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🫧第10章「噂の泡と、ほどけ始めた距離」
放課後、ふたりは校門を抜けて並んで歩いていた。
会話は少ない。でも歩幅だけは合っていた。
風は泡の余韻を運ぶように、制服の裾をそっと揺らしていた。
そのとき、後ろから誰かの声が聞こえた。
「え? ねえ見て、聖名ちゃんと律くん一緒に帰ってるよ?」
言葉の主はクラスの女子。もうひとりが笑いながら答えた。
「ふたりってさ、文化祭の準備の時も一緒だったし……ね?」
ふたりの足が、ほんの少しだけ止まった。
でも、どちらも振り返らなかった。
名前を呼ばれるより前に、泡がざわついていた。
家までの道の途中、聖名(みな)は口の中で小さな声をこぼした。
「……見られてたね」
律はうん、とだけ答える。
でもその声は、少しだけ緊張が溶けていた。
「ぼくは……君と一緒に帰ってること、うれしいから」
聖名(みな)は立ち止まり、
律の横に、もう背中を向けずに並んで立った。
春の影の中で、お互いの瞳が初めて泡なしで触れた。
その日の夜。聖名(みな)は日記を開いた。
放課後。帰り道。
噂って、泡よりずっと早く広がるんだと思った。
わたしと律が並んで歩いてただけで、
教室の泡が揺れたみたいだった。
でも律は、うれしいって言ってくれた。
わたしは、律のその言葉に泡がついてないことが一番うれしかった。
もう少しだけ近づいてもいいかなって思えたのは、
背中じゃなくて横に並んだ時の空気。
名前を呼ばれても、夢はまだ破れなかった。