🌟…白騎士
🎈…魔導師
🌟→→→→→→←←←←←←🎈
くらいの🌟🎈です
暗くて長い廊下。
この先を抜ければ、自室に辿り着く。
「魔導師殿!!」
この暗さに似合わない明るい声が聞こえてきた。
「…何の用ですか、白騎士様。」
私は少し視線を逸らした。
「やはり今日も美しい…愛してます、魔導師殿。」
そう言って彼はするりと流れるように私の手を取り、手の甲に口付けをした。
「ちょ、辞めてください…!」
私はすぐに振り払い、後退りした。
本当にこの方は…
「…私が美しいなど、貴方の目は濁ってらっしゃるんじゃないですか?1度、医療係に診てもらう事をおすすめします。」
私は眼鏡を掛け直しながら皮肉った。
「ははっ、相変わらず冗談がお上手ですね。やはり魔導師殿は面白い方だ。」
彼はニコッと太陽のように笑った。
「……はぁ。用がないなら、私はこれで失礼します。」
私が先程よりも少し明るくなった廊下を歩き始めた時……
「俺もご一緒して良いですか?」
真っ直ぐとこちらを見ながら彼は言った。
「…………はぁ??」
思わず間抜けた声が出てしまい、誤魔化すように咳払いした。
「ご一緒って…私、今から部屋へ戻るんですが。」
私は気を取り直して彼に告げた。
「どうせ、3日は籠るおつもりでしょう?それに、部屋が荒れていては研究も滞りますよ。」
「う”っ…」
図星だった。
部屋はたしかに荒れていて、研究どころではない程だ。
「貴方には関係ありません。それに、何で分かるんですか…」
私は出来るだけ冷たく言った。
「俺は魔導師殿の事なら何でも知ってますよ。愛してますから。」
私の冷たい言葉に対して、彼は嫌な顔一つせずに笑ってそう言う。
「愛してる愛してるって…白騎士様、そう言う事は安易に言わない方が良いですよ。」
私は出来るだけ目を合わせないようにして言った。
「想い人に愛を伝えるのは、いけない事ですか?」
彼の言う想い人とはきっと、私の知ってる言葉の意味とは違う。
「…要らぬ勘違いをさせてしまいますよ。」
私は出来るだけ微笑んで告げた。
彼は驚き、固まっているようだ。
そして何故か次第に頬が紅潮し、あっというまに耳まで染まった。
「はぁ…………!!」
大きなため息をつき、彼は突然座り込んでしまった。
「え、白騎士様?!どうなさいましたか?具合でも悪いのですか?」
私はすぐに駆け寄り、彼の顔を覗き込んだ。
「いや、あの……貴方は本当に罪な方ですね…」
彼はこちらと目を合わせようとしなかった。
もしかして、嫌われてしまったのだろうか。
…何を不安になる必要があるんだ。
いいじゃないか、それで。
むしろ、嫌ってもらわなければ困る。
そんな事を考えていると、彼はまた立ち上がり、真っ直ぐとこちらを見た。
彼の頬はまだ赤く染まっている。
「魔導師殿…そ、そんな可愛らしい顔、他の人には見せないで下さいね。」
口元を隠しながら彼は言った。
「…はい?」
言っていることの意味が分からず、しばらく考えていた。
…可愛らしい顔?
他の人には見せないでって…
「白騎士様、それはどういう……」
「あっ、センパイ!」
私の問いかけを遮る声が聞こえた。
見ると、同じく白騎士のアキトくんがいる。
「あっ、すみません。お話中でした?」
アキトくんが私の方を見て言った。
「いいえ、私の事は気にしないで下さい。もう、自室に戻りますので。それでは。」
私はそう言って早々に立ち去った。
_____________________
「あっ、魔導師殿!!!」
俺は足早に立ち去る魔導師殿を呼び止めようとした。
しかし、どうやら声は届かなかったようで、彼の姿は遠く消えてしまった。
「…なんか、すみません。折角2人で話してたのに。」
アキトが申し訳なさそうに謝った。
「いや…いいさ。また会いに行けばいい。」
「それより、何の用だったんだ?」
「ああ、次の戦の編成の事なんですけど…」
アキトとしばらく編成の話をし、少し世間話もした。
「…それで、さっき魔導師殿が俺に笑いかけてくれてな…!!」
俺はさっきあった出来事を話した。
「へぇ、あの人が…けど、花壇の手入れしてる時とか、よく笑ってますよね。」
アキトも何か思い出しながら言った。
「ああ、植物が好きらしい。また花束を持っていかねばならんな。」
次は何の花を持っていこうか。
「いやぁ…本当、飽きないですね。そんなに好きなんですか?」
アキトがやれやれと言ったようにこちらを見ている。
「ああ、もちろん!俺は魔導師殿を世界で1番愛している自信がある!」
自信を表すかのように、俺の声は少し大きくなった。
「はいはい…ま、絶対両想いですけどね。」
アキトは少し呆れている。
「ああ…ルイほど、俺の事を愛してる奴はいないと思うぞ。」
俺がそう言うと、アキトは少し驚いた顔をした。
が、すぐに表情を戻した。
「センパイってやっぱ…そういう所ありますよね。」
____________________
「……」
呆れて声も出ない。
目の前には跪いて顔よりも大きな花束を差し出している白騎士様がいる。
その顔は相変わらず太陽のように眩しかった。
「…何の真似ですか?」
私は出来るだけ優しく言った。
「街に魔導師殿に似合いそうな美しい花がたくさん売っていたので、花束にしてもらいました!」
屈託のない笑顔で彼は言った。
「なっ…街でそんな大きな花束を買って、何か噂されたらどうするのですか?!」
思わず声が少し大きくなった。
白騎士様は街はもちろん、国の誰もが知る有名人だ。
そんな方がこんな大きな花束を買うなんて、相手は誰かと皆思うだろう。
「噂など知りません。俺は、貴方に贈りたい花を贈るだけです。」
彼はハッキリとそう言った。
「魔導師殿、受け取ってはくれませんか?」
彼は相変わらず真っ直ぐとこちらを見ている。
「……」
私はしばらく沈黙した。
白騎士様は、姿勢を変えずに花束を差し出している。
考えた末、私は白騎士様から花束を受け取った。
私が花束を受け取った途端、白騎士様の顔は更に明るく、眩しくなった。
「勘違いしないで下さい。このまま受け取らないと花が可哀想だから、受け取っただけです。」
私は花を大切に抱えながら、彼を見て言った。
「けど……有難うございます。ふふ、とても綺麗な花ですね。」
ふわっと、花々のいい香りが広がった。
「……」
白騎士様はボーッとこちらを見ていた。
「……白騎士様?」
私が呼ぶと、彼はハッとして顔を赤くした。
「ボーッとしていましたが、寝不足ですか?」
隈は見当たらないが、白騎士様は大変なお仕事をしているから、疲れも溜まるだろう。
「あ…いえ。花に囲まれる魔導師殿が美しくて…つい、見蕩れてしまいました。」
やはり綺麗ですね、と彼は笑った。
「……………」
私は紅潮した顔を見られぬ様、花束で顔を隠した。
「魔導師殿?どうされました?」
彼はニコニコとこちらを見ている。
「…も、もう部屋に戻りますので!失礼します!」
私はそう言って足早に立ち去った。
____________________
「あっ……また、逃げられちゃったな。」
俺は魔導師殿の後ろ姿を見ながら呟いた。
「けど、本当に可愛かったな…顔を真っ赤にして……」
ふと、壁から魔導師殿がこちらを見ていることに気付いた。
「魔導師殿?」
俺が声を掛けると、恥ずかしそうに視線を逸らした。
何か言いたそうだ。
俺は少し近付き、待っていると魔導師殿が口を開いた。
「花……大事にしますね。」
それでは、と言って魔導師殿は帰ってしまった。
俺はしばらくポカン…と佇んでいた。
「……それを言うためだけに戻ってきたのか、?!//」
俺はその場にへたりこんだ。
本当になんて可愛らしいのだろう。
「愛しいなぁ……」
____________________
今日は雨だ。
暗く、じめじめとしている。
湿気が多いし、気分も沈むから雨は好きじゃない。
けれど……
私は窓から外を見た。
外では、雨にも関わらず白騎士様が剣を振っている。
(白騎士様の才能を、妬む者も一定数はいるけれど…)
あれは才能だけじゃない。努力の結果だ。
白騎士様は貴族だから、その名義だけで優位は約束されるのだけれど…
白騎士様はそれに頼らず、自分の力で団長まで登りつめている。
「…はぁ、いけないいけない。私も研究しないとね。」
とは言いつつも、剣を振っている白騎士様が気になって仕方なかった。
「……」
気が付けば、私は庭に出ていた。
屋根のある所から、しばらく白騎士様を眺めてみる。
白騎士様は集中しているらしく、こちらには気付いていない。
普段私に向けるあの太陽のような笑顔はどこにもなく、真剣でどことなく殺気立っていた。
練習中は動きやすいからか、雨にも関わらずとても薄着をしている。
普段は大きめの服を着ているから分からないが、こうして見るとやはり筋肉質だ。
私の細くて骸骨のような体とはまるで真反対の肉体だった。
ふむ、私も少し鍛えた方がいいのかな…
「え、あ、魔導師殿?!?!」
白騎士様がどうやら気付いたようだ。
驚いた顔でこちらに駆け寄ってくる。
「あぁ、白騎士様。これを…」
そう言って私がタオルを差し出そうとするより先に、白騎士様が口を開いた。
「こんな所で何をしているのですか?!風邪を引いてしまいます!早く中に!」
白騎士様はあたふたしている。
「…はぁ、それはこちらの台詞です。風邪を引きますよ、白騎士様。今日くらい休みましょう。」
私は白騎士様の頭をタオルで拭きながら言った。
白騎士様はとても驚いているようだ。
「え、あ、魔導師殿?!」
「ほら、中に入りますよ。服も…乾かした方がいいですね。」
タオルで拭くのが慣れなくて、白騎士様の頭は少しくしゃくしゃになってしまった。
「……何度見ても、個性的な部屋ですね。」
白騎士様が部屋を見渡しながら言った。
「まぁ、白騎士様には見覚えのない物がたくさんあるでしょうね。」
私はそう言いながら、白騎士様の服を魔法で乾かした。
「しかし…まさか、魔導師殿に止められるなんて思いませんでした。」
白騎士様はタオルで髪を拭いている。
「別に…たまたま、この窓から見える位置で練習していたので。風邪を引かれると、国が困りますから。」
はい、乾きましたよ_と、服を差し出した。
「風邪など引かないように務めているから平気だと思うんですが…ありがとうございます。」
白騎士様が服を着ながら言った。
私はあまり見ないよう、散らばっていた本を片付けた。
「あっ、この花、飾っててくれたんですか?」
白騎士様が嬉しそうに弾んだ声をあげた。
その視線の先には、白騎士様がくれた花束がある。
「もう1週間以上経つのに、まだ元気に咲いてますね。」
不思議そうに呟いた。
「魔法ですよ。その花に少し細工しました。」
私は本を棚に直しながら言った。
「え、魔法?わざわざ…?」
驚いているようだ。
「当たり前でしょう。折角貴方に貰った花なんです。すぐ枯らしては勿体ないじゃないですか。」
「えっ?!」
何気なく言った後、私は自分の言動に後悔した。
「あっ、いや、あの…やっぱり今の無しで。」
私は持っていた本で顔を隠しながら言った。
「え?!いや、嬉しいです!!また、何か贈りますね!」
白騎士様は雨雲も吹き飛びそうな程明るく笑った。
私はその顔が眩しくて、思わず顔を背ける。
練習中とはまるで違う顔だ。
やはり、こっちの顔の方が見慣れている。
「白騎士様は…毎日遅くまで鍛錬なさってますよね。」
私はまだ目を逸らしたまま言った。
「はい!俺はもっともっと強くなって、この国を守れるようにならなければいけませんから。」
白騎士様は力強く答えた。
「…やはり凄いですね。白騎士様は。」
「魔導師殿だって、毎日遅くまで魔法の研究をなさっているじゃないですか。」
床に落ちていた本を拾いながら、白騎士様は言った。
「貴方が国で何と呼ばれているか、知ってますか?」
「ああ……『黒の天使』でしたっけ?」
私は白騎士様から本を受け取りながら答えた。
「はい。名付けた人は、本当によく分かっていますよね。」
「えぇ…そうですか?何故私が天使などと…」
私は納得いかないように呟いた。
「貴方の魔法は、人を救うためのものだからです。貴方の魔法のお陰で、この国の医療は大きく発展した。敵との交戦だって、貴方は敵が苦しまないような魔法を考案したでしょう?」
白騎士様の言う通り、医療の発展に貢献もしたし、敵が苦しまないような魔法も考案した。
「国民は皆、貴方を救世主だ、とか天使だ、とか言ってますよ。」
救世主に天使、ねぇ……
「…それに対して貴方は、『白い悪魔』ですか。」
私は白騎士様を見ながら言った。
「あぁ、知っているんですか。」
「もちろん、知らない人はいないと思いますよ。」
私は椅子に腰掛けた。
「戦場に降り立った白い悪魔…人間とは思えぬ強さで敵を圧倒し、畏敬を込めてそう呼ばれてるらしいですね。」
私は白騎士様に座るよう促した。
「自分で言うのも何ですが、俺にはピッタリの異名だと思っていますよ。」
白騎士様は失礼します_と言いながら椅子に腰掛けた。
「どちらかと言うと、私の方が悪魔っぽいと思いますが。」
「いえ、紛うことなき天使ですが?」
一瞬も迷う事無く、白騎士様は即答した。
「艶やかで柔らかい紫色の髪、妖しくも美しい光を放つ金色の瞳…これが天使以外の何者だと言うのですか。」
さらり…と白騎士様の手が私の髪に触れた。
「…よくそんな事を平然と言えますね、、」
私は白騎士様の手を払いながら言った。
「本当の事ですから。」
そう言って微笑んだ。
手を払われた事は全く気にしていないようだ。
「…そうですか。」
それから、しばらく2人で談笑し、白騎士様は自室へ戻った。
その日の夜は、中々寝付けなかった。
____________________
「え”っ?!?!」
思わず汚い声が出た。
目の前には、少し顔を逸らしながら綺麗な硝子細工の花束を持つ魔導師殿がいる。
「これ…この前の花束のお礼です。白騎士様は花の手入れなんてしている暇は無いでしょうから、硝子細工にしました。」
そう言って美しい硝子の花束を俺に差し出した。
「あ、ありがとうございます!!まさかこんな物をくださるとは…!!絶対にお礼します!!」
俺は嬉しくてつい笑顔になった。
「ふふ、お礼のお礼って…。それじゃ、埒が明なくなりますよ。」
魔導師殿は口元に手を当ててクスッと笑った。
その可愛らしい仕草に、俺はどうしようもなく愛しく感じてしまう。
「しかし、こんな美しい硝子細工…どこに売っているのですか?王室御用達の硝子屋とか?」
俺がそう聞くと、魔導師殿は少しキョトンとして答えた。
「あぁ、それは私が作った物ですよ。」
「え?!?!作った?!」
あまりに予想外の返答だった。
「はい。硝子を熱せば、自由に加工出来ますから。」
魔導師殿は淡々と説明する。
「魔導師殿は…とても器用ですね。そうですか、手作りですか…」
初めての魔導師殿からの贈り物。
更には手作りという、表しきれない喜びを感じていた。
ふと、魔導師殿の指に赤い痕がある事に気付いた。
「魔導師殿、その指は…?」
俺が指摘すると、魔導師殿は少し指を隠した。
「な、何でもありません。大したことないです。」
魔導師殿はそう言って俺から目を逸らした。
「…見せて下さい。」
俺がそう言うと、魔導師殿は少し迷って、結局指を見せてくれた。
「この赤い痕……もしかして火傷ですか?!」
「ええ……けど、大したことないですよ。」
魔導師殿は本当に気にしていないようだ。
「どうして火傷なんか…料理でもされました…」
そこまで言って、気が付いた。
もしかして……
俺は硝子細工の花束を見る。
「…もしかして、これを作る時に?」
魔導師殿はバツが悪そうにこちらを見た。
「…硝子細工なんか、初めてしたものですから。つい、不注意で。」
よく見ると、隈が出来ている。
俺のために、夜遅くまで作ってくれたのだろうか。
初めての硝子細工で、火傷までして。
「〜〜〜!!!」
俺は一生懸命、抱き締めたい衝動を抑えた。
今すぐ抱き締めたい。
そのくらい愛おしかった。
「…白騎士様?」
魔導師殿の呼び掛けに、俺はハッと我に返った。
「魔導師殿、本当にありがとうございます。何とお礼を言って良いか…とても嬉しいです。」
俺がそう言うと、魔導師殿はホッとしたように笑った。
「ふふ、こちらこそ…花束、嬉しかったですよ。」
それでは_と、魔導師殿は立ち去ってしまった。
俺はしばらく、硝子細工の花を眺めていた。
光が反射してか、花束は七色に輝いていた。
「これは……一生の宝物が出来てしまったな。」
_____________________
「ふわ……」
私は1度ペンを置き、少し伸びをした。
作業し始めてからどのくらい経ったのだろう。
外はもう暗闇に包まれていた。
部屋の戸が叩かれた。
「はい、どなたですか?」
私は扉の向こうの人物に問い掛けた。
『魔導師殿!開けてくださいますか?』
と、聞き慣れた声がした。
「え?!し、白騎士様?!」
私は驚き、慌てて戸を開けた。
扉を開けると、食事の乗ったトレイを持った白騎士様がいた。
「夜分遅くにすみません!夕食がまだでしょう?一緒に食べませんか?」
そう言ってあの笑顔で笑いかけた。
「そんなわざわざ…とにかく、お入り下さい。」
私は白騎士様を部屋に招き入れた。
白騎士様は失礼します_と軽く一礼し、部屋の中へ足を踏み入れた。
私は白騎士様と椅子に腰掛け、運んできてくれた食事を見た。
「わざわざ持ってきて下さりありがとうございます。」
私は白騎士様にお礼を言った。
「いえいえ!こちらこそ、お口に合うかは分かりませんが…」
どうぞ、お食べ下さい_と白騎士様に促され、私は食事を口に運んだ。
「…ん、とても美味しいですね。けど…いつもと少し違う味ですね。今日は特段美味しく感じます。」
私がそう言うと、白騎士様の顔がぱあっと明るくなった。
「本当ですか?!お口に合って良かった…!!ふふ、頑張った甲斐ありました!」
「え?頑張ったって……」
白騎士様は少し照れくさそうにした。
「実は…それ、俺が作ったんです。ほら、この前硝子細工の花束をくれたじゃないですか。あれのお礼がどうしてもしたくて……」
「え?!白騎士様…お料理なんてされたんですか?!」
騎士団長で、それも貴族でそんな事する人はいない。
そういうのはシェフや侍女、執事の仕事だからだ。
「今までしたこと無かったので、初めてだったんですけど…」
上手く出来て良かったです_そう言ってまた彼は笑った。
私はもう一度食事を見た。
たしかに、とても美味しかった。
けど、まさか白騎士様が料理をなさるなんて…
今頃、城の厨房は大騒ぎだろうな。
「…ありがとうございます、白騎士様。」
私はスプーンを置き、頭を下げた。
「いえいえ、貴方から頂いた美しい硝子細工には敵いません。」
彼はまだ私の火傷痕を気にしているようだ。
「火傷なら、もうとっくに治りましたよ。ほら。」
私は彼に指を見せた。
彼は私の完治した指を見て安心したようだ。
「白騎士様もお食べになったらどうです?見てるだけじゃあつまらないでしょう?」
私は彼の方を見た。
「あっ、申し訳ありません。魔導師殿の食べる姿に見蕩れていました。」
白騎士様は相変わらずニコニコとしている。
「はぁ、また貴方という人は……」
思わずため息をついた。
食器を持ち、食事を口に運ぼうとする白騎士様を見て、いつもとは違う違和感を感じた。
何と言うか…食べ辛そうだった。
何かを庇っているような…普通は気付かないであろう、ほんの少しの違和感。
そして察した、少しの可能性。
「白騎士様…もしかして、どこか怪我なさってます?」
白騎士様が一瞬ビクッとした。
そして、またニコニコと
「怪我?まさか!俺は元気ですよ!」
そう言った額には汗が滲んでいる。
「貴方は私に嘘をつくのですか?」
私は責めるのではなく、諭すように聞いた。
「う”っ…」
彼は少し狼狽えている。
私は何も言わずに彼を見つめた。
彼はきっと、言うかどうか迷っているのだろう。
しばらくの沈黙の後、彼は決意したように口を開いた。
「実は…今日の戦で、ヘマをしてしまいまして。」
そう言って彼は軽く腕を押さえた。
「…見せて下さい。」
私が彼にそういうと、彼は少し躊躇いながらシャツを脱ぎ、腕を見せてくれた。
その腕にはぐるぐると包帯が巻かれており、滲む血の量は拳の大きさを優に超えていた。
一目で重症だと分かった。
むしろ、何故手を動かせるのかが不思議なくらいだ。
「ちょ…貴方これ、医療係にちゃんと診てもらいましたか?!こんな大怪我、部屋から出るなと言われるでしょう?!」
私はつい声を荒らげ、白騎士様に詰め寄った。
「いやぁ…言われましたけど、動かせるから平気かと思いまして。」
そう言って手を開いたり握ったりしている。
「動かせるから平気って…というか、そんな状態で料理を…?!何を考えているんですか、貴方は!」
私は信じられず、少し怒り気味に言った。
「どうしても、貴方の喜ぶ顔が見たかったんです。どうか怒らないで下さい。」
白騎士様は少しだけ下を向いた。
「貴方が手作りの硝子細工をくれた時…本当に嬉しかったんです。こんなに幸福な事はあるのだろうかと思いました。そこで俺は、自分で作った方が想いがこもって相手により喜んでもらえる事に気付きました。」
彼は少しこちらを見た。
「だから…俺も、貴方に何か自分で作った物を贈りたかったんです。今日やっと厨房を使う許可が下りたから、今日しかなくて。タイミング悪く戦が入ってしまったんですがね。」
彼はそう言って、少し参ったように頭を掻いた。
「けど…駄目ですね。貴方を怒らせてしまっては、元も子もないです。」
彼は悲しそうに笑った。
「ちが…怒ってなんかいません!その厚意自体は、とても喜ばしく思っています!ただ、私は貴方のその怪我を心配しているだけで…」
思わず席を立ち上がって言った。
「…心配してくださるんですか?」
そう言った顔は申し訳なさそうだった。
「……もちろんです。そんな大怪我、誰だって心配します。」
私はそう言って、医療魔法を使う準備をした。
あの怪我だから魔法でもすぐには完治はしないけど、それでも3日程安静にしていれば治るだろう。
私が準備をして治療をしている間、ずっと彼は申し訳なさそうにしていた。
「……一先ず、これで大丈夫です。3日程安静にしていれば、治ります。」
私が彼にそう告げると彼は頭を下げた。
「ありがとうございます、魔導師殿。申し訳ないです。」
「申し訳ないだなんて思わないで下さい。迷惑とも思っていませんし、それに、国のために負った傷でしょう。」
私は片付けをしながら言った。
「それに…寧ろ、貴方は怪我が少ない方だと思いますよ。アキトくんなんかは、よく怪我をして帰ってきますから。」
アキトくんは平民出身の騎士だけれど、その実力を買われて別の隊の団長をしている。
「アキトは危なっかしいですからね。自分より周りを優先する男です。」
白騎士様も、彼を認めているようだ。
「…とにかく、今日は部屋に戻ってすぐ寝ること。その後3日は絶対安静です。分かりました?」
私が釘を刺すと白騎士様は少し参ったように
「分かりました。」
と、腕をさすった。
部屋へ戻ろうとする白騎士様を、私は一瞬呼び止めた。
「どうされました?」
「食事……ありがとうございました。怒ってすみません。その、ちゃんと嬉しかったですから。」
ちゃんと彼の目を見て、私はそう告げた。
彼は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「それは良かったです。」
_____________________
「…たしかに第三王子から、見張り役をつけると言われましたが、、」
俺の自室の椅子に、魔導師殿が座っている。
「何故貴方がここにいるんですか…?!」
あまりに想定外な展開に、俺は驚きと動揺を隠せずに直接的に聞いた。
「貴方の言う通り、第三王子に頼まれたのですよ。」
魔導師殿が椅子から立ち上がり、こちらに近付いてきた。
「第三王子が、『怪我をしているのに3日も安静にしているとは思えないから、見張っていて欲しい』と。」
魔導師殿は少し不服そうな顔をしている。
「まぁ、たしかに貴方が安静にしているとは思えませんからね。こうして見張りに来ているというわけです。」
魔導師殿がトン_と俺の胸をついた。
「私がいるからには、絶対安静にしていてもらいますよ。フフ、覚悟して下さいね。」
そう言ってニコッと笑った。
「ぐッッッ!!」
俺は魔導師殿の笑顔に不意打ちをくらい、思わず声が出てしまった。
「え、白騎士様?!怪我が痛みましたか?!」
魔導師殿は俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。
「い、いや、ちょっとハートが……」
俺は胸を押さえながら声を振り絞った。
「ハート?」
魔導師殿は俺の真似をして胸を押さえた。
その仕草ですらもう可愛い。
これは…3日間安静に出来る気がせんぞ…
「白騎士様、どこへ行くのですか?」
部屋から出ていこうとした俺を、魔導師殿が呼び止めた。
「え、あ…ちょっと手洗いに行ってきます!!」
俺がそう言うと、じとーっとこちらを見た。
「さっきも行かれましたよね?」
「う”っ……」
さて、どうやってこの場を切り抜けようか……
すると、魔導師殿が俺の服の裾を掴み、少し上目遣いでこちらを見た。
「…私を置いていかないで下さい。」
「ん”ん”ん”ん”ッッッ?!」
思わずそんな声が出た。
「ど、どこで覚えたんですか?!」
俺は魔導師殿の肩を掴んで聞いた。
「アキトくんに、こうしたら白騎士様は何処にも行きませんよって言われました。」
効きました?_と魔導師殿が聞いた。
「どんな命令よりも効きました……」
俺は扉から離れ、魔導師殿を抱き締めたい衝動を抑えながら、椅子に腰掛けた。
「ふふ、何処にも行っちゃ駄目ですからね。」
魔導師殿が口元に手を当てて微笑んだ。
「ぐッッッ……」
黒い天使……その異名がとてつもなく似合う。
陽の光に照らされて微笑むその姿は天使以外の何者でもない。
「そういえば…寝る時はどうするのですか?流石に魔導師殿も部屋へ戻ります?」
俺は本を読んでいる魔導師殿に声を掛けた。
「いえ、貴方は抜け出してでも素振りをしに行くでしょう?見張りは続けます。」
魔導師殿は持っていた本をパタンと閉じた。
「第三王子から許可は取っています。ここで寝て良いと。」
「え”?!?!?!」
魔導師殿がここで寝る……???
え??
「そ、それは…」
「ほら、早く横になって下さい。寝付けないのなら、話し相手にでもなりますから。」
そう言って魔導師殿はベッドをぽんぽんと叩いた。
「え、そそ、そんな!?い、一緒に寝るのはまだ早いと思います!!」
俺が顔を真っ赤にして首を左右に振っていると、魔導師殿は不思議そうに口を開いた。
「え?寝ると言っても、私は床かそこらで寝ますよ。」
さも当然のように魔導師殿は言い放った。
「は?」
思わず気の抜けた声が出た。
「床やそこらって…そんなの駄目に決まってるでしょう?!魔導師殿こそ、ちゃんと寝てください!」
俺は魔導師殿を抱き抱え、ベッドに寝かせた。
「へ、あ、え?!ちょ、白騎士様?!」
驚いた様に魔導師殿は固まっている。
「き、急に何をするんですか!それに貴方、安静にって言ってるのに、私を抱き抱えたりして…傷口が開いたらどうするんですか!」
魔導師殿は怒っているみたいだ。
「う”っ…それはそうですが!俺も貴方を心配してるんです!ただでさえ、貴方も睡眠不足なのに床で寝るなんて…!!」
俺も思わす声を荒げた。
「相変わらず、仲がいいんだな。」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ、だ、第三王子…!」
魔導師殿がすぐに跪いた。
「いい、顔をあげてくれ。俺はただ様子を見に来ただけだ。」
そう言って第三王子はこちらを見た。
「…冬弥。お前、何故見張り役に魔導師殿を…」
俺はため息混じりに聞いた。
「そちらの方が、効果的だろう?」
第三王子は微笑んだ。
「傷はどうだ?まだ痛むか?」
「いや、もう大丈夫だ。3日も休暇なんて要らなかったんだぞ。」
俺は少し不服気味に答えた。
「いや、ルイが3日は安静にと言っていたからな。自分が大丈夫でも、身体は大丈夫じゃないらしいぞ。」
第三王子のルイという言葉が、少し引っかかった。
「それより、2人とも何を言い争っていたんだ?廊下まで響いていたぞ。」
冬弥の問いかけに、魔導師殿が慌てて答えた。
「も、申し訳ありません。大した事は無いのですが…」
「魔導師殿が、床で寝る等と言うからな。ただでさえ魔導師殿は睡眠不足なのに、床なんかで寝たら健康被害が出るだろう。」
俺がそう言うと、第三王子は少し考えてから口を開いた。
「なら、2人一緒にベッドで寝れば良いじゃないか。もしもそのベッドの広さが足りないと言うならば、すぐに新しいものを用意させよう。」
「え?!し、しかし……」
魔導師殿は何か言おうとしたが、第三王子に物申すのは不敬と感じたのか、口を噤んだ。
「と、冬弥!それには色々と問題がある気がするのだが…」
俺も反論しようとしたが、冬弥は気にしてないようだ。
「問題など無いだろう。どうしても気になるのなら…そうだな。俺の命令という事なら、仕方ないんじゃないか?」
命令、と言われると、俺も魔導師殿も従わなければならない。
「ぐっ…わ、分かった。」
魔導師殿も承知しました_と頭を下げた。
「2人とも、今日はすぐに寝て休んでくれ。じゃあ。」
そう言って第三王子は部屋から出て行った。
部屋はとうに消灯し、俺の隣には魔導師殿がいる。
普段じゃ有り得ない距離だ。
魔導師殿がすごく近く感じる。何だかいい香りもするし…
「…私、こうして誰かと寝るのは初めてです。」
魔導師殿が少し目を細めて呟いた。
「俺も…子供の時以来です。よく妹と2人で寝ていたんですよ。」
俺は昔を懐かしみながら言った。
「そうか…妹さんがいらっしゃるんですね。私は一人っ子なので、兄妹が羨ましいです。」
魔導師殿の顔は暗くてあまりよく見えなかった。
「……傷、大丈夫ですか?」
魔導師殿が優しく俺の手に触れた。
「ええ、もう全然痛みません。魔導師殿が治療してくれたお陰です。」
俺は軽く魔導師殿の手を握った。
「…それは、良かったです。」
いつもならすぐ振り払われるはずの手は、予想外に握り返された。
「?!///」
振り払われると思っていたものだから、突然の事に心臓が早鐘を打った。
「…ふふ、白騎士様は暖かいですね…」
そう言って俺の手に軽くすりついた。
「ま、魔導師殿?!///」
このまま死んでしまうのでは無いかと言うくらい、心臓が忙しなく動いている。
「いつも…こんな私に笑いかけてくれて…ありが…とう…ございま…」
魔導師殿の声はそこで途切れた。
どうやら眠ってしまったようだ。
「……生殺し…!!!」
俺は必死に理性を保ち、目を閉じて別のことを考える事にした。
…けど、それでも、やはり少し魔が差してしまう。
(今なら…口付けをしても、分からないだろうか。)
そんな考えが過ぎり、俺は気付けば魔導師殿に顔を近付けていた。
魔導師殿は穏やかな寝息を立てて眠っている。
端正な横顔、長い睫毛、柔らかそうな唇…
その全てが俺を誘惑する。
(…いやいや、駄目だろう!!?!?)
俺は我に返り、魔導師殿から離れた。
(寝込みを襲うなど…最低な行為!俺は一体何をしようと…!!!??)
自己嫌悪に陥りながら、衝動を抑えるように深呼吸をした。
その日の夜は中々寝付けなかった。
____________________
(な、なんとか3日乗り切った…!!!)
俺は心の中で叫んだ。
3日間、すごく大変だった。(色々な意味で)
怪我も完治したし、これで今日からまた鍛錬ができる…!!!
3日も剣を握っていなかったから、だいぶ鈍ってしまっているだろう。
俺は剣を握り、その感触を確かめた。
ずっしりと、重い。
俺は軽く剣を振ってみる。
いつも通りの感触がした。
(思ってたよりは鈍ってないようだな。だが、やはりまだ少し重く感じるから今日はいつもより本数を増やして……)
触れないようにしていたが、いつも通りじゃない事が一つだけあった。
「魔導師殿…そこで何をしているんですか?」
扉の前にある三段ほどの段差に、魔導師殿が腰をかけてこちらを見ていた。
「あぁ、構わず続けて下さい。別に監視というわけでは無いので。」
魔導師殿はそう言って本を読み出した。
今まで下に降りてくる…というか、あまり部屋から出てくることは無かったのに…
「いえ…そんな所にいて、寒くはありませんか?本を読むのなら、自室でも…」
魔導師殿は少しこちらを見て、また本に視線を戻した。
「私がここで読みたいから、良いのです。それに、ここなら花も見れますから。」
「そ、そうですか…」
俺は取り敢えず気にしないことにして、素振りを続けた。
「…そんなに大きな剣を、軽々と振るのですね。」
しばらくして、魔導師殿が話しかけて来た。
どうやらもう一冊読み終わったらしい。
「え?あぁ、鍛えてますから。良ければ、魔導師殿も持ってみます?」
俺はそう言って魔導師殿に剣を差し出した。
「え、けど私は……」
魔導師殿は少し迷っていたが、興味があったのか、俺から剣を受け取った。
「お、重……っ?!?」
魔導師殿は両手で力一杯握っているようだが、剣は地面に突き刺さった。
「だ、大丈夫ですか?!」
俺はすぐに魔導師殿の元へ駆け寄った。
「うぅ…やはり白騎士様は凄いですね。これを片手で…私は両手を使っても持ち上げることすら出来ないのに…」
魔導師殿は細い腕で必死に剣を引き抜こうとしていた。
「俺もすぐに出来るようになった訳ではありません。それに、魔導師殿は細すぎます。もう少し栄養を摂った方が良いかと。」
俺は剣を片手で引き抜き、土を軽く払った。
「う……え、栄養なら摂ってますよ。」
魔導師殿は少し視線を逸らした。
「へぇ…?野菜も食べられるようになったのですか?」
俺が呆れたように聞くと、魔導師殿はう”っ_と声を漏らした。
「しっかり食べなきゃ駄目ですよ。魔法を使うのにも体力が必要でしょう?」
俺は剣を仕舞い、魔導師殿の肩に上着を掛けた。
「そうですが…おや、もう鍛錬はおしまいですか?」
魔導師殿は俺が掛けた上着に触れた。
「ええ。魔導師殿にしっかり栄養を摂ってもらわねばと思いまして。丁度昼ですし、一緒に食事でもどうですか?」
魔導師殿は一瞬驚いたように目を開いた。
「ええ、そうですね。ご一緒させて頂きます。」
そう言って嬉しそうに微笑んだ。
最近、魔導師殿はよく笑うようになった気がする。
(心臓に良くないから不意打ちはやめて欲しいんだが…)
それでも、魔導師殿が嬉しそうだと俺も嬉しい。
____________________
最近、やたらと白騎士様が贈り物をくれる。
この前は手編みのマフラー、その前は街で評判のチョコレート、またその前は綺麗な宝石のついた髪留め。
「…贈り物は嬉しいけれど、頻度がねぇ、、」
私は机の上に置いてある刺繍の入ったハンカチを見た。
これは今日、彼がくれた贈り物だ。
やはり、白騎士様はとても器用なもので、この刺繍も自分でしたのだろう。
彼は私に「喜ぶ顔が見たいから」と贈り物をくれる。
もちろん嬉しい。けれど、貰ってばかりじゃ性にあわない。
「うーん…何か喜んでくれそうなお礼は…」
思考を巡らせ、彼の喜びそうなお礼を考えてみる。
「…彼なら、何でも喜んでくれそうだな。なんなら、そこらで摘んだ花でも喜んでくれそう。」
私は外に美しく咲いている花に視線を送り、ため息をついた。
「はぁ……どうしたものかね…」
時間ばかりが過ぎて行き、全く何も思い浮かばないまま辺りは暗くなってしまった。
「…もうこんな時間か。」
(白騎士様はもう帰っているだろうか…)
戸を叩く音が聞こえた。
「はい、どちら様ですか?」
するとすぐに聞き覚えのある声がした。
「ルイ〜!ボクだよ!入っていい?」
「おや、ミズキかい?」
私はすぐに立ち上がり、扉を開けた。
「夜にごめんねー!今なら時間ある?」
「ああ、大丈夫だよ。どうしたんだい?」
私がそう聞くと、ミズキは懐からワインを取り出した。
「えへへ、いいワイン貰ったからルイと一緒に飲もうと思って!」
そう言ってミズキはウインクした。
「へえ、ワインなんて久しぶりだな。ありがとう、ミズキ。」
私はミズキを部屋に招き入れ、グラスの準備をした。
「いやー、久しぶりに入ったけど、だいぶ置いてる物とか変わったね。何と言うか…物増えた?」
ミズキが部屋を見渡しながら珍しそうにしている。
「あぁ…最近、やたら白騎士様が贈り物をくれてね。そのせいかな。」
私はミズキに座るよう促し、自分も椅子に腰掛けた。
「へぇ〜?贈り物ねぇ〜」
ミズキは椅子に腰掛け、ニヤニヤしている。
「ちなみに、贈り物ってどんな?」
「えっと、まずはそこに飾ってる花…と、チョコレートや食事、髪留めや手編みのマフラー、あとさっきはこの刺繍の入ったハンカチを…」
そう言って私は刺繍の入ったハンカチを見せた。
「べ、ベタ惚れじゃん!?」
ミズキはハンカチを見ながら驚いた様に声をあげた。
「いやー…ツカサ先輩、器用だねぇ…。というか、あの激務の中ルイのために刺繍とか…愛強すぎでしょ。」
妬けるな〜_とミズキが笑った。
ミズキはワインを開け、グラスに注いだ。
2人でグラスを鳴らし、歓談する。
「あっ、あの硝子細工の花、ルイも持ってるんだ。」
ミズキが棚に置いてあった硝子細工に気付いた。
「あぁ、あれはこの前作ったんだ。案外難しかったけどね。」
ルイも…とは、どういう意味だろう?
「へぇ〜…ツカサ先輩も、一つだけ肌身離さず持ち歩いてるよ。他は部屋に飾ってあるんだーって言ってた!」
ルイの手作りだったんだ_ミズキはグラスを片手に机に肘を置いた。
「へ、へぇ、そうかい。肌身離さず…」
私は嬉しいような、恥ずかしいような感情が込み上げてきて赤面した。
ミズキはそれを茶化す事なく、ニコニコと見ている。
「…そうだ、ミズキ。白騎士様にお礼をしたいんだけど、何が1番喜んでくれると思う?」
私はずっと悩んでいたことを打ち明けた。
「え?ルイからなら何でも喜ぶと思うけど…」
ミズキは少し考えているようだ。
「…もうルイをあげちゃうのはどう?」
「え?!」
ガタン、と椅子が音を立て、私は思わず立ち上がった。
「あははっ、ルイのその顔珍し〜」
ミズキはそう言って口元に手を当て、笑った。
「ちょっと…揶揄わないでおくれよ。私は真剣に…」
そこまで言って、ミズキが人差し指を口元に立てた。
「まぁまぁ、聞きなって。」
私は口を噤み、ミズキの言葉を待った。
「ルイをあげるって、ルイの時間をあげるって意味ね。分かりやすく言うと…デートしてくるとかさ。」
名案でしょ〜_と、ミズキは得意気だ。
「で、デート…けど、それは流石に…ほら、白騎士様も忙しいだろうし。」
私は少し視線を逸らした。
「んー、あ!ボク、ツカサ先輩の仕事譲ってもらおうと思ってたんだよね〜。そうなると、明後日はツカサ先輩暇だろうなぁ〜。」
ミズキはチラッとこちらを見て、ウインクした。
「う…けど、突然誘って、もし嫌がられでもしたら…」
「え、いやいや!嫌がられる訳ないじゃん?!ルイはネガティブ過ぎ!」
ミズキはやれやれとグラスを置いた。
「いい?あんだけ愛してるって言われて、そんなに贈り物も貰って、それでもまだ、嫌がられると思う?」
ミズキの言葉に、私は少し考える。
「…分からないよ、」
考えた結果の答えはそれだった。
そう、人の気持ちなんて分からない。
何気ない言葉一つで信頼を失ったり、愛情を失ったりしてしまう。
「ルイなら大丈夫!自信もって!」
ミズキは明るく私を励ます。
その言葉に少しだけ安心し、ワインを一口飲んだ。
「うーん……飲ませ過ぎちゃったかな…」
ミズキがグラスを置いて困ったように呟いた。
「ルイ〜、大丈夫?飲み過ぎじゃない?」
ミズキが私の体を優しくさすった。
「んぅ…大丈夫だよ。ただ…ほら、アルコールが久しぶりだったから少し…」
私は机に顔を伏せながら答えた。
「いやけど…顔真っ赤だよ?ほら、お水飲んで!」
そう言ってミズキが水の入ったカップを差し出した。
「ありがとう、ミズキ。」
私はそれを受け取り、一口、また一口と口をつけた。
「ルイって、酔っても普段とあんまり変わらないね。まぁまぁ強い方だっけ?」
ミズキがグラスを片付けながら聞いた。
「いや、普通だと思うよ。酔っても思考がハッキリしているだけさ。」
私は水の入ったカップを一気に飲み干した。
ミズキがワインボトルを片付けようとした時…
と、また戸を叩く音がした。
「はーい!どちら様ですか?」
私の代わりにミズキが問いかけた。
「む、その声アキヤマか?!」
聞き慣れた声が聞こえた。
すぐにミズキが扉を開け、白騎士様が部屋へ入って来た。
「…魔導師殿と、一緒に本を読もうと思って来たのだが…」
白騎士様の腕には数冊の本があった。
「アキヤマ!魔導師殿にどれだけ飲ませたんだ?!」
白騎士様の言葉に、ミズキはぺろりと舌を出した。
「いやー、つい話が盛り上がっちゃって。ごめんね、ルイ。」
「話って……ど、どんな話をしてたんだ…?」
白騎士様が少しそわそわしている。
「どんなって、恋バナだよね〜!ルイ!」
ミズキがこちらを振り返った。
「こ、こここ、恋バナ……?!?!」
白騎士様は衝撃を受けたように固まった。
「…ええ、ミズキがデートとやらに誘ってみてはどうかと言うので、今度誘ってみようと思います。」
私は白騎士様から少し視線を逸らした。
「?!?!?!」
白騎士様は声も出ないという風に固まっている。
そして、急にフラフラとよろけた。
「お…お邪魔してしまった様で申し訳ありません……も、もう部屋に戻りますね…」
そう言ってフラフラとした足取りのまま部屋を出て行ってしまった。
「え、嘘でしょ?!なんで二人共そんなに自信ないの?!」
ミズキが驚いたように呆れた。
「き、嫌われたかな…?」
私は不安になり、ミズキに聞いた。
「いやいや!たぶんルイは他に好きな人がいるって思っただけだと思うよ!」
ミズキはよしよし、と私の頭を撫でた。
「明日、ちゃんとツカサ先輩デートに誘ってみたら?」
「……」
私はしばらく沈黙して、考えた。
そして、少し重たい口を開いて言った。
「…頑張ってみるよ。」
私のその言葉に、ミズキはよく言った!_と嬉しそうにしている。
「じゃ、またツカサ先輩の予定空けさせとくから!おやすみ、ルイ。よく寝てね!」
私はミズキにお礼を言い、ミズキは部屋を後にした。
____________________
明るい光が差し込み、俺は目を開いた。
見ると外はいつも通り小鳥が鳴いている。
こんなに晴れているのに、俺の体は重く、起きるのが嫌になった。
「……デートか、、」
魔導師殿が昨日言っていた言葉を思い出しながら呟いた。
昨日はあれから、どうやって部屋に戻ったか覚えてない。
すごく気が動転して、すぐに寝てしまったのは分かる。
しかし、今日も鍛錬がある。
早く起きて支度せねば……
俺はすぐ支度をして、重たい扉を開いた。
しばらく歩くと、前からアキトが歩いて来た。
「あっ、センパイ!大丈夫ですか?」
そう言っていつもより少し心配そうな顔をした。
「ん?何の話だ?」
そんなに辛気臭い顔をしていたのだろうか。
「昨日の夜、フラフラしながら歩いてたし、話しかけても反応が無かったので…」
昨日…話しかけられたか?
全く記憶にない……
「すまない。少し気が動転していてな。今はこの通り、元気だぞ!」
そう言って俺は笑ってみせた。
「いや、なんか空元気な気もしますけど…」
アキトが困ったように頭を搔いた。
「あっ、ツカサ先輩〜!おっ、弟くんもいる!」
薄暗さを吹き飛ばすような明るい声が聞こえた。
「げ、アキヤマ……」
アキトが嫌そうな顔をした。
「ひどーい、弟くん!そんな顔しないでよ〜」
アキヤマは泣き真似をする素振りを見せた。
「あっ、ツカサ先輩!明日の仕事、ボクに譲って貰えませんか?」
唐突にそんな事を聞いてきた。
「は?仕事を譲る…?どういう意味だ?」
俺は訳が分からず、アキヤマに訊ねた。
「そのままの意味です!ほら、ボク明日暇だから仕事欲しいな〜って思って。」
アキヤマは髪の毛の先をくるくると弄んでいる。
「珍しいな…しかし、いい心掛けだぞ!アキヤマ!だが、俺の仕事はいいから、アキトの仕事でも手伝ってやってくれないか?」
俺は後輩の成長を感じながら言った。
「え?!いや、ほら!ツカサ先輩もちゃんと休んだ方がいいと思うんですけど!」
アキヤマは少し慌てた様子で俺にそう告げた。
「心配するな!それに、この前3日も休暇を貰ったからな。しばらく休む気は無いぞ!」
後輩に面倒は掛けられないと思い、出来るだけ明るく伝えた。
「……まぁまぁ、センパイ。アキヤマはこの前厨房でやらかしてて、第三王子から罰として仕事終わったら庭の力仕事しなきゃいけないんですよ。なぁ?」
アキトがアキヤマに目配せして言った。
「そ、そうそう!力仕事はボク好きじゃないから、人助けと思って仕事くれませんか?!」
アキヤマが懇願するように俺に頼んだ。
「む、そうなのか?ふむ…罰ならしっかり受けた方がいいとも思うが…確かに、アキヤマに力仕事をさせるのは可哀想だな。」
俺は少しだけ考えて、アキヤマに告げた。
「よし!分かった!なら、明日の俺の仕事を任せても大丈夫か?第三王子に何か言われたら、俺が上手く言いくるめておこう!」
「うわ〜っ!ツカサ先輩ありがとう!!」
アキヤマは手をぶんぶんと振って喜んでいる。
「では、そろそろ鍛錬があるので失礼する。」
俺はそう言ってその場を去った。
_____________________
「…助け舟出してくれたのは有難いけどさ、厨房でやらかすって何なのさ?」
アキヤマが笑いを堪えながら言った。
「知るか。適当に思いついたのが厨房だったんだよ。」
俺は頭を搔いた。
「何かは知らねぇが、お前がそんな事言うなんて絶対何かあるんだろ?」
アキヤマは指をパチンと鳴らし、流石に弟くん!_と言った。
「実は、明日ルイとデートさせるために先輩の予定を空けようと思ってね。」
アキヤマが人差し指を立てながら得意げにしている。
「へぇ、デート…」
あまり聞き慣れない言葉を俺は復唱した。
「…ま、けど先輩の仕事1人で代わるのは流石に大変だろ?俺も明日時間あるし、三分の二くらいは引き受けるぞ。」
俺がそう言うと、アキヤマは少しだけ驚いてまた笑顔になった。
「弟くんやっさし〜!じゃ、半分お願いしちゃおっかな〜」
ありがとね〜!_と、アキヤマは笑っている。
俺も鍛錬の時間が近づいてきて、アキヤマと別れて訓練場へ向かった。
______________________
今日はとても晴れている。
空には眩しい太陽が一つ、世界を照らしていた。
(さて、デートとは言ったもののどう誘えば良いのだろうか…)
私は剣を振っている白騎士様を眺めながら、心の中で呟いた。
普段なら絶対に外へ出ないのに、最近は良く本を持ってここに訪れている。
剣を振る白騎士様を眺めていると、ヒソヒソと声が聞こえてきた。
『おいあれ…魔導師様じゃないか?』
『わ、本当だ!こんな所へ来るなんて珍しい…』
『な、何かの調査とかか…?』
『うわ、ヤバっ。ちゃんと鍛錬しよ…』
私はそんな言葉を聞き流し、白騎士様に話しかけるタイミングを探した。
私が外へ出ること自体珍しいので、注目されるのは想定内だ。
見ると、ようやく一区切りついたのか、白騎士様が他の兵達に何か指示を出している。
(……やっぱり、こうしてると格好良いんだよな。)
私は頬杖を付きながら、そんな事を考えていた。
どうやら休憩に入ったようで、各自バラバラとそれぞれの事をし始めた。
私は飲み物とタオルを持って、白騎士様へ話しかけた。
「白騎士様、お疲れ様です。」
そう言って飲み物とタオルを白騎士様に差し出した。
「ま、魔導師殿?!ありがとうございます!いらっしゃったんですね。申し訳ありません、全く気付かなくて…」
白騎士様は笑顔で飲み物とタオルを受け取った。
「いえ、構いません。それと、少しご相談があるのですが…」
私はコホンと一つ咳払いし、次の言葉を探した。
「ご相談…?も、もしかして例のデートの…ですか?」
白騎士様は少々ショックを受けた様子でそう聞いた。
「え、えぇ。そうです。その事なんですけど…」
私の頬は少し紅潮した。
「ま……魔導師殿!!」
突然白騎士様が私の肩を掴み、顔を赤くして言葉を続けた。
「あ、貴方が誰とデートをしようが、俺には関係ないと分かってるんですけど…!!でも!貴方とい、一緒にいるのは俺がいいです!!」
白騎士様は少し泣きそうな、必死そうな顔をしている。
「え、え?いや、あの、落ち着いて下さい…」
私は優しく白騎士様の手を握った。
「私が誘おうとしていたのは貴方です。明日、予定はありますか?無いのなら、私と…」
そこまで言って、白騎士様が抱き締めてきた。
「へ、え?!//し、白騎士様…?!」
私が驚いて動けないでいると、白騎士様が口を開いた。
「よ、良かった……嬉しいです!魔導師殿!明日は丁度アキヤマが仕事を代わってくれたので、空いてます!何処へ行きますか?」
その声は先程とは違い、明るく弾んでいた。
「あ、えっと、その前に…ここ、外ですよ。」
私は周りを見回しながら白騎士様に告げた。
「え?!あ、も、申し訳ありません!!う、嬉しくてつい…!!」
白騎士様は慌てて私から離れた。
私は少しだけ白騎士様から視線を外した。
「何処へ行くかは、白騎士様がお決めになって構いません。」
私がそう言うと、白騎士様は腕を組んだ。
「え?!で、ではそうですね…俺は魔導師殿と一緒なら何処でも良いのですが…」
白騎士様はしばらく考えていた。
考えているであろう間も、表情がころころと変わって面白い。
私はその顔を飽きずに眺めていると、白騎士様が思い立ったようにこちらを見た。
「街…とかどうですか?面白い物がいっぱいあるんですよ。」
私は少し考えた。
街…だと、目立つんじゃないか…?
もし私が白騎士様と2人でいる事が世間に知られたら、どう思われるのだろうか。
「魔導師殿が言いたいことは分かります。なので、俺にいい考えがあります!」
白騎士様が自信満々に胸を張った。
「いい考え…?」
_____________________
翌日、空はいつもよりも晴天だった。
「…これが貴方の言う、いい考えですか?」
私は平民の服を身にまとった白騎士様を見た。
「はい!俺達も街人になれば、目立つ事もありません!」
そう言って屈託なく笑っている。
「…貴方はなんと単純な…まぁ、木を隠すには森と言いますからね。」
私は少し呆れながらも、平民の服に袖を通した。
たしかに平民の服だと、まぁバレる事はあまりないだろう。
「似合ってますよ、魔導師殿!あ…けど、魔導師殿って言ってたらバレちゃいますね。」
白騎士様は私の顔を少し伺い、ニコッと笑った。
「じゃあ…ルイ殿!行きましょうか。」
「え、へ?!」
突然名前を呼ばれ、私は情けない声を出した。
「『魔導師殿』だと、周りの人にバレてしまうでしょう?」
そう言って私に手を差し伸べた。
「そ、そうですが…」
私は一瞬、差し伸べられた手を取るか迷った。
いきなりの名前呼びに少し抵抗があったが、名を呼ばれるのは悪い気はしない。
「……分かりました。ツカサ…様。」
私は白騎士様の手を取りながら言った。
白騎士様は太陽より眩しいのではないかと思う程、明るく笑った。
「おお…!やはり、街は賑やかで良いですね!」
白騎士様が高揚した様子で周りを見渡した。
「えぇ、そうですね。あっ、あれは何でしょう?」
私は変わった雰囲気のお店を指した。
「あれは…どうやら、小物屋のようですね。見にいきますか?」
私は頷き、白騎士様と共に店を覗いた。
「わぁ…この星の飾り、とても綺麗ですね。ふふ、白騎士様…じゃなくて、ツカサ様に似合いそうです。」
私は綺麗な星の飾りを手に取り、白騎士様に翳した。
「そ、そうですか?あっ、こっちの首飾りはルイ殿に似合いそうですね。」
そう言って白騎士様は首飾りを私の首に掛けた。
「とても良く似合ってます、ルイ殿。」
白騎士様は嬉しそうにしている。
「そうですか?なら…ふふ、これを買うのも良いかもしれませんね。」
私は首飾りに軽く触れた。
「あっ、もしも買うなら、俺に買わせてくれませんか?」
白騎士様が私の首から飾りを外し、そのまま会計を済ませた。
「自分で払いましたのに…」
私がそう言うと白騎士様は首を振った。
「俺が、貴方に買いたいと思ったのです。どうぞ、受け取って下さい。」
差し出した手の上には先程の首飾りがある。
「…ふふ、ありがとうございます。」
私はそれを受け取り、首に掛けた。
少しお待ち下さい_と言い、私は星の飾りの会計を済ませ、白騎士様の胸に付けた。
「お似合いですよ、ツカサ様。」
私がそう言って微笑むと、白騎士様の頬が一気に赤くなった。
「え、あ、ありがとうございます…!!」
私たちは店を後にし、またぶらぶらと歩き始めた。
「色んな店がありますね。俺はたまに街を訪れる事はあるのですが、ルイ殿はどうですか?」
白騎士様がこちらを向いた。
「私は平民出身なので、街に住んでいたことはありますよ。まぁ、十歳で城務めになったのですが。」
私がそう言うと白騎士様は驚いたような声をあげた。
「え?!ルイ殿…てっきり貴族かと思ってました。あまりに所作が美しかったので、高度な教育を受けているのだとばかり…」
信じられない…と言った風にこちらを見ている。
「そうですか?それは光栄ですね。アキトくんも同じく平民出身なので、話が合うんですよ。」
私は落ちてきた髪を耳にかけながら白騎士様の方を見た。
「そうなんですね…道理で、お二人の仲がいいわけだ。」
白騎士様は少し浮かない顔をしたが、すぐにニッコリと微笑んだ。
「えぇ、まぁ。それより…今日は人が多いですね。」
私は前からも後ろからも押し寄せる通行人を避けた。
「あっ、ルイ殿!!」
白騎士様が声をあげ、私の手を掴んだ。
「?ツカサ様…どうされました?」
私が驚いていると、白騎士様は掴んだ手を繋ぎ直した。
「この人混みでは、はぐれてしまうかもしれませんよ。」
そう言って優しく手を握った。
私は恥ずかしくて、その手を払うか迷ったが、白騎士様の温かくて優しい手を払うなど出来ず、その手を握り返した。
「…今日だけですからね。」
「!もちろんです!」
彼は振り払われなかったことが嬉しかったのか、先程よりも強く手を握った。
少し、痛い…けど、その痛みすら嬉しく思い始めていた。
どちらかというと、痛いのは嫌いだ。
私にはそんな性癖無かったはずだが…何故、嬉しいのだろうか。
そんな事を考えていると、
という痛みが足に走った。
どうやら、普段慣れない靴を履いたせいで、靴擦れしたらしい。
まぁ…このくらいの痛み、我慢出来ないことはないか。
折角のこの時間、無駄にはしたくない。
「…ルイ殿?どうかされましたか?」
白騎士様がさり気なく私の方を振り返った。
「いえ、何でもありませんよ。それより、次は何処へ行きましょうか。」
私は務めて笑顔で明るく尋ねた。
「……えっと、とりあえず休憩できる店がいいですね。お茶でもどうですか?」
そう言うなり、白騎士様は私を抱き抱えた。
「は?!え、ちょ、白騎士様?!」
驚きと羞恥心が同時に襲ってきた。
「ツカサですよ。ルイ殿、突然の無礼を許して頂きたい。とりあえず、近くの店に入りますね。」
白騎士様は私を抱えたまま、近くにあった店へ入った。
その店はカジュアルな雰囲気の甘味処のようだった。
店員は私たちを見るなり、奥の席へ通してくれた。
白騎士様は私を丁寧に降ろして椅子に座らせ、自分も反対側の席へ腰を降ろした。
「…急に何をするんですか?」
私は少し冷静さを取り戻し、白騎士様に尋ねた。
「あ、いえ…ルイ殿の様子がいつもと違ったので、もしかしてと思い…」
そう言って白騎士様は私の足に視線を送った。
「……何故分かったのですか、、」
私は驚きと同時に少しの恐怖を覚えた。
流石は白い悪魔の異名を持つ方だ。観察眼が長けている。
「実は、妹も良く慣れない靴を履いて靴擦れしていましてね。それでも、迷惑をかけないようにと我慢するものですから…少々、敏感になっているんです。」
白騎士様は少し悲しそうにそう言った。
「ルイ殿も…そういう事はすぐ言ってください。貴方はいつも大切な事を俺に言わずに…」
そこまで言って、白騎士様は言葉を止めた。
いつも?
はて……そんなにたくさんあっただろうか?
これが初めてな気もするが…いや、忘れているだけでたくさんあるんだろう。
「……ご心配ありがとうございます。しかし、急に抱き抱えるのはどうかと思いますよ。」
私が鋭く言うと、ギクッと白騎士様がわざとらしくリアクションを取った。
「い、いやぁ…あれが1番手っ取り早いと思いまして…」
白騎士様はそう言って頭を掻いている。
「全く…あまり目立つような事はしないで下さいね。」
私は釘を刺しつつも、嫌な気はしなかったのでそれ以上言わなかった。
その後はお茶と少しの間食をとり、ゆったりとした時間を満喫した。
また明日は白騎士様も訓練があるので、その日はそのまま城へ帰った。
_____________________
城の、よく日が当たる一室。
相変わらずこの部屋はいつも眩しく、棚に飾った硝子細工の花達を照らしている。
「…まさか、魔導師殿が誘ってくださるとは思わなかったな。」
俺は昨日の出来事を思い出していた。
(デート…デートか!あの時は俺から誘ったのに…)
俺は嬉しさを隠しきれず、その場で喜びのポーズをした_
「……随分とご機嫌だな。」
_ところを、見られていた。
「なっ、と、冬弥!!?いつからそこに?!」
冬弥は丁寧に扉を閉めて、こちらへ近付いてきた。
「昨日、ルイが随分と幸せそうに帰ってきたんだが…街へ行っていたのか?」
冬弥は少し探るように俺を見た。
「ああ。魔導師殿が誘ってくれてな。街を提案したのは俺だが…何か問題でもあったか?」
冬弥は首を振り、柔らかく微笑んだ。
「ああ、いや、そういう訳ではないんだ。」
「ただ……今回は、上手くいきそうだと思っただけだ。」
冬弥は意味深に呟いた。
「3日後、大きな戦があるのは分かっているな?」
冬弥は神妙な面持ちをしている。
「ああ、もちろんだ。忘れるはずがない。」
俺の声は自然と強ばっていた。
冬弥は俺の胸をトン_と叩いた。
「…頼んだぞ。お前に全て掛かっているからな。」
俺は冬弥の頭を優しく撫でた。
「ああ、任せてくれ。今度こそ、変えてみせるから。」
太陽が雲に隠れ、部屋が少し暗くなった。
_____________________
梟の鳴く声がする。
その声は妙に静かで、闇夜に響き渡っていた。
「…さむ、」
流石に冬の夜は冷える。
私は腕を擦りながら、中庭へ向かった。
この暗い世界を、一際明るく輝く月が照らしている。
月に照らされて、中庭に1つの影が見えた。
「…白騎士様。」
私がそう声をかけると、影がゆっくりと動いた。
「魔導師殿、来てくださったんですね。」
月に照らされ、彼の金色の髪が光っている。
「急にこんな手紙寄越して…何のつもりです?」
私は懐から封筒を取り出し、ひらひらと白騎士様に見せた。
「ははっ、よく俺だと分かりましたね。」
彼は嬉しそうに口元に手を当てた。
「そりゃ分かりますよ…私に手紙を寄越すなんて、貴方くらいしか思い当たりませんからね。」
私は少し呆れたように息を吐いた。
「それより、この手紙の内容はなんです?『話したいことがある』って…」
私は早速本題を切り出した。
「ああ……その…まぁ、座りましょうか。」
彼はガーデン用の椅子とテーブルに視線を送った。
私は彼に促されるままに椅子に腰掛けた。
「そんなに長くなるお話なのですか?」
私はズレ落ちた眼鏡を掛け直した。
「まぁ、そうですね…夜遅くにすみません。」
彼は申し訳なさそうに頭を搔いた。
「いえ、その事は気にしないでください。どちらかと言うと私は夜型なので、問題ありませんから。」
私が少し茶化すと、白騎士様も緊張が少し和らいだのか優しい笑みをこぼした。
「そうでしたね。貴方はいつも遅くまで作業してるものですから、本当に心配です。」
彼は懐かしむように呟いた。
「…それで、要件はそんなに言いづらい事なのですか?」
私は彼の瞳をじっと見つめた。
彼の様子がいつもと違うことはすぐに分かった。
「……そう、ですね。まぁ、言いづらい…ですかね。」
ポツ、ポツ…と、言葉を選びながら発言する様子は彼らしく無かった。
私は静かに彼の言葉を待った。
2人の間に、妙な沈黙が流れる。
私が何か別の話題でも振ろうかと考えていると、やっと彼が口を開いた。
「俺は…貴方を愛しています。」
何百回とも言われた言葉が彼の口から飛び出した。
「…はい?」
私は少し拍子抜けした。
「愛しているからこそ…貴方には幸せになって欲しいんです。」
彼の言葉は止まらなかった。
真剣な面持ちで、彼は私を見つめている。
「…それはどういう、?急に何ですか?」
私は妙に嫌な予感を感じた。
「…俺が死んだら、俺のことは忘れて下さい。これだけ愛していると言っておいて勝手なのは分かってますが…貴方には、幸せになって欲しい。」
彼は強く拳を握って、何かを抑えているようだった。
「なに…言ってるんですか?そんな、死んだらなんて縁起の悪い…いくら冗談でも、程度がありますよ。」
何故か私の額から汗が流れる。
「魔導師殿…いや、ルイ。俺はずっとお前を愛している。だから…俺のことは忘れて欲しいんだ。」
そう言った彼の表情は、月の光の加減でよく見えなかった。
「な、なん…急に何です?」
私はまだ状況整理が追い付かず、ただただ戸惑うことしか出来なかった。
彼は立ち上がり、私の唇に優しく口付けをした。
「…永遠に愛してる。何度でも、何度でも。」
その声は微かに震えていた。
私は何も言えず、されるがままに彼を見つめることしか出来なかった。
「…ありがとう、ルイ。そろそろ部屋に戻った方がいい。風邪を引いてしまうぞ。」
彼はそう言って自分の上着を私の肩に掛けた。
「…え?あ、白騎士様…」
白騎士様は悲しそうに私を見たが、1度だけ私の頭を優しく頭を撫で、そのまま城へ戻ってしまった。
私はその場から動けず、しばらくの間その場に留まっていた。
しかし、梟が飛び立ったのを合図に私の身体が動くようになった。
「…なに、今の…」
それ以外は、言葉にならなかった。
_____________________
柔らかい陽射しと鳥の囀りで、私は目を覚ました。
昨日のは一体……
廊下から慌ただしい足音が複数聞こえてくる。
(何かあったのだろうか?)
普段なら出ないが、私は部屋から出て様子を見ることにした。
すると、侍女や使用人が忙しなく動いている。
「ねぇ、何かあったのかい?」
私は近くにいた侍女に尋ねた。
「い、今隣国からの宣戦布告を受けて…!騎士団が戦場へ向かったんです!」
侍女はそれだけ言うと、失礼しますと頭を下げて自分の仕事へ戻って行った。
「騎士団が向かった…?もしかして…」
何かとてつもなく嫌な予感がした。
私は急いで第三王子を探した。
「だ、第三王子!!」
ようやく第三王子を見つけ、私は挨拶も忘れて叫んでいた。
「隣国との戦って…し、白騎士様も、ツカサ様も行かれたのですか?!」
私は第三王子に飛びつきそうな勢いで尋ねた。
「…ああ、丁度さっき向かって行った。」
第三王子はいつもよりも真剣な顔をしていた。
「あの、私…私も行く許可を下さい!絶対、役に立つとお約束しましょう!必ずこの国を勝利に…」
第三王子は人差し指を口元に立てた。
私が口を噤むと、第三王子が口を開いた。
「…ルイがそんな事を言うなんて珍しいな。自ら戦場へ行きたがるなんて、初めてじゃないか?」
第三王子が立ち上がり、コツコツとゆっくり歩いて来た。
「そんなにツカサが心配か。まぁ…無理もないだろうが。」
第三王子は少し申し訳なさそうに私の方を見た。
「悪いが…まだお前を行かせてやることは、できない。騎士団が全滅に追い込まれるまで、待機命令だ。」
「そ、それは……全滅、って…」
それ以上は声にならなかった。
私はその場にへたりこんでしまった。
白騎士様は…ツカサ様は強いじゃないか。
何をそんなに心配することがある?
今までの戦だって、必ず帰ってきたじゃないか。
どんなに激しい戦でも、怪我を負ってでも帰ってきたじゃないか。
飽きもせず部屋の戸を叩いて、『魔導師殿』って笑いかけてきたじゃないか。
そう、大丈夫。信じるんだ。
今までそうだったように。
なのに……なのに……
なのに…どうしてこんなに胸騒ぎがするの?
私の無礼に対して第三王子は何も言わず、ただ何か言いたそうに私の頭を撫でた。
私の思考はどうしても最悪の場合を想定してしまい、ただただボーッと座り込むしか無かった。
どれ程時間が流れただろう。
突然第三王子が驚いたような表情と焦りを見せると、私に告げた。
「ルイ…行くぞ。戦場へ。」
その言葉を理解するのに数秒を要した。
そしてその言葉の意味を理解し、私は絶望を覚えた。
全滅……
最悪の二文字が私の脳裏に過ぎる。
第三王子も相当焦っているようだ。
第三王子と私達は馬を走らせ、全速力で戦場へと向かった。
早く、1秒でも早く、どうか、まだ無事でありますように…!!!
世の中は、本当に残酷だ。
私の願い虚しく、戦は終わった後だった。
敵軍は、もういない。
そこには、夥しい量の兵が横たわっていた。
人であるかも分からないほどの者や、見るに耐えない者もいる。
「…ツカサ、様、」
私はまだ少し希望を持っていた。
もしかしたら…まだ、生きてるかもしれない。
いいや、生きてる。あの方は死なない。
そんな私の淡い期待は数秒で打ち消された。
「あ…あぁ……ぁあぁ…」
視線の先には、身体を貫かれ横たわっている彼がいた。
私はよろよろと近付き、彼の隣に座り込んだ。
「白騎士様……ツカサ様…ねぇ…聞こえますか…?」
私は脈を確認した。何度願っても、何度確認しても、脈が動くことは無かった。
彼の瞳からは既に光が消え、体は冷たくなっている。
「冷たい…そうか、寒いんですね…!大丈夫です、私が暖めて差し上げますから…ほら、貴方のように体温は高くないですけど、今なら私の方が…」
私がツカサ様の手を握っていると、第三王子が私の肩を優しく叩いた。
「ルイ…分かっているだろう?ツカサは、もう…」
第三王子にそう告げられ、私はツカサ様の手を離した。
「だって……だって、私…!まだ、ツカサ様に『愛してる』って言ってない…!!」
私の視界がぼやけた。
地面にはポツ…ポツ…と雫が滴り落ちている。
「なんで…なんで、まだ伝えてないじゃないか…!!あんなに言われてたのに、『私も愛してます』の一言が、なんで…!!」
私の言葉は留まることはなく、視界はどんどんぼやけていく。
「ばか!!なんで置いていくのさ!忘れろなんて…そんな無責任な事言わないでくれよ!無理に決まってるじゃないか…!!こんな…こんなに愛したくせに!愛させたくせに!!本当に…」
私は何度も地面を殴った。
「ばか!!ばか!!私は…こんなに、貴方を愛しているのに…!!なんで、今まで言えなかったのに…なんで、今言えるんだよ…!!」
そこからは……よく覚えてない。
私は他の駆けつけた使用人に連れられ、城へ帰った。
私はその後職務も忘れ、部屋に閉じこもり続けた。
そんな私に…第三王子は何も言わなかった。
1度だけ私の部屋に顔を覗かせたが、私が構わないでくださいと言うと「そうか…」とだけ言い、それ以降は何も言わなかった。
ただ、使用人に運ばせているのか知らないが、部屋の前には毎日食事が置かれていた。
それを勿体無いと思いつつも食欲がなく、全く手をつけられなかった。
もう、何もしたくない。誰にも会いたくない。
人なんてもう愛さない。
生きる意味なんてない。
ああ、死のう。
とても自然にそう思った。どうせなら、あの人と同じ死に方がいい。
胸に剣を突き刺して、死にたい。
そう思って早速決行したが、第三王子によってそれは阻止されてしまった。
私はその時初めて第三王子に怒鳴られ、頬を打たれた。
「お前が死んだら、ツカサとの思い出はどうなる!お前が覚えていなくて、誰が覚えるんだ!!」
今でも忘れられない。まだ頬の痛みが残っている気がする。
私はそっと頬に触れた。
第三王子は、とてつもなく優しい。
最近、私は考え方を変えてみた。
そうか、やり直せばいい。
全部、全部、最初からやり直して、伝えればいいんだ。
私はそこから『時巡りの魔法』を完成させるべく、研究に没頭した。
『時巡りの魔法』は今も昔も禁忌とされており、今まで完成させたものはいないという。
昔は、みんな不可能なのだと思っていたが、今ならその理由が分かる。
完成させても、それを世に出さなかっただけだ。
『時巡りの魔法』を完成させようとする者はきっと、富や名声のためじゃない。
そんなのがどうでも良くなるくらい、戻したい過去や変えたい未来があるんだ。
『時巡りの魔法』の文献はほぼ無いに等しく、研究は難航した。
私は寝るのも食事を摂るのも忘れて研究を続けた。
きっと、ここにツカサ様がいたら酷く叱られただろうなぁ…
そんな中……とうとう私は『時巡りの魔法』を完成させた。
ここまで来るのに実に30年を要したが、短い方だろう。
私は30年振りにワクワクしていた。
やっと…やっと、彼に会える。
今度こそ、ツカサ様に『愛してる』って伝えるんだ。
私が早速魔法を使うと、段々世界がぐるぐると回っている感覚がした。
薄れ行く意識の中、私の目には美しく咲き誇る花瓶に生けられた花を見た。
30年前にもらったあの花束は、今でも美しく咲いている。
私はふと、ツカサ様との会話を思い出していた。
思えば、彼は時々私のことを良く知ったような発言をしていた。
まるで、遠い昔から知っていたかのように…
それに、戦の前日の夜…最後に会った日の、あの発言。
もしかして……
私は1つの可能性に気付き、早く気付かなかった事を後悔した。
彼は全部、知っていたのだ。
そして、繰り返している。
恐らく、また彼は繰り返すのだろう。
愚かな私の身勝手な呪いで……
_____________________
明るい日差しが差し込む、城の一室。
その部屋は少し殺風景で、机や椅子、棚にベッドなどの家具しか置かれていない。
「痛ッ……」
俺は存在しないはずの痛みを感じ、胸を押さえた。
「…くない?」
俺は自分の手を見つめた。
「……そうか、俺は死んだのか。」
胸を手で押さえ、深く深呼吸した。
「また……また、駄目だった…」
俺はやりきれない気持ちをぶつける事も出来ず、ただ脱力した。
俺は遠いあの日、戦の日……死んだ。
と思ったら、いつの間にか自室で眠っていた。
驚いたことに、過去に戻ったらしい。
ルイは俺の事を全く覚えておらず、警戒心が剥き出しだった。
今まで積み上げてきた関係が一瞬にして無くなったのはショックだったが、やり直せると思った俺は高揚した。
きっとこれは、神様がくれたチャンスなんだ。
そう思ってまたルイとの信頼を積み上げていった。
そしていくら気を付けていても、俺はあの戦で死ぬ事が分かった。
前から槍が飛んできて死んだから、それを回避しようと良ければ横から敵に切りつけられる。
その敵を回避すれば、別の敵に刺される。
何回も、何回も繰り返したが、それだけは変えられなかった。
繰り返した回数はそうだな……3000を超えた辺りで数え飽きた。
ルイとの信頼を築き、あの戦で死ぬ。
そして、ルイが魔法で時を戻す。
この繰り返しだ。
どうやら、運命には抗えないらしい。
だが…可哀想なことに、冬弥も俺と同じく、記憶を持ったまま繰り返しているらしい。
あの戦で死んだのは俺だけじゃない。
アキトも、アキヤマも死んだ。
冬弥は3000回以上、最愛の恋人の死を見続けていることになる。
今度こそは変えられると思ったが…俺たちはまた、繰り返さねばならんようだ。
私は部屋の戸を開き、廊下に出た。
薄暗く長い廊下が微かに照らされていた。
俺はその先に、見慣れた背中を見つけた。
ああ、また会えた。
何度も、何度も、何度でも、貴方が望むのなら繰り返そう。
それが、俺が貴方から与えられた愛なのだとしたら。
俺は喜んでそれを受け取ろう。
俺はその背中に向かって走り、同じ言葉をかけた。
「魔導師殿!!」
振り返った貴方は、どんな表情をしているんだろうか。
コメント
9件
やっと完成しましたー!!! 聞いて驚け、31000文字を超えたぞ!!ふはははは!! 読んでくれて人ありがとー!! ハピエンのつもりだったがメリバになってしもうた…🥺🥺 まあいいよね((( 白騎士🌟と魔導師🎈めちゃ好きやぁ……!!!! 次はなー、ペガ博とかトル団も書きたい。うん。書こう!! 読んでくれた人に全力の感謝を🙏🙏