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🫧第11話「噂の泡、ほどけた感情」
昼休みの教室。
春の風が窓から吹き込み、カーテンの影が床を揺らしていた。
「ねえ、聖名ちゃんってさ、律くんと仲いいよね」
「昨日、ふたりで帰ってるの見たって」
「文化祭の練習の時も、なんか……目が合ってる感じだったし」
笑い声と、泡みたいに弾む声。
だけどその音は、聖名(みな)の胸に静かに沈んだ。
彼女はノートにペンを走らせるふりをしながら、
鞄の奥にしまってある“泡日記”の重みを思い出していた。
📝泡日記(抜粋)
_噂って、わたしの気持ちよりも先に広がる。
律くんの隣を歩いただけで、言葉より速く届いてしまう。
でも、昨日の帰り道で律くんが言った“うれしい”って言葉は、
わたしが噂になる前に、ちゃんと聞けてよかった。
噂が泡を破る前に、
わたしは律くんとの距離を、自分の足音で確かめたい。_
放課後。
教室のざわめきが静まり、聖名(みな)は机に手紙をそっと差し込んだ。
宛先は「律」――名前だけ。泡文字ではない。
その紙の手触りに、昼の光が染み込んでいた。
律はそれに気づくと、鞄を開けたまま、無言で手紙を読んだ。
💌聖名(みな)から律への手紙
律へ
今日ちょっとだけ、噂が気になりました。
わたし、気配の中で関係を守ってきた気がしてたから。
でも、噂が泡を揺らしてくれたことで、
もう少しだけ言葉に近づいてもいい気がしています。
よかったら、今度一緒に図書室に行きませんか?
泡日記の続きを読んでほしいなって、思いました。
名前で呼んでも、夢が壊れないなら――
今度は、“律”ってちゃんと呼びます。
律は静かに手紙を閉じ、鞄にしまった。
その目線は、窓の外の泡のような光を見つめていた。
彼の手が少しだけ動いて、机の上に何か書き残した。
「聖名(みな)へ
図書室、いいね。泡の音、たぶん紙のページにも染みると思う」
ふたりの間に、少しだけ言葉が生まれていた。
泡は割れなかった。
でも、確かにほどけはじめていた。