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翌日、起きてからすぐにかるてっとさんのところへ行く準備を始めた。準備といっても近くなので、持っていくのはスマホと財布くらいだが。もしかしたら、じらいちゃんが居なかったのは夢の中での出来事かもしれないと考えたりもしたが、やはり朝起きても家の中に恋人の姿は見当たらなかった。
まあ、もう恋人といっていい関係かどうかも怪しいが。
徒歩で行くには少し遠いが、考えをまとめるにはちょうどいいだろうと思い、ゆっくりと歩きながら考えを整理する。
「薄れゆく愛」、昨日からずっとこの花言葉について考えているが、わざわざこの花を置いていくなんて、じらいちゃんの愛が薄れたとしか考えられないだろう。
……だとしたら、もしじらいちゃんに会えて話し合ったとしても、出るのは別れ話だけだろうか。
じらいちゃんと別れるつもりなんて毛頭ないけれど、好きな人から「別れたい」と直接伝えられるのは怖い。
僕と一緒に居ることがじらいちゃんの幸せだとは限らないし、じらいちゃんはそう思わなかったから家を出たのだろう。
でも、僕はじらいちゃんとこれからも一緒に同じ時を過ごしていきたい。
……なんて、好きな人の幸せよりも自分のわがままを優先して行動してしまう。
僕はだめな恋人なのだろうか。じらいちゃんに幸せな人生を送ってほしいけど、僕と一緒に過ごして欲しい。
相反する二つの感情が自分のなかでぐるぐると同じところを廻って、どんな行動をするのが正解なのかどんどん分からなくなっていく。正解なんてないのだろうけど、できるだけじらいちゃんを傷つけたくないし、嫌われたくもない。
そんな考えが堂々巡りをしてしまって、結局自分の中で答えが出ないままかるてっとさんの家についてしまった。
一度深呼吸をして心を整えてからインターホンを鳴らし、かるてっとさんが出るのを待つ。
かるてっとさんは少し驚いてから、慌てたように、少し部屋を片付けるので待ってほしい、と返事をした。
連絡もなしにいきなり来たのだから当たり前だろう。中からバタバタと片づけているであろう音が聞こえた後、少ししてからドアが開く。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、こちらこそ連絡もなしにいきなり来てしまい申し訳ありません」
じらいちゃんが居たら部屋の中に僕を入れるなんてできないだろうし、やはり、じらいちゃんは居ないのだろう。
そもそもそんなに期待していなかったし、かるてっとさんに心当たりがないかだけ聞いて帰ろう。そう思い、急に押しかけてしまったことに罪悪感を覚えながら、今いきなり帰っても変だろうととりあえず家に上がらせてもらう。
しかし、玄関で靴を脱ごうとしたときに、一足、見慣れた靴を見つけた。
よくじらいちゃんが履いているお気に入りの靴だ。たまたま同じ靴を持っていたのかもしれないが、少し気になりかるてっとさんに尋ねる。
「この靴ってかるてっとさんのものですか?」
「え?あー、えっと…そうですよ?」
いつもはきはきと答えるかるてっとさんが口ごもるのが気になりながらも、確証はつかめないまま部屋に上がる。
「はこたろーさんがいきなり来るなんて珍しいですね?まだじらいちゃん見つかっていないんですか?」
「連絡もせずにすみません。昨日からずっと探しているんですけど、まだ見つかっていなくて……かるてっとさんはじらいちゃんの行先に心当たりないですか?」
「すみませんちょっとわからないですね。僕からも連絡してみたんですけど、既読が付かなくて……」
「そうですか……すみません。本当は二人で解決しなければいけないんですけど、僕も、連絡は取れないし近所を探しても居ないしで、八方塞がりになってしまって……」
「僕にできることだったら喜んで手伝いますよ」
それから、かるてっとさんには最後に連絡を取ったときのじらいちゃんの様子なども訊いてみたが、特に大きな収穫はなかった。