コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
色々とややこしい事になっているネフテリア達の上空、水着のまま蔓に囲まれているアリエッタは、ピアーニャを抱きしめる事しか出来ず、ただパフィに護られている状態となっている。
頼りにするべきピアーニャが動けないのは困りものだが、アリエッタが恐怖で動かなくなっているのは、今のパフィにとっては護りやすいという有難い状態だった。
もちろんアリエッタにも、自分がずっと護られているという自覚はある。その事を情けないと思った瞬間、アリエッタに考える余裕が少しだけ生まれた。
(そ、そうだよ。僕もぱひーを助けなきゃ! ママと強引に入れ替わったんだし、どうにかしないと!)
いくら無意識のうちに幼児退行が進んでいるとはいえ、アリエッタは成人男性だった頃の記憶を元に大人と同じ思考をすることが出来る転生者。
しかし、だからといって何か妙案が浮かぶかという訳ではなかった。横でパフィが叫んでいるのを聞き、ピアーニャを抱きしめながら、空中で考え事をするというのは、今の落ち着かない精神状態のアリエッタにはどう頑張ろうと不可能なのである。
「ぅ…ふえぇぇ……」(どうしようどうしよう! このままじゃいやらしい事される! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!)
咄嗟に頭に浮かんだのは、しょうもない事のみ。前世では様々な絵を描いていたので、当然のようにコミックの有名なイベントにも詳しかったりする。
自分の今の姿を思い浮かべ、周囲でウネウネうごく触手を見て、そのシチュエーションに少しドキドキするが、どう考えても自分が被害者枠だという事に絶望し直していた。
さらに……
(って僕だけじゃないじゃん! ぱひーもぴあーにゃもいるよ! 最悪だああああああうわああどうしよおおおおお!!)
(くるしいくるしい! チカラをゆるめてくれアリエッタぁっ! なんでシリをつかむ!? うわわヘンなとこさわるなああ!!)
大好きな恩人と大切な妹分も一緒にいる事が、アリエッタを再びパニックに引き戻した。それでもピアーニャの大事なモノを身を挺して護ろうと、必死に手足を動かしている。
そんなあられもない少女達の姿を、パフィは蔓の処理をしながら真面目な顔で睨みつけていた。
(なんって羨ましいのよ……アリエッタにあんなにイチャイチャされてるのよ。総長め、後でどう料理してくれるのよ……)
(ひぃっ!? なんかサムい! ミズギだからか!?)
森で出会ったその時から、アリエッタにその身を捧げると誓ったパフィの嫉妬は、抱きしめられて何も見えないピアーニャに悪寒を感じさせた。今のピアーニャにはその出所を確かめる事も、対処する事も出来ない。出来る事はアリエッタの首元に手を伸ばして、虹色に輝く髪を保護しながら恐怖する事だけである。
「めっ! ぴあーにゃ、めーっ!」(護らなきゃ護らなきゃぴあーにゃを護らなきゃあああ怖いよおおおみゅーぜ助けてええええ!!)
「んす-っ! んすーっ!」(もういやだぁ! くるしいし、アリエッタがへんなトコさわるし、なんかしらんがコワいんだがあああ!?)
「うおおおああああ!!」(総長ゆるさないのよおおお!! 私もベタベタ触ってほしいのよおおお!!)
3人とも違う意味で錯乱し始め、もうどうやってこの場を切り抜けるかなどは考えなくなっていた。ただそれでも、パフィの蔓を処理するスピードは各段に上がっていった。ピアーニャに対する嫉妬を蔓への殺意に変えて、ただひたすらにフォークで千切り、ナイフで斬り飛ばしていく。
そんな最中、嫉妬に狂うパフィの名を呼ぶ声が聞こえた。
「パフィー! だいじょうぶー!?」
「ぅおおらあああああっ!」
「んすぅぅぅぅぅ!!」(おおテリアたすけてくれえええ!!)
「あ、だめだ聞こえてない」
聞こえたのは、アリエッタの胸の中で辛うじて鼻で息をするのがやっとなピアーニャのみだった。残り2人は我を忘れていてそれどころではない様子。
返事が無いので一旦諦めたネフテリアは、実は既にアリエッタ達の真下に来ていた。もちろん蔓の群れの中である。
その近くには、蔓を片手に掴み、もう片手を地面に手を入れているオスルェンシス、バルナバの実を携えながらネフテリアを傍で護るツーファン、両手でバルナバの実を振り回し、迫りくる蔓をひたすら切り刻むコーアンの姿がある。
これまで持っていなかった筈のその武器は、足元に沢山落ちている甘くて美味しいバルナバの実。ラスィーテ人としての能力によって、バルナバの実の殻を途中まで剥き、加熱・乾燥・冷却を駆使して果汁と糖分を固め、鋭利な刃物状にカットして仕上げたのだ。ある程度自由に形を変えられ、食べる事も可能な【フルーツウエポン】と呼称されるラスィーテの技術である。
蔓の処理をラスィーテ人の兄妹に任せ、ネフテリアは小さな明かりの魔法を使い次の指示を出す。
「シス! 今のうちに3人を!」
「はい!」
オスルェンシスは、蠢き続ける蔓の影に手を入れていた。影を介してアリエッタ達を救助するつもりなのだ。
シャダルデルク人の能力に、影の主を操るというものがある。影を自在に動かし、その本体が逆にその通りに動くという便利なものだが、オスルェンシス曰く、実は制約と制御がとにかく難しいとのこと。
まずは自分の影の面積をまでしか影を操れない事。その為、明かりの魔法を使ってオスルェンシスの影を伸ばしたのだ。小さくしたのは、蔓の影を消さない為である。操る影が無くてはどうしようもない。目標の蔓の影の方には光が向かない様、ネフテリアが壁となって防いでいる。
そしてもう1つ、影の外でやらないと、状況が全然把握出来ない事。手に持った道具のように使うので、影の中から操ると、周囲がどうなっているのかさっぱり分からないのだ。当然その間は無防備になる。
それを踏まえて、3人がオスルェンシスの護衛となって、アリエッタ達の下にある蔓の影までやってきたのだった。目的はもちろん、影を動かして蔓を地上まで下ろし、3人を救助する事である。
あとついでに、役に立っていないピアーニャを揶揄って奢ってもらう事も予定に入れていたりする。ちょっぴりニヤけるネフテリアの横で、オスルェンシスが影の中で何かを掴むような動作をした。
「これですね」
「上手くいきそう?」
「ええ、あとは引っ張るだけです」
力を込めると、蔓の影の一部がゆっくりと動き出した。それに合わせて、上の蔓がゆっくりと下りてくる。影の大きさや濃さを調整することで、距離も調整できるのだ。しかしかなり難しいようで、時々あらぬ方向にずれたり、位置ではなく形が変化したりする。
その動きを心配そうに見つめ、ネフテリアは暴れるパフィをどうやって止めようか悩み始めるのだった。
「せめて魔法で落とさない所まで下ろしてくれれば……『スラッタル』が全然動かない今のうちに」
一方で、下がそんな真面目な事になっているとはつゆ知らず、アリエッタの妄想は変な方向に膨らんでいた。
(将来僕はみゅーぜの魔法で滅茶苦茶にされて……やだどうしよう、でもみゅーぜなら……ってちがうちがう! そうじゃないよ今はぱひーが大変なんだって!)
うっかりトリップしていたが、なんとか自分で我に返った。
そのまま大変な事になっている…と思っているパフィの方に顔を向ける。
「アリエッタ! 大丈夫なのよ! 私が護るのよ!」
「ぱひぃ……」
逆さまで自由に動けないにも関わらず、果敢に武器を振り、自分を護ってくれているパフィを見て、徐々に頬が赤く染まっていく。
(ふわぁ……さすがぱひー。かっこいいなぁ♡)
護られて心がときめく。そんな乙女心が開花しているアリエッタ。熱い視線をパフィへと送る。そしてピアーニャを抱きしめる腕の力が少し強まった。
(うおおっ!? なんだどうした!? アリエッタのコドウがはやくなってるぞ!? もしやキキテキジョウキョウなのでは!?)
顔を塞がれ状況がさっぱり分からないピアーニャは、心拍数が上がる程の状況を想像し、焦り始めた。
熱い視線を正面から受け止めるパフィは、その熱さによってさらにヒートアップしていく。
「うおおおおアリエッタ! アリエッタああああ!!」(そんな目で見つめられたら、私おかしくなるのよおぉぉ!! もう結婚するしかないのよ!!)
会話する程の言葉を習得していないアリエッタの気持ちを知るには、表情をよく見るのが1つの手段となる。そういう理由を利用してアリエッタの顔を直視し放題なパフィにとって、アリエッタの熱っぽい表情の意味は非常に分かりやすいものだった。
身体とカトラリーを振り回しながら妄想が暴走し、頭の中でお風呂がどうとかベッドでナニがとか考え始め、だらしなくニヤけた口からはヨダレを辺りにばらまき始めてしまう始末。
下にいるネフテリアとオスルェンシスがそれに気づき、ドン引きして集中力を乱してしまい、折角少し近づいていたアリエッタ達が、再び遠のいてしまった。
アリエッタにもよだれは一応見えてはいるが、それだけ必死になってくれているという結論にたどり着いた為、心配でしかない様子。
(ぱひー、そんなに必死に僕を護って。駄目だよ…ちゃんと自分を護ってよ……ぱひーが触手に変な事されるのなんか見たくないよ……なんでこんな事になってるんだよぉ。楽しい海水浴だったのに……なんで……)
パフィの気迫で完全に現実に戻ってきたアリエッタは、思い出したかのように今の自分達の状況を嘆き始めた。
今も恥ずかしい水着だが、ミューゼ達が喜んでくれるならと、思い切って着るようになった。可愛いピアーニャの水着も頑張って改良した。一緒に街へ出かけて美味しい物も食べた。恐怖と悲しみの中で、それらを鮮明に思い浮かべていく。
「ぱひー……」
いつの間にか泣いていたアリエッタが、震える声でパフィの名を呼んだ。
パフィが反応して顔を見たその時、大粒の涙がアリエッタから零れ落ちた。
「あ……」
その泣き顔を見たパフィの声が途切れ、カトラリーの動きが止まった。
そして涙が地面に落ちた。
ブチィッ
何かが切れたような音が、かなり小さく、しかしどういう訳かはっきりと、下にいる全員の耳に届いた。
次の瞬間──
ドゴォォォォッ
「!!?」
突然『スラッタル』の巨体が、巨大な何かによって、横から貫かれた。
「みゅイイイィィィ!?」
動かない『スラッタル』から悲鳴があがる。
さらに、木の体を突き破って内部から別の木が生えてきた。そのまま緑の葉を生い茂らせていく。
「これ……は……まさか!」
その現象の正体に気付くと同時に、頭上に異変を感じたネフテリア達。見上げるとそこには……
「大丈夫? アリエッタ」
「……みゅー…ぜ?」
ほとばしる炎に囲まれ、蔓に所々巻き付かれて吊られた水着姿のミューゼが、優しく微笑みながらアリエッタを撫でていた。さらにミューゼの上には、自由になったパフィが乗っている。
『ナニコレどういう状況~~!?』
下ではネフテリア達4人のリアクションが、綺麗に揃っていた。
ちなみに少し離れた場所では、蔓に絡まれ続ける男達があられもない姿で、ちょっぴり艶っぽい悲鳴をあげ始めていた。