外観がバリバリの日本家屋なのも、扉が洋風ドアではなく和風の引き戸なのも、自分が住んでいる由宇町の生家を彷彿とさせられるようで、何だか親近感を覚えてしまった実篤だ。
表札に「木下」と掛かっているところから鑑みるに、どうやらここはくるみの自宅らしい。
そこまで何の気なしに考えて「ちょっと待って、自宅っ――!?」と思わず大声で叫びそうになった実篤だ。
くるみの家だというなら、天涯孤独の身になってしまったくるみは普通に考えれば一人住まいのはずで。
いくら無防備、天然無自覚なくるみでも、夜に男である実篤一人を招待しているということはない、よ……な?とにわかに不安になってしまう。
***
「どうぞ」
上がりかまちの所に、犬のぬいぐるみみたいなもふもふスリッパを出してくれたくるみに、「有難う」と礼を述べながらそれを履いて――。
ふとくるみの足元を見ると、同じようなウサギのもふもふスリッパなのに気が付いた。
(可愛い……。めっちゃ似合うちょるな)
女の子らしいそのスリッパは、まるでくるみのために設えられたみたいにしっくりと、彼女の脚に馴染んで見える。
(俺には死ぬほど似合うちょらんけどな……)
正直実篤の足にはサイズ的にかなりきつくて、踵が大幅にスリッパからはみ出して落ちてしまっていた。
ダイエット用の健康スリッパに、わざとこんな感じに寸足らずな短いデザインのがあったよなぁ……なんて、昔母親がそういうのを履いていたのを思い出しつつ、苦笑と共に自分の足元を見下ろす。
それにしてもこんな可愛いスリッパを何足も揃えるんは大変じゃろうなぁと思いながら、
「そっ、そう言えば他には誰が来るん?」
と、前を歩くくるみの背中に、何の気なしを装って問いかけた。
古い日本家屋らしく、広い玄関先の土間をちらりと見回してみたけれど、自分が今脱いだ靴以外に客人のものと思しき履物はないように見えて。
まさか改装とかしてあって、見えない所にシューズクロークでもあるんじゃろうか、と思ってしまった。
「他? うち、今日は実篤さんしかご招待しちょらんですよ?」
こちらを振り返ったくるみにキョトンとした顔をされて、思わず「えっ!?」と声が出てしまった実篤だ。
「えっ? もしかして……ダメでしたか?」
自分の反応に、不安そうに眉根を寄せたくるみを見て、実篤は思わず口ごもる。
「いや、ダメっちゅーか……。逆にくるみちゃんはそれで良いの?」
「――? うちですか? うちは別に気にせんですけど……もしかして実篤さん、二人きりじゃったらまずかったですか?」
不思議そうな顔をされて、「実篤さん、別にコミュ障じゃないですよね? 前に恋人もいらっしゃらないって仰ってらしたし問題ないか思うたんですが」と付け加えられた実篤は「くるみちゃぁぁぁん! そう言う話をしよーるんじゃないけぇぇぇ!」と心の中で叫ばずにはいられない。
「あのさ、くるみちゃん。俺、一応男なんよ。そこら辺、間違いとか……あると困るな、とか思いよーるんじゃけど」
意を決して彼女の真正面、くるみを真っ直ぐ見下ろすようにして「理性が崩壊して間違いとか起こったらどうするん?」と言う思いを込めてわざと威圧的に声を低めれば、大きな瞳で驚いたようにじっと見つめ返された。
「間違う? うちが実篤さんを……? 何に?」
微妙ズレた感じでそこまで言って、ハッとしたように息を呑むと、
「あっ! あの……実篤さんっ? もしかして……ご自分のお顔、女の子に見間違えられるかも?とか思うて気にしてらしたり?」
頓珍漢なセリフと共に顔をじっと見上げられて、「はっ?」とつぶやいたら「こんな背が高ぉーて男らしい顔つきをした女の子はおらんですけぇーね? 筋肉じゃってめちゃ付いちょるのに。――もぉ、実篤さん、いきなり訳分からんこと言うて笑かさんちょいて!」と吹き出されてしまう。
(いや、訳分からんこと言ーちょるん、くるみちゃんの方っ!)
と頭の中でツッコミを入れている実篤をよそに、くるみが続ける。
「ひょっとしていつもうちに聞いてきていらした〝強面云々〟も、本音は女の子顔が隠せちょる?って確認じゃったりしました?」
(いやいやいや、そんなわけなかろーよ!?)
心の中では盛大に全否定している実篤だったけど、くるみが物凄く可愛らしい顔で自分を見上げてくるせいで、やたら照れ臭くて声が出せない。
それを肯定と判断したらしいくるみに、
「もぉ〜! 真っ赤になってからに、可愛いーんじゃけぇ!」
クスクス笑われて、実篤は内心タジタジだ。
「そー言うトコは確かに乙女チックじゃけど……うちには実篤さん、カッコイイ男性にしか見えちょらんですけぇね? 安心して下さい」
(いや、安心してくれ言われても……)
もとより自分は怖い顔の男にしか見えないと自覚しまくっている実篤だ。
何故そうなった?という斜め上の持論を展開して慰められても困る。
しかも――。
コメント
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お団子かぁ。 昔は、十五夜に合わせてススキとお団子を飾ったの思い出した😊