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YK
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仁人side
あんなに絶望的な夜を超えて、今こうしてる。
勇斗の温もりが、今ここにある。
すげー馬鹿な奴だって、思う。
だけど、間違いなく勇斗がいいんだ。
だから俺も気持ちを伝えよう。
やっと辿り着いた気持ちを。
「俺も…お前を愛してる」
そう伝えると勇斗は泣きそうに笑った。
―――
あの日から数日経ち、俺の体調も元に戻った。
俺たちの距離感は変わらず、変わったことといえば、仕事の後にどちらかの家に一緒に帰ることが増えたという事ぐらいだろう。
それと…
「…今日は勇斗んち行く」
「…ああ、配信あるしそうして」
「あーまたイチャイチャしてるー!」
コソッと耳元近くで言うと勇斗も小声で返した。
その様子に気付いた舜太が苦悶の表情で叫ぶ。
その大袈裟な様子に笑いが込み上げる、
「いやいや、してないから」
「してた!」
「いつもの事でしょ」
まるで癇癪を起こした弟を宥める姉のように冷めた様子で柔太朗が言った。
…驚く程にいつも通りだ。
俺たちの距離感は変わらない。
前からこんなものだったから、それに今助けられている。
勇斗が近くに居ても変に意識することなく過ごせている。
勇斗も、周りに人が居たら……というか2人きりの空間以外ではシゴデキのイケメンを装っている。
言葉に語弊がうまれるが、俺と親密になった勇斗はとにかく頼りなく、俺の前では甘えたり落ち込んだりと今までとは少し違った顔を見せるようになっていた。
嫌ではなかった。
恋人の前でしか見せない無防備な顔を見せてくれているのだろうから。
「…」
一つだけ。
違和感があるとすれば…
あの夜の、初めてそうなった日から俺たちに肌の触れ合いは無い。
あれから同じベッドで眠る夜も増えた。
手を繋いだり、体を近くに寄せて寝たりはする。
けど、それ以上の親密なやり取りはなかった。
夜眠る前に必ず、優しく触れるだけのキスをする。
俺がつい勇斗を見つめると、「おやすみ」と言って目を閉じるんだ…。
なんとなく宙ぶらりんになった身体の熱をなんとか誤魔化して俺も眠りにつく。
あまりこちらから、したい、という事に躊躇いがあった。
気持ちは通じあっている。
だけど俺は、正直なところ自分の身体に自信を持てないでいた。
それに、男同士の恋愛というものがよくわからなかった。
そしてなにより、勇斗が現状で満足しているのならそれでもいいかと自分を納得させていた。
「…」
「…仁人?」
「…あ」
「どした?」
「いや…」
「体調悪い?顔色は普通に見えるけど…」
「…」
すぐに額に手を当てて確認をされる。
あの日から少しだけ勇斗は心配性になっていた。
「…平気。考え事してただけだから」
「そう?ならいんだけど」
「うん」
触れられたところが熱を持って、ジクジクと身体に残った。
メイクを終えてリップで艶が出た唇にもつい目がいってしまう。
……これじゃあ欲求不満みたいだ。
考えを無理やり隅に追いやり、その日の仕事を終えた。
―――
もうすっかり第二の自宅のようになった勇斗の部屋にやってきた。
玄関のドアを閉めた途端手を握られた。
「…」
隣を見上げると、ニコニコした勇斗が俺を見つめていた。
二人になれて嬉しい、と顔に書いてあるようだった。
「…勇斗」
「…ん?」
「…キス、したい」
「……」
「…して?」
握った手の指を絡めて、勇気を出してそう告げた。
「…」
チュッ、と触れるだけのキスが落とされた。
「…」
もっと、と言いたかった。
眉を寄せて勇斗を見上げたけど、その顔がとても幸せそうで。
なんにも言えなくなってしまった…。
「…配信、先やるんでしょ。俺先風呂借りるね」
「…うん」
絡めた指を解いて、先に部屋に上がり込んだ。
…………
風呂から上がると、ちょうど勇斗の配信が終わるところだった。
この後キッチンの片付けをして、そこから風呂。
明日は休みだけど、本当によく働く。
「いいねとチャンネル登録!よろしくお願いします」
静かに移動し、ソファに座って髪を拭きながらその様子を眺めていた。
「ばいばーい」
その時勇斗がチラッとこちらを見た。
俺の存在に気付いたんだろう。
「……」
「……」
カメラとスマホの操作をして、ふう、と息をついた勇斗が早々にこちらへやって来た。
「…ちゃんと配信切ったか?」
「うん。抜かりないよー」
「そっか…」
ソファに腰掛けた俺の膝に頭を預けて丸くなった勇斗に苦笑する。
「あー…疲れたあ」
「うん…お疲れ様」
髪を撫でてやると俺のお腹に顔を埋めてスーと息をする。
腰を抱き寄せられる体勢になり、変に意識してしまう。
「…仁ちゃん…」
「ん…なに」
「いい匂いする…」
「…お前んちのものだけど」
「わかってる…だからいい」
「……」
スリっとお腹に頭と顔を押し付けてスンスンと匂いを嗅がれる。
太ももの上にある横顔が下腹に擦り付けられると、妙に下半身が気になってきて…
少し熱を持ってくるのを感じて慌てて勇斗を押しのけた。
「…っ」
「…仁人?」
「…あんま、擦り付けんな…」
「…あ」
「……っ」
「…ごめん、」
言葉の意味に気付いた様子の勇斗がまた咄嗟に謝ってきた。
「…謝るな」
「…ごめん」
「……」
「俺…そんなつもりなくて、悪ぃ」
「…謝るなら……責任取れよ」
「…え?」
変に刺激されてしまった身体がしんどい。
意識をそらそうとする程に熱が集まる。
「…もう…俺、これ以上我慢出来そうに、ない」
「…」
顔を逸らしてそう言った。
ソファに腰掛けたまま無防備に晒された下半身がどうなっているか、勇斗からどう見えているのか…考えただけで顔が熱い。
「…仁ちゃん、」
「…なに」
「…俺、少し怖いけど…俺も、仁ちゃんとしたい…でも、いいの?」
「…なんで怖いの?いいに決まってるだろっ」
「あれから……抑えてきたから…」
「…どうして」
「……あの日の再現になったら、、嫌だから」
「……」
勇斗の顔が曇った。
ああ…こいつはまだ引きずっていたのか。
あの日のことを。
俺がどれだけ否定しても、愛してると伝えても、きっと身体が覚えてるんだ。
あの日の感覚を…。
「……やってみないとわからないだろ」
「…」
「…俺だって…お前としたい」
「…」
「…もう、勇斗の気持ちを察して、無理やり納得して我慢するのは嫌なんだ」
「…仁ちゃん」
「だから、もう謝るな…何も考えずに、俺を抱いてくれ」
「…っ」
視界に入った勇斗の手がピクリと動いた。
恥ずかしくて、だけど…ゆっくり顔をあげると。
赤くなった勇斗の顔があった。
「仁ちゃん…俺も、ヤバい、」
「…え」
「…無理かも…でも、優しくするから」
「…うん」
「速攻シャワー浴びてくる!待ってて!」
完全に挙動不審になった勇斗が急いだ様子でバスルームに走っていった。
ドタドタとした足音に、高まっていた熱が少し冷めた。
「……なんだよアイツ」
笑いがこらえきれずに一人吹き出した。
なんだよ…こんな簡単に…俺を欲しがるんじゃないか。
寝室で勇斗を待ってる間も幸せな気持ちのままでいれた。
もう不安はなかった。
…………
「……」
「…仁人?」
「……」
「嘘……寝ちゃった、?」
「………寝れる訳あるか」
「…はああああ、まじ焦ったってえ!」
「…あははは」
今まで我慢してきた夜の意趣返しのつもりで布団を被って寝たフリをしてやった。
まだ髪から水の滴る勇斗が、目の前で取り乱している。
おかしくて、笑いが止まらない。
「おま、髪拭けって」
「もー…」
「ハイハイ、ここ座って」
「…ハイ」
「拗ねんなって」
ストンとベッドに腰を下ろした勇斗の髪をタオルで拭いてやる。
広い肩幅。俺が膝立ちして頭を拭いても座高が高いのでそこまで拭くのも大変じゃない。
黙って俺に髪を拭かれていた勇斗が、ふと俺のタオルを持つ手を取った。
「…」
「…もう、大丈夫」
俺を見上げた目がさっきよりも幾ばくか鋭くて、少し焦る。
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