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臣桜
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BrownSugar
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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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「仕送りは今後もしてくれるのよね?」
「最近少なくて足りないんだけど」
「いくら振り込んでくれるのかしら?」
「……」
和やかだった会話も今は昔
母の本音丸出しの駆け引きが
離婚届の証人署名直前で待っていた
具体的な金額にまで言及され
言葉に詰まる私
すると
これまで黙って聞いていたリュカが
割って入り横から言葉を挟んだ
「いくら位入り用なんですか?」
具体的な仕送りの金額を求める母に
具体的に求める仕送りの額を尋ねるリュカ
悪手だと思った
要する金額を母に答えさせなどすれば
必要以上に法外な金額を言いかねない
ただでさえここのところは
要求額が増している
積み増した金額でさえ少ないと
たった今ぼやいた直後だ
「そりゃ多ければ多いだけ助かるわよ」
「老後だって2000万円の貯えが必要な時代よ」
「今は侘しい額で何とか頑張って我慢してるの」
「急に入り用になることだってあるし、足りなくて大変なことになるかもしれないんだから」
「私にもしもの事があったらどうするのよ」
私のお願いを聞く
証人として離婚届に署名する
まるでそれと交換条件のような
そのこととはまるで関係のない
金の無心
本心を口にし出してからというもの
とどまるところを知らない更なる増額
自分本位な理屈で
放漫な言葉の数々を並べる
リュカに見せるのが恥ずかしくなるほど
自分本位に振る舞う母
「では、老後の2000万円とそれまでの2000万円」
「合わせて4000万円お渡しします、一括で」
「それで署名して頂けますか?」
突然割って入り
口を挟んだリュカ
割って入るなり口にしたのが
法外な大金の一括提示
顎が外れるほど驚いた
リュカの顔を見つめたまま
私は固まってしまった
母もまた同様に
目を大きく見開き
口を開けたまま
驚愕の表情でリュカを凝視したまま
言葉無く固まっていた
「……」
「……」
「……え、と……何を言っているのかしら?」
それはそうだ
母の反応は正しい
たまたま一緒に来た娘の友人が
突如会話に割って入り
突如法外な金額の支払いを提示したのだから
「……冗談か何かよね」
「生まれのお国のユーモアか何かかしら……」
ドギマギしながら
あり得ない話と展開に
現実的な理解に努めようとする母
「冗談でもユーモアでもありません」
「私は本気で言っています」
リュカは
そう言いながら鞄を漁ると
小切手を取り出し卓上に置いた
そして
そのリュカ名義の小切手に
その金額を記入した
「……」
それを
茫然と見ていた母に
ペンを手渡すリュカ
「……本当に本当の話なの?」
「あなたは一体……」
「これで署名して頂けますか?」
「するか否かはあなた次第です」
黙ったまま
茫然と離婚届を見つめる母
あまりに予想外のことに
私は言葉にならなかった
しばしの沈黙の後
母は
渡されたペンを握り直すと
小刻みに震えるその手で
署名欄に向かってペンを置く
「但し条件があります」
母が
いざペンを走らせんとする刹那
再びリュカが口を挟んだ
その声に呼応するように
紙面に置いた母のペン先が止まる
「連絡するなとは言いませんが、今後は過度な娘さんへの連絡は控えて下さい」
「本人が望む時以外は娘さんに会いに行かないで下さい」
「つまり瑠奈さんのこれからの人生に干渉しないで下さい」
「瑠奈さんはお母さんを大切に思っています」
「お母さんも邪魔することなく、娘の未来を陰ながら見守ってあげて下さい」
「せめてもの母親の勤めとしてお願いします」
書面に目をやったまま
黙って聞いていた母が顔を上げる
「あなた、何様のつもり?」
「瑠奈は私の娘なのよ!」
「どの立場から物言ってるのよ!」
急に激高し
声を荒げる母
それを全く意に介さず
リュカは冷静に続けた
「これから私は瑠奈と一緒になります」
「瑠奈と幸せな家庭を築きます」
「お母さんにも幸せであって欲しいと同時に、どうか私たちの未来も穏便であらして下さい」
「そして……」
「瑠奈の離婚成立までは、このことを一切口外しないこと」
「それが条件です」
「実のところ、小切手には有効期限があり換金には手数料も掛かります」
「なので署名頂ければ小切手ではなく、瑠奈の離婚後に即入金します」
「私は瑠奈の勤める会社の社長です」
「お母さんが約束に応じてくれるのであれば、今の約束は責任持って守ります」
コメント
1件
わあ……第96話、読み終わりました。もう、リュカのあの冷静な切り返しに鳥肌が立ちましたね。「4000万円、一括で」って、そんな法外な条件を逆手に取るなんて。でもそれ以上に、母に対して「瑠奈さんの人生に干渉しないで」と言い切った場面が胸に刺さりました。あおい、編集者としても、この静かな強さを持つリュカの台詞回し、本当に好きだなあ。お母さんの動揺もよく描かれていて、溜飲が下がると同時に切なくなりました。