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「あはは、それで、婚約は取り付けられたって事だね。恋人とか婚約とかぶっとばして、結婚かあ……やるねえ、ユーイン」

「僕じゃない」

「いいえ、ユーイン様が言ってくれたんですよ。結婚してくれって」

「……格好がつかない」


皇宮の一室にて、この間の一件の結末を話にソリス殿下の元を訪れれば、この話を聞いたソリス殿下は目尻に涙を浮べながら腹を抱えて笑っていた。

ソリス殿下にとって、これは面白いこと以外の何物でもないらしく、笑いすぎて苦しそうだった。だが、その気持ちは分からなくもなかった。だって、私もこの展開は全く予想していなかったのだ。

あの時、勢いに任せて言ってくれて本当に良かったと思う。ただ一人、私の腕の中で不満ありありと言った顔でふて腐れているユーイン様を除いては。


「というか、ユーイン様。もう小さくならないって言ったのに、何でまた小さくなっているんですか?」

「省エネだ」

「しょう……エネ……」

「あー、ステラ。言い忘れていたけどね、ユーインは、恥ずかしくなると小さくなってしまうんだ。まあ、後は魔力を温存したいときに小さくなる、とか? この場合、どっちかは知らないけど、そっちの方が都合が良いときもあるんだ」

「へえ」


いや、初耳だ。

まだ、ユーイン様の思惑が計り知れないとき、ユーイン様は魔力の暴走によって小さくなったと思っていた。でも、あれは意図的だったと後から教えて貰った。そして、今、小さくなる原因は複数あると伝えられた。どう反応して良いか分からなかったし、魔力がゼロに等しい私からしたらあり得ない現象なのだ。


(どっちでもいいけど、小さいユーイン様はだきごこちがいいんだよな……)


子供の肌というのは吸い付くぐらいすべすべで柔らかいから、ずっと触っていても飽きないし癒される。だから、私としてはこのままでも良いと思っているんだけど……

そんなことを思いつつ、私はユーイン様をぎゅうと抱きしめた。この間は、高い高いをして怖がられたし、自分の怪力は人と比べものにならないほどゴリラだと知っているから、力加減は気をつけたつもりだった。でも、ユーイン様の顔は青かった。


「ステラ、もう少し優しく抱いてあげて欲しいな……ちょっと、ユーインが苦しそうだ」

「あ、はい。すみません」


物じゃないことは分かっていても、小さなユーイン様は、壊れ物のようで丁重に扱わなければならない。でも、矢っ張り力加減が難しい。


(うーん……ノイ曰く、林檎を撫でるぐらいの力でって言われたけど……)


林檎なんていう果物は粉砕するためにあるのかというぐらい柔らかいし、そもそもリンゴの大きさが小さいユーイン様に当てはまるはずがない。

でも、これ以上強く抱き締めたら潰してしまいそうで怖い。そんなことを考えていると、不意に私の腕の中からユーイン様が抜け出して、床に足をつける。


「子供扱いするな」

「ご、ごめんなさい。ユーイン様」

「……いや、違う。ステラに、じゃなくて……兄貴に言っているんだ」


と、ぷいっと顔を背けてしまう。

ああ、可愛い。

子供扱いというか、可愛い、愛でるものとして扱っていると言われればそうだと応える自信がある。まあ、それだとユーイン様に良い顔されないからあれだけど。

ソリス殿下は、プッと吹き出してまた笑い出した。それを、気にくわないというようにユーイン様が睨み付ける。でも、子供の睨みなんてこわくなんてちっともないわけで、さらに殿下のツボを刺激する。


「笑うな」

「い、いやあ、だって、こんなにも面白いことが起きるとは思わなかったよ」

「僕は面白くない!」

「あはは、僕にとっては面白いけどね」


(確かに)


それは、私も思った。私は、面白いというよりは嬉しいという感情が強いけれど、ユーイン様はそうではないらしい。

ユーイン様にとってみれば、不本意なのだろう。ただでさえ、結婚の約束を取り付けたことで満足していたのに、まさかのプロポーズだ。その衝撃は計り知れない。まあ、計算通りといえば、計算通りなのかも知れないけれど。


(でも、結婚してくれるって言ったよね……?)


改めて考えると夢みたいだ。けれど、まだユーイン様のことは知らない訳だし。


(いやいや、そんなどこぞのロマンス小説みたいに恋して愛して、それから結婚して幸せをさらに育んで……とかにはならないだろうな。貴族ってそういう物じゃないし……もっと堅苦しくて、面倒くさい人間達で)


自分も貴族だけれど、愛や恋よりも家を継いで残していくことが大切なのだ。途絶えれば、その家は消滅するみたいな。難しいことはそこまで分からないけれど、結婚に愛だの濃いだの言ってられないのだとか。

だから、本来なら、今回みたいな感情は捨てるべきと言われても仕方がないのだが。


(けど、私はユーイン様のことをもっと知りたい)


私が彼を好きになったのは、彼の魔法に魅せられたから。彼の強さは知っているつもりだ。その強さに惹かれたんだけど……


(今は、可愛いの方が増さっちゃうというか!)


「何、ニヤニヤしているんだ。ステラは」

「い、いやあ……結婚って、いつするのかなあ……とか、考えて」

「絶対嘘だな」


と、冷たい目でユーイン様は私を見た。

何で分かったのかと、私が見ていれば、顔に出やすいと言うことを後々思い出した。まあ、別にいいのだけど。


「まあ、改めておめでとう。二人とも。ようやく、ユーインの長年の恋が叶って俺も嬉しいな」

「長年?」

「兄貴、余計なことを言うな」

「兎も角、二人ともおめでとうだね。式には必ず呼んでくれよ」


口を滑らせたソリス殿下に、口を閉じろと突っかかったユーイン様。私は何のことか分からず、取り敢えず返事だけをした。

まだまだやることは沢山あるし、この恥ずかしがり屋のユーイン様をどうにかしないといけない。夫婦になっていくんだし、その子供? とかの事もあるし。


(まだまだ先とか言ってられないのがあれだよねえ……)


お母様にぐちぐち言われる未来が見えて、少しだけ肩を落とす。

けれど、私もようやくここまで来た気がするのだ。二回の婚約破棄を経て。


「ステラ、このまま帰るのかい?」

「はい。用事はこれだけでしたし……まだ、何か?」

「いいや、大丈夫だ。ああ、でも、ユーインは借りていくね。ちょーと話があるんだ」

「はい」


いや、私の所有物じゃないし。と思いながら、私はまだ小さいままのユーイン様を横目に部屋を出た。ユーイン様に話って何だろうと、引っかかることはあったけど、兄弟積もる話もあるんじゃないかなあなんて軽く考えていた。


――――そんな軽い、浮かれている私は、とある一つの重要なことを忘れていたのだ。


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