テラーノベル
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リュカの買ってきた和菓子を
母の淹れた緑茶のお茶請けにしながら
私の幼少期の思い出話に花を咲かせる
リュカを連れ添って訪れた実家でのひとときは
事前の予想に反して
和やかな雰囲気で時間が流れていた
「この子生まれつき障害があるでしょう」
「それはもう大変だったのよ」
気分良く饒舌に語る母
思い出話といえど
母目線の苦労話が主
その苦労の対象は私
それを
話の上手いリュカが
上手に話を捌き
棘のない和やかな話へと寄せる
「最初の頃は気付かなくてね」
「小さいから自分からは言わないでしょう?」
「耳だけじゃなくて色弱もだから」
「他の子と見えてる世界が違うのよ」
寄せども寄せども元居た所に戻る
まるで癖の付いた折り目のように
それが
母本来の
母の性分なのだろう
それでも
リュカが母の話を引き出し
気持ちよく会話を続ける母
ひとしきり話し尽くし
一段落ついたところで
リュカがそれとなく目配せをした
私も
ちょうど頃合いかと感じたところだった
「あのね、お母さん……」
私は
鞄の中を漁り
離婚届の書面を引っ張り出しながら
それとなく話題を移し
本題を切り出した
「私……実は純也と離婚しようかと思ってて」
「突然の話で驚かせちゃうかもだけど……」
突然切り出した私の言葉に
母親は
一瞬目を見開いたが
思いのほか冷静で
臣桜
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BrownSugar
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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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無表情のまま
無言のまま
話を聞き入った
「……そう」
「純也君は何て言ってるの?」
「まだ今は協議中」
「心配すると思って言えてなかったけど……」
「実はずっと上手く行ってなくてさ……」
殊の外驚かない母
先日自宅に押し掛けて来た際に
何か感じるものがあったのだろうか
あの時
私が帰宅するまでのしばらくの間
母は純也と二人きりだった
「それでね、離婚届に証人の署名が必要なの」
「お母さん署名してもらえるかな」
そう言うと
私はテーブルの上に書面を広げた
母は
黙ってそれを見つめたまま
固まっていた
書面を読んでいるのか
はたまた
何か考え事をしているのか
母は
しばらく押し黙っていた
沈黙の中
私たちは
母の次の言葉を待った
「……」
狭い室内に漂う緊迫感
しばしの沈黙の後
母がおもむろに顔を上げる
「仕送りは純也君じゃなくて瑠奈がしてたのよね?」
母の第一声がそれだった
おおよそ想定通りだった
「先日も態度良くなかったのよ、あの子」
「私が大変なのに話も上の空で」
「瑠奈の帰りを待てってそればっかりで」
「お茶の一杯も淹れないんだから」
純也については
あまり母と話したことはなかった
母も快くは思っていなかったようだ
というよりも
母は自分基準で物事を判断するきらいがある
単純にあの時の純也の対応が
気に食わなかったのだろう
愚痴が続きそうな母をやんわりと遮り
一気に本題へと踏み込む
「ごめんね、迷惑掛けちゃって……」
「それでね、ここが証人の署名欄なの」
「ここ記入してもらえるかな」
すんなりと事が進んだ
ここまでは
しかし
いざ記入するとなると
母は
ペンを取ることなく
記入を躊躇った
「……」
そのまま
再び押し黙る母に
再び緊張が走る
母の次の言動を待ち
再び沈黙が訪れる
「仕送りは今後もしてくれるのよね?」
「最近少なくて足りないんだけど」
「ちゃんとしてくれるのかしら?」
沈黙を破り
口を開いて出た言葉に
母の本心を垣間見た
予想の範囲内と言えばそれまでだが
娘の離婚を聞き及んで出たその言葉に
一抹の悲しみを覚える
「うん、大丈夫だよ」
「これまで通りきちんと振り込むから」
「これまで通りじゃ足りないのよ」
「私に何かあったらどうするの?」
「いくら振り込んでくれるの?」
「……」
和やかに始まった
久方ぶりに実家を訪れた親子の会話は
既に過ぎ去り昔のこと
母の本音丸出しの駆け引きが
署名直前で待っていた
具体的な金額にまで言及され
言葉に困っていると
これまで黙って聞いていたリュカが
突如割って入り
言葉を挟んだ
コメント
1件
あおいです🌷 第95話、読み終えました。和菓子と緑茶で始まった和やかなひとときが、離婚届の署名を境に一変する緊張感、すごく伝わってきました。特に、母が「仕送りは今後も?」と聞いた瞬間、胸がギュッと締め付けられました。娘の人生よりお金…その一言に、これまでの関係性の重みが全部詰まっていて、切なかったです。リュカがどんな言葉を挟むのか、続きが気になります!