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「 人間って気持ち悪いよね 」
それが私達の口癖だった。
いつからこの世界がこんなにも醜く見え始めたのか。
そんな事は 誰も解らなかった。
私達はいつも笑い声が響く廊下に居る。
いつしかこの廊下が私達の集合場所になっており、休み時間はそこで必ず時間を潰す事にしていた。
蝉の声が聞こえ始め、周りの生徒が皆半袖半ズボンになり始め、暑いね、なんて愚痴を零しながら下校する初夏。
それでも生徒の間での話題は賑わう。
夏休み、 そんな学生にとってのビッグイベントが控えているからだ。
夏休みどこ行く? 夏祭り一緒に行こうよ、
そんな蒸し暑い話題が飛び交う。だが、私達の会話にそんな言葉が飛び交う事などない。
昔だって私達は夏休みを、夏を楽しむ事だってできた。
だが、最近はそんな色が着いたものでさえも、楽しめなくなっていた。
私達の会話は大抵殺伐していて、色なんてない。
今日もいつものように、朝登校してきて、廊下で集まる。ルーティンだ。
明日からは夏休み。皆浮かれ気分だ。
そんな中、朱里がふと呟いた。
「 私さ、夏休み中スマホ没収されるってさ。
外出も禁止だって 。 」
いつもはうるさいくらいの声量の朱里から発せられたとは思えない、そんな静かで平坦な声だった。
「「 え? 」」
菖と美琴は声を合わせ、そう呟いた。
「 待って、どういう事? 」
美琴が慌てたように呟く、菖も何で?と言わんばかりの顔をする。
「 ほら、私達受験生じゃん??だからー、ほら。
学業に専念しろ、ってさ。 」
朱里からは納得出来ない、と言う感情が滲み出ているのが目に見える。
朱里の親が勉強に対して厳しい、というのは知っていた。
テストの点数は400点いかないとスマホ没収、外出禁止。
朱里は頭が良かった為、そんな事は一度もされずに済んでいた。
だが、今回は無条件だ。夏休みだからと言ってスマホ没収、外出禁止を余儀なくされた。
「 … やばくない? じゃあカラオケも行けない? 」
菖が呟く。
私達の唯一の楽しみである、カラオケ。
何も考えず、馬鹿騒ぎできるあの箱の中が、
私達には丁度良かった。
世界から遮断され、私達だけの空間になる。
「 …… そうかもね 。 」
朱里は何処か切ないような顔をした。
菖と美琴は顔を合わせた。
ただでさえ、憂鬱な夏休み。
こんな事聞かせられたら、もっと憂鬱になるに違いない。
朝なのにも関わらず騒がしい廊下の片隅で、3人だけが隔離されたように、立ち尽くしていた。
89
すず
100
白冥
先生の落ち着いた声、黒板にチョークが当たる音、クラスメイトのシャーペンを鳴らす音が響く退屈な授業中、菖は考えていた。
…… 大人って気持ち悪い。
縛る事が正しいと思っている、そんな大人が気持ち悪くてしょうがなかった。
大人に あれをやりなさい。 これをしなさい。と言うと逆にやりたくなくなる。
そんな経験を子供の時、誰しもがした事があるだろう。
人にあれをしろ、これをしろ、と言われるとやる気が無くなる。そんな事は痛いくらいよくわかるだろう。
自らもそんな経験をしてきたのにも関わらず、何故大人はいつでもそう言うのだろう。
縛る事が逆効果だと言うこともわからず、ただ縛る。縛る。縛る。
そうして子供が壊れかけているにも気づかず、縛る。そして壊れた頃に、ようやく気付く。
あたかも自分のせいではないように、駆け寄る。
未成年が何故自殺、自傷行為、非行に走るのは何故か。
1番多いのは学校問題、そしてその次に多いのは親子関係などによる家庭問題だ。
自殺はしてはいけない。親からせっかく貰った大切な命を自ら投げるな。自傷行為はやめなさい。非行なんて有り得ない。
大人はそんな言葉をすらすらと並べる。まるで原因が100%自分達に無いかのように。
その理由の中に、自分達が居ないかのように。
……本当に、気持ちが悪い。
そんな事を考えながら授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
2時間目、始まりのチャイムが鳴った。
一礼をし、席に座る。
シャーペンの芯を出したり戻したりしながら美琴は考えていた。
… 大人って気持ち悪い。
すぐ優劣を付けたがる。
子供をただの所持品としか思っていないのか。
いい高校に行きなさい。
そんな言葉を子供に向けて口にする大人は、
きっと子供を自分の第二の人生だと思っているのだろう。
自分が出来なかったことを子供で叶えようとする。
以前、朱里に聞いた事がある。
” ちなみに朱里の親って頭いいの?”
朱里はこう答えた、
“ううん?全然。”
その返答を聞いた時、美琴は寒気がした。
その瞬間に、ああ。自分が出来なかった事を子供で叶えようとしているんだ。
そう実感し吐き気がした。
所詮、大人は学力でしか人を見ない。
頭がいいければいい、頭が悪ければ悪い。
そんな事は誰が決めたのだろうか。
ポテンシャルが高ければいい。
所詮大人はそんなもんだろう。
自分が一緒にいて都合のいい方、自分が期待している方に眼差しを向ける。
いつでもそうだ。
こいつはだめだ、とわかった瞬間、目を背ける。
所詮、所詮そんなもんだ。
……本当に気持ちが悪い。
美琴はそんな事実に目をきゅ、と瞑り、黒板へ視線をあげた。
放課後のチャイムが鳴る中、3人は廊下に居た。
これで、学校を出てしまえばもう夏休みに足を突っ込むのも同然だ。
3人は一言も言葉を発しなかった。
“もう帰れよ”
そんな先生の言葉が私達に突き刺さる。
私達は重い腰を持ち上げ、昇降口へと歩いていった。
コメント
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読み終えたわ…重い、でもすごく刺さった。 朱里の「スマホ没収・外出禁止」を淡々と言うシーン、あの平坦さが逆に胸に来た。 「大人って気持ち悪い」っていう口癖、3人それぞれの視点で反芻される構成が上手いなと思った。 菖も美琴も大人の“縛り”や“第二の人生扱い”に気づいてるけど、抗う力もないもどかしさがリアル。 夏休み前のあの静けさ、地獄の始まりって感じで続きが気になるわ。 鮎さんの空気感の描き方、好きだわ🔥