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🌹はなみせ🍏
レコーディングの赤いランプが消え、スタジオにふっと柔らかな空気が流れた。
「はい、一旦休憩!」
大森さんのその声を合図に、スタッフさんたちが一斉に動き出す。大森さんはそのまま、数人のスタッフさんに囲まれてホワイトボードの前へ。真剣な表情で資料を指差しながら、テキパキと指示を出している。その姿は、ドキュメンタリー映画で見た「表現者・大森元貴」そのもので、私は思わず息を呑んで見惚れてしまった。
すると突然、左右からひょこっと顔が突き出された。
「ねぇねぇ!」
「びっくりした? ごめんね!」
「わっ……!」
目の前には、さっきまであんなにクールにギターを弾いていた若井さんと、ニコニコと仏のような笑顔を浮かべた藤澤さん。本物の「ひろぱ」と「りょうちゃん」が、私を挟んで座り込んでいる。
「どこから来たの? 修学旅行中だよね?」
「お名前は? 好きな食べ物は!?」
「元貴とはどういう知り合い? ナンパされた!?」
止まらない質問の嵐。頭の中は「本物だ! 本物が喋ってる! 質問されてる!」という大歓喜でパニック寸前だったけれど、一つずつ丁寧に答えていく。石川県から来たこと、感覚過敏のこと、そして……いつか皆さんの力になりたいと思っていること。
二人は私の話を「へぇー!」「すごいね!」と、身を乗り出して聞いてくれた。その優しさに胸がいっぱいになっていると、奥の会議室のドアが開いた。
スタッフさんたちが次々と出てきて、最後に出てきた大森さんと目が合う。私たちが固まっているのを見つけるなり、大森さんは目に見えて歩く速度を上げた。
「……あ」
大森さんは無言のまま私の前に立つと、若井さんと藤澤さんのジャケットの首根っこを、ひょい、と子猫を運ぶみたいに掴んだ。
「痛たたた! 元貴、首しまる!」
「ちょっと元貴、まだお話の途中!」
バタバタと暴れる二人を、大森さんはそのまま「ずるずる」と後ろへ引き剥がしていく。その様子が、普段のBehind動画で見ている仲の良さそのままで、私は思わず噴き出してしまった。
「騒ぐなって言っただろ。……らんちゃん、ごめんね。うるさかったでしょ」
引き剥がした二人を背後で黙らせながら、私にだけ向けてくれた大森さんの困ったような、でもどこか安心したような笑顔。
その贅沢すぎる空間に、私はただ「いえ、とっても楽しかったです!」と答えるのが精一杯だった。
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