに吊られながらも、フォークで突き刺し、時には巻き取り、ナイフでまとめて斬っていく。両手の巨大カトラリーを振るう度に、豊かな胸は弾けるように動き続ける。
しかし流石に2本の武器では完全には捌ききれていない。
「んひゃっ!? どこ触ってるのよっ!」
背後で蠢く蔓が撫でるように触れ、慌ててその蔓を斬り落とす。斬られた蔓は再生しながらゆっくりと離れていく。蔓の1本1本には意思など無く、ただ近くにいる者を捕まえているだけなのだ。
突然の事に慌て、安堵したパフィ。しかしその隙に、蔓の1本がアリエッタから垂れ下がる虹色の髪を掴んだ。
「い゛っ!」
『アリエッタ!?』
パフィにとっても聞いたことのない苦悶の悲鳴。ピアーニャも咄嗟に顔を上げ、痛みで歪んだアリエッタの顔を見た。
「ぐっぬぅっ!!」
自分を抱きしめていた腕の力が弱まった隙に、押さえつけられていた腕を引き抜きアリエッタの髪を保護する為に首元に手を回すピアーニャ。
もちろん同時にパフィも動いている。
「私のアリエッタに何するのよ! このっ……!」
「まてパフィ!」
制止を聞かず、赤くなったナイフでアリエッタの髪を掴む蔓を斬りつけた。すると切れた蔓の断面に火が付き、燃えながら暴れまわる。
ピアーニャは慌てて髪に巻き付いている蔓を払い落した。
「いまソレをつかうとあぶない! アリエッタももえてしまうぞ!」
「うぐっ……もう、はやく何とかするのよぉっ!」
「わかってる! いまならグぶッ!?」
『雲塊』を使おうとした矢先、再びアリエッタに抱きしめられ、少し動けるようになっていた身体の自由と視界を再び奪われてしまった。
ピアーニャを決して離さないアリエッタは、妹分を護りながらも恐怖のあまり震えているのだった。
「だいじょうぶ……ぴあーにゃ……だいじょぶ……グスッ……」
……そう、今ピアーニャを抱きしめているのはアリエッタである。海に落ちて気絶した時、入れ替わっていたのだった。それも虹色の髪のままで。
「むー……あれじゃ強めの魔法でまとめて斬り落としたら、雲を動かせないピアーニャを護ってアリエッタちゃんが落ちちゃうわね。パフィにはもう少し頑張ってもらうしかないか。……っていうか、あの人達遅い! 早くこっち来てくんないかな」
無数の蔓の中にいるアリエッタ達を助けたいネフテリアだったが、遠くからの攻撃は沢山の蔓に阻まれて届かない。魔法で切ってもすぐに再生するので、近づくことも出来ない。
蔓をパフィが燃やしたのは見えたが、全部が燃えてしまっては逆に3人が危ない。
ならば先に弱点の尾を処理すれば…とも考えたが、既に周囲の太い尾も再生し、1人ではどうにもならない状態になっていた。
「ネフテリア様!」
「おそーい! みんなあそこの救助手伝って!」
オスルェンシスが全員を引き連れ、ネフテリアの近くにやってきた。
「あそこ……? あっ、パフィさんにアリエッタちゃん! と、ピアーニャ総長……」
「何故あのような場所に? それにミューゼさんと一緒で水着ですね……」
家や木より高い位置で蔓に捕まっている水着の少女達を見て、誰もが問いたくなる事を代表して口にするツーファン。それもその筈、先程まで宿にいた事はミューゼから聞いている。
疑問は後で直接本人に投げれば良いと思い、ネフテリアはアリエッタ達の救助と、『スラッタル』の弱点を狙う討伐に分けようとした。
「ちょっと待った。どうせ尻尾の方も蔓まみれなんだ。ここで救助しつつ全員で対策を練った方がよくないか?」
「貴方は……メネギット人ね。その足でもあの蔓は飛び移れない感じ?」
「まぁ流石にあそこまで動かれると……」
鳥のような足を持っている男性は、分枝のリージョン『メネギット』からやってきた植物園の係員。メネギットとは広大な空中に点在する島と、網のように広がる枝のような大地によって成り立つリージョンである。細い地面の上で暮らす彼らの足は、鳥のように進化し、対趾足…つまり前後X型になっている。それは枝や細い物などを包むように掴んで離さず、垂直でもある程度立つ事が出来る形状なのだ。
しかし蔓を掴んでも、足場がウネウネと動いていては動く事など出来ない。
「じゃあどうしようかしら」
「今はどうしようもない。注意深く観察して、突破口を見つけるしかないんじゃないかな?」
「うーん……」
早く助けてあげたいネフテリアにとって、何もしないのはただ辛い。せっかく人数が増えたという事もあり、今出来る事でなんとか行動を起こしたかった。
悩むネフテリアをよそに、男達はアリエッタ達に出来る限り近づき、蔓を相手に色々試しながら、救助対象を真剣な顔で見つめていた。
上ではパフィが全身を振り子のように動かしながら、必死にカトラリーを振り回し、アリエッタに近づく蔓を斬っている。例え自分にまとわりつく蔓があっても、アリエッタを優先し、処理を後回しにしている。ネフテリアからは保護者の鑑にしか見えなかった。
オスルェンシス、ツーファンも蔓をどうにか排除出来ないか、斬ったり千切ったりしている。しかし、太い蔓と違って簡単に切れるが、再生が早く一向に減る様子が無い。
これはいよいよ出来る限り慎重に燃やすべきかと考え始めるネフテリア。そこへ男性陣の呟きが聞こえてきた。
「……もう少し」
「惜しいな」
「そこ……いいぞ」
真剣な顔で上を見上げる男性陣を見て、本気で対策を考えてくれている…安心して頼れると感じていた。
(この人達にとっては初対面だというのに……良い縁ってやつかしら。これならもう少しでパフィ達を助けられそうね!)
見上げると、丁度パフィのフォークを持つ腕が絡めとられ、もう1本の別の方向からカーブを描いて近づいた蔓が、パフィの胸にぶつかったところだった。
「このっ!」
すぐさま2本の蔓を斬り落とし、アリエッタに近づく蔓をフォークで巻き取って引き千切る。逆さまに吊られているとは思えない程、完璧に怯えるアリエッタを護っていた。
「凄いわね……ん?」
感心するネフテリアだったが、少し興奮した感じの話し声が聞こえてきた。
「今の見たか!?」
「ああ、当たったな! すげえ弾力だ!」
「マジか! 蔓いじってる場合じゃねえ!」
「もっと頑張ってくれないかな。あれだけ揺らしていれば水着はじけ飛ぶのも夢じゃないぞ?」
「あのちっちゃい子の太腿に絡まってるやつ、あれをあの巨乳っ娘にもやってくれ!」
「なんなら水着の中に潜り込め! お前なら出来る!」
『頑張れエロ触手!』
声援や野次は、どう聞いてもパフィや自分達に向けられているものではない。さらに蔓を掴んで動き方を教えるかのように動かし、通じない指示を出している。
先程メネギット人が全員で救助に取り掛かると提案したのは、蔓に絡まれる巨乳水着美女をみんなで仲良く拝む為だったのだ。
「………………」
聞いているうちに表情が消えていたネフテリアは、テンションの上がった男達の背後へと静かに歩いて行き……
『(社会的に)死んで来いアホどもっ!』
いつの間にか同じ表情で集まっていた女性陣全員で、スケベ男達を蔓の中に蹴り飛ばした。
『ぎゃああああああ!!』
「なにしやぁぁがるぅぅひいぃぃぃ!?」
「ひぃぃ服の中に侵入してきたあああああ!?」
「やめろおお! ズボン引っ張るなああああ!! いやああああ!!」
「こんなの誰が喜ぶんだよおおお!!」
野太い悲鳴が辺りに響き渡る。
細くしなる蔓が服の隙間へと入り込み、徐々に服を引き千切っていく。何とも言えないアダルティな光景に、アイゼレイル人の係員とファナリア人のシーカーがちょっと嬉しそうにニヤニヤし、まだ精神が若いネフテリアは顔を赤くして目を逸らす。
「無駄な時間を過ごしたような気がする……早く助けたいのに!」
少しでも信頼した自分がバカだったと、本気で後悔していた。
「ネフテリア様。ここは私の兄に特攻させ、その後ろから援護。無理矢理救助するというのはいかがでしょうか」
突然のツーファンの提案に、特に何も作戦が思い浮かんでいなかったネフテリアは、少しだけ考え、やってみるしかないと決心する。
「分かったわ。それじゃあその兄という方を……兄? ってツーファンのおにいさま?」
そんな存在がいたのは初めて聞いたという事と、今そんな人がここにいるのかなど、様々な考えが脳裏をよぎり、聞き返す。すると、ツーファンが顔をしかめながら、無言で横にいる者を手で示した。
「………………えっ」
そこに立っているのは純白のワンピースを身に纏い、筋肉をアピールするコーアンのみが立っている。
「……うっそおおおおおおっ!?」
それがツーファンの兄だと認識するまでに若干時間がかかったが、ツーファンが心底嫌そうにしている事と、無駄な嘘を吐く人物ではないという事は知っているせいで、絶叫と共に納得せざるを得なかった。
筋肉隆々の女装男は叫ぶ王女を前に、少し太く長いバルナバの実を両手に握りしめ、ニヤリと艶めかしい笑みを浮かべていた。