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テヒョンside
屋上に出る扉の前で、僕たちは長いこと2人で泣いていた。どれぐらい時間が経っただろうか。
…階段をダダダッとすごい勢いで駆け上ってくる足音がして…
「ジミナーー!!テヒョン!!」
ジン先生だ!
先生は僕たちのところに駆け寄ると、へなへなと床に座り込んでしまった。
ジン先生の顔は涙と汗でぐちゃぐちゃで、そんな先生の姿を見たのは初めてだった。
「良かったぁぁぁ(泣)」
先生はものすごく優しい顔をしてジミナの顔を覗き込み、頭を撫で撫でして言った。
「ジミナァ…大丈夫〜?」
「う…ぐすん…ごめんなさい……」
「謝らなくていいんだよ。ジミナが無事ならそれでいいんだから。」
そう言ってジミナを力いっぱい抱きしめた。
それでジミナは、
「うわあああああん」
と、また大泣きしてしまった。
「大丈夫大丈夫、ジミナはいい子だねぇ。先生ジミナが大好きなんだよ。無事で本当に良かった〜。」
ジン先生に抱きしめられているジミナを見たら、なんだか胸がいっぱいになって…それに先生が来てくれたことに安堵して、僕もまた泣いてしまった。
あえて何にも訊かずに、ただジミナを抱きしめてくれた先生の優しさが、僕は嬉しかった。
「ジミナ〜ちょっとだけ診察。お顔見せて。脈とるよ。」
ジン先生はジミナの顔や首を触って、それからジミナの動かない右腕を優しくとると、手首で脈を計った。
「ちょっと不整脈でちゃってるかな…階段すごい勢いで登った?」
「ぐすん…ごめんなさい…。」
「大丈夫だよ。みんな心配してるし、とりあえず病室戻ろっか。」
ジン先生はポケットからハンカチを出すと、ジミナと僕の涙を順番に拭いてくれた。
「ジミナの心臓に負担かけたくないから先生がおんぶするね。テヒョンは大丈夫?歩ける?」
「う、うん…。」
僕も腰が抜けてしまったようで足もへなへなだったけれど、なんとか立ち上がる。
ジン先生はジミナをおぶりながら、僕とも手を繋いでくれた。先生の手は汗ばんでいて温かくて、僕を安心させてくれた。
らせん階段をゆっくりと降りていく。ジミナは先生の背中におぶさって、泣きながら尋ねた。
「ヒック…ヒック…先生、注射…する…??」
「うーんどうかなぁ。とりあえず病室戻ろうね。」
ジン先生は病室のベッドにジミナを下ろすと、
「みんながまだジミナ探してるから、大丈夫って伝えてくる。すぐ戻るから待ってて。」
そう言って急いで出て行った。
ジミナはベッドに座って、まだ泣いている。しゃっくりあげていて、泣き止みたくても泣き止めないのだろう。とても苦しそうで可哀想で…僕は横で背中をさすって「大丈夫大丈夫」とおまじないのように唱えていた。
ジン先生はすぐに、注射のトレーを持って戻ってきた。
「ジミナごめんね、やっぱり注射1本だけ、頑張れる?」
「ヒック…ヒック…い、痛いやつ…?」
「そうだねぇ。ちょっと痛いかな。肩か、お尻、どっちにする?」
「か、肩……ぐすん…」
「テヒョン、ジミナのこと座ったまま抱えて支えてあげて?動くと危ないからね」
「うわーーん」
「ほらほら、まだ痛いことしてないよ〜?」
「ジミナほら、ここおいで。」
僕はベッドの上にあぐらをかいて座ると、泣いているジミナを持ち上げて自分の足の上に載せ、正面から抱っこした。左手でジミナの背中を抱え、右手でジミナの頭を自分の肩に押し付ける。
「ジミナ大丈夫だよ。僕に身体全部預けていいからね、楽〜にしてて。」
「そうそう、力入ってると余計痛いからね。ごめんね肩出すよ〜。」
「い、いやぁ…」
先生が、嫌がるジミナの入院着の襟元を開けて肩を出す。
ジミナは僕の肩に頭をもたせかけ、僕にしがみついて泣いていた。
「ジミナきいて。3つ数えてるうちに全部終わらせる。だから痛くても動かないで我慢してね。」
僕もジミナをかかえて背中をさすりながら、先生に合わせて一緒に数を数えた。
「いーち…」
「いったぁーい…(泣)」
「にーい…」
「ぅぅぅぅ…」
「さーん…はい終わった!」
先生は注射跡を揉み揉みしてから、入院着をなおしてくれた。
「よしよし、ジミナもう痛いの終わり〜。」
僕はジミナの頭を撫でた。
ジミナは、色々あってもうキャパオーバーなのだろう…。注射が終わっても、ずっと小さな子供のように泣きじゃくっていた。
僕は座ってジミナを抱っこしたまま、足の上であやすようにゆらゆらしていた。
ジン先生は、ベッド脇の椅子に座ってずっとそばで様子を見守ってくれていた。
…するとジミナはすぐに目がトロンとしてきて、僕の腕の中でことんと眠ってしまった。
「…実はね、さっきの注射、心臓の薬じゃなくて鎮静剤だったの。ジミナあんまり興奮してたし、ずっと泣いてるのも心臓に負担かかるから心配でさ…効き目が早い方が良くて注射にしたんだけど…ジミナに可哀想なことしてしまった、ごめんね。」
「そうだったんだ、どうりで…。」
「だからジミナ、そう簡単には起きないと思うよ。」
華奢なジミナでも、眠った途端にぐったりと重みがかかってくる。
僕は泥のように眠り込んだジミナをそーっとベッドに寝かせ、首元まで布団をかけた。
僕の片割れの、大切なジミナ。
すやすや眠るかわいいジミナの涙をタオルでそっと拭く。安らかな寝顔を見て、ようやく僕はホッとひと息ついた。
それから僕はベッド脇の椅子に座り、ジン先生と話をした。
「先生、あのね、ジミナね……」
僕は言葉に詰まって、泣き出してしまった。
「うんうん…先生わかってるよ…。テヒョンもびっくりしたね、怖かったよね…。」
「…ジ、ジミナね…どんどん身体がダメになってくのが、怖かったって…充分生きたから、もういいやって思ったって…ぐすん(泣)」
「そうかそうか…。先生もっとジミナと沢山お話して、様子もちゃんと見るべきだった。テヒョンに全部任せてしまってた。悪かったね。ジミナを止めてくれて、本当に、ありがとう。」
「ううん…。先生、ジミナかわいそうだよぅ…(泣)あんなに右手を大事にしてたのに動かなくなっちゃって…。両手とも動かないなんて、もう何にもできないじゃん…これからどうしよう…。」
「ねぇテヒョン、先生も一緒に頑張るから、ジミナのリハビリ支えてあげよう?ジミナの手でも、日常のことが出来るように、一緒に方法考えようよ。」
「う…う……(泣)」
その夜、僕はジミナのベッドで、ジミナを抱きしめて寝た。今日あったことを思い出すと胸が締めつけられて、苦しかった。
死のうとまで思い詰めてたなんて…どんなに苦しくて、辛かっただろう。
もし屋上の扉が開いていたら…考えるだけでゾッとする。皮肉だけれど、ジミナの手が動かなくて、屋上の扉が開かなくて、本当に良かった…。
僕の腕の中で、ジミナはスースーとかわいい寝息をたてていた。
僕はそっと、ジミナの胸に耳をつけた。ドクンドクンという鼓動が規則正しく聞こえてくる。心臓、ちゃんと動いてるんだ。それだけが唯一確実なものだ。
ジミナは生きてるんだ。…危ないところだったけど、ちゃんと僕のところに戻ってきた。
明日になったら、リハビリのこともジミナと話してみよう。
そう考えながら、僕はそっと目を閉じた。