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リハが終わったあと。ほかのメンバーが帰った静かなスタジオに、
若井と涼ちゃんだけが残っていた。
片付けをする手を止め、若井が静かに言う。
「……最近、避けてるよね」
涼ちゃんは一瞬だけ動きを止め、
「そんなことないよ」と笑ってみせた。
けど、その笑い方があまりに薄かった。
「嘘だろ」
「嘘じゃない」
「じゃあ、なんで目も合わせないんだよ」
若井が一歩、近づく。
涼ちゃんは無意識に一歩下がる。
そのたびに、床が小さく軋む。
「……やめてよ、若井」
「なんで。俺、ただ聞きたいだけだよ」
若井の声が低くなる。
真っすぐな視線が、涼ちゃんを捕まえる。
逃げたくても、逃げられない。
そのまま、後ろの壁に背中が触れた。
「そんな顔、見たくない」
「……顔?」
「泣きそうなのに笑う顔」
若井の言葉に、涼ちゃんの呼吸が少しだけ乱れる。
胸の奥がむずむずして、心臓が早くなる。
「俺……どうしたらいいのか、わかんない」
その声は、怒鳴り声でも泣き声でもなかった。
ただ、真剣で、切実だった。