夜。家に帰ってきてシャワーも済ませ、ソファに座ってタオルで髪を拭きながら、仁人はここ数日で気づいたことについて意を決して切り出した。
「……ねぇ勇斗?」
勇斗はキッチンからペットボトルの水を飲みながら
「ん?」と気の抜けた返事をした。
ん?ってなんだよ、むかつくな。
そんなことを思いながら仁人の眉間にしわが寄る。
「おまえさ最近YouTubeで俺の名前出しすぎ。」
勇斗は一瞬止まり、「え?」と目を丸くする。
だがすぐにニヤッとして、ペットボトル片手に近づいてきた。
「え〜だめなの?いいじゃん別に。付き合ってんだし。」
出た、“付き合ってんだし理論”。勇斗がいっつも自分に非があるってわかってる時に使う奥義だ。
「だめ。ほんとにやだ!てか1動画に1回は出してるじゃん。なんなの?」
勇斗は「あ〜」と言いながらソファの隣にどさっと腰を下ろす。
明らかに反省の色が見えない。
「いや〜なんか喋ってると出てくんだよね〜。じんとのこと。やっぱ一緒にいる時間長いからなのかな?!」
「それ言い訳になってないから。」
「え〜……、てかさ」
一瞬拗ねたような口をしながら勇斗が仁人の顔を覗き込んでニヤッとした。
「俺の動画、見てくれてんだ。」
仁人、秒で目をそらす。
「はー………こいつめんどくさい」
「かわい〜〜〜。」
かわいいなんて仁人にとってただの煽り文句にしか聞こえない体で嫌そうな顔をしているが、少し仁人の耳が赤くなっているのがわかる。
「かわいくないから、ほんとやめてって言ってるの!言ったよね?!なーんーかーいも!!」
「いやいやいや、じんとが俺の動画気にしてチェックしてくれてるってだけでも嬉しいし。
それで怒ってくれるのもなんか……マジで、滅。」
「うざい」
仁人が本気で怒ってるのを理解したのか、
勇斗は「はいはい」と手を伸ばしながら、ゆっくり近づいてくる。
「ね、じんと。」
「ななに?!来ないで勇斗!」
「どうせ構ってほしくて文句言いに来たんでしょ〜?」
「は!?ちが」
「はいぎゅー。」
抵抗の隙を与えず、勇斗が強めに腕を回して引き寄せた。
仁人の身体はそのまま勇斗に吸い込まれる。
「っ、ちょ、やめ!!ごめんごめん!いいから!離して!」
口では文句を叫ぶが、逃げようとする動きは弱い。
押し返す力も全然入ってない。
しかも勇斗の胸に埋まってる仁人の顔をチラッと覗くとめちゃくちゃ可愛い笑顔で大騒ぎしていたのだ。
勇斗はあまりに愛おしくて、喉の奥で笑うように小さく息を漏らした。
「文句言ってるけどさ、今めっちゃ嬉しそうな顔してるの知ってる?」
「嬉しくねーよ!離せ!」
「はいはい、解放してやる」
「あーもう、お前って本当!!」
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