あれからすぐに理仁さんの暮らす高級マンションに結仁を連れて引越した。
大きな道路からは離れ、小さな公園も隣接していて、環境も良い。
あまりにも生活が変わったことに最初は戸惑ったけど、今は3人でいられることが嬉しくてたまらない。
結仁にはきちんと話して、理解できたかどうかは別にしても、理仁さんをパパと呼んで懐いている。
私は仕事を辞めて、結仁との時間を作ることができ、家事をする楽しみを感じていた。綺麗なアイランドキッチンで料理ができることは、幸せ以外の何ものでもなかった。
「このハンバーグおいしい。パパもおいしい?」
「ああ。結仁はハンバーグが大好きなんだな」
「うん。ママのご飯はぜんぶ好き」
ある日の食卓。
家族3人揃ってこんな時間を持つことができるなんて……
まだ夢を見てるんじゃないかと思ってしまう。
「そうだな。パパもママのご飯が大好きだ。いつか、ママは美味しいご飯のお店をやるんだ。楽しみだな」
「うん! 僕もお店のお手伝いする!」
「偉いぞ、結仁」
「ありがとう、結仁はママを助けてくれるんだね。すごく嬉しいな」
「僕、パパのことも助けるよ」
「……パパも助けてくれるのか?」
優しい眼差しで結仁を見つめる理仁さん。
何だかとっても嬉しそう。
「助けてあげる、パパ大好きだから」
目を細めて微笑む理仁さんの瞳は、少し潤んでるように見えた。
「結仁はママとパパのヒーローだな」
この家族の団欒を、ずっとずっと求めていたのかも知れない。本当の幸せというものを、今、私は心から噛み締めていた。
数日後――
インターフォンの音がして、モニター画面に写るよく知った顔にドキッとした。
「……は、はい」
「双葉かい?」
「おばさん? どうして?」
「話があるから来たんだ。さっさと中に入れてよ」
突然の訪問に心臓がバクバクし始める。
「……私が下に降ります。そこで待ってて下さい」
おばさんがいったい何の用?
本当はあんまり会いたくなかったけど、何か大事な話かも知れないし……
私は、ドキドキしながらエレベーターに乗り、1階のホールの自動ドアを出た。
「おばさん、どうしたんですか? 急に」
「旦那は? いるの?」
「……いえ、今日はいません。仕事です」
「だったら良かった。双葉、あんた、私達に散々世話になっておきながら、きちんと挨拶も無しか?」
おばさんは、相変わらず身だしなみには構わず、家の中にいるようなラフな格好だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!