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「はい、一旦休憩!」
そう声をかけた瞬間、僕の周りには吸い寄せられるようにスタッフが集まってきた。
新曲のプロモーション、タイアップの進捗、ライブの演出案……。目の前のホワイトボードには、検討事項が山積みだ。
(……いや、多すぎでしょ)
いつもなら一つずつじっくり議論するところだけど、今日の僕は少しだけ、いや、かなり気が急いていた。チラリと視線を向けると、僕の椅子に座っているらんちゃんが、スタッフと真剣に話す僕を眩しそうな顔で見つめている。
「……で、衣装の件だけど。これ、A案で進めて。あと、テレビ出演の尺調整は任せるから、明日までにフィックスして」
「え、大森さん、そんなに急ぎで……?」
「効率化だよ、効率化。ほら、次!」
スタッフが目を丸くするほどのスピード感で、次々と決断を下していく。心の中では『早く彼女のところに戻りたい』という邪念が渦巻いているけれど、仕事に妥協はしたくない。爆速で、かつ的確に。今日の僕は、自分でも驚くほど冴え渡っていた。
ようやく打ち合わせを終わらせ、会議室のドアを開ける。
「よし、お待たせ――」
……言いかけて、僕は眉間にシワを寄せた。
そこには、らんちゃんを左右から挟み込んで、獲物を狙うハイエナのような顔をした若井と涼ちゃんがいた。
「どうしてきたの?」
「なまえは?」
「どこの子?」
聞こえてくる質問攻め。らんちゃんは困りながらも、一生懸命に答えようとしている。
あいつら……「騒ぐな」って言ったのを、言葉通り「大声を出さなければいい」と解釈したらしい。
気づけば僕は、無意識に早歩きになっていた。
「ちょっと、君たち」
背後から音もなく近づき、二人のジャケットの襟元をガシッと掴む。
若井と涼ちゃんの体が、面白いように「の」の字にしなった。
「うわっ、元貴!?」
「痛たた! 首! 首しまってるって!」
「うるさい。騒ぐなって言っただろ」
ずるずると二人を引き剥がすと、ようやくらんちゃんの姿がはっきりと見えた。
少し驚いたような、でも僕たちのやり取りを見て楽しそうに微笑んでいる彼女を見て、ようやく僕のトゲトゲした気持ちが静まっていく。
「ごめんね、らんちゃん。こいつら、距離感バカだから」
掴んでいた手を放すと、若井たちが「ひどい!」と騒ぎ始めたけれど、無視だ。
今、この瞬間だけは。
プロの顔でも、リーダーの顔でもなく、ただ彼女の「知り合い」としての顔で、隣に座りたかったんだ。
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🌹はなみせ🍏