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突如、禍々しい身体を模し、腕が六本生えた蜘蛛のような悪霊が楽の目の前に現れる。
「コイツをぶっ倒せばいいんだな……!」
しかし、現れたはいいが、襲ってくる気配がない。
そして、愛の能力も発動しなかった。
(心の声、聞こえてるかな?)
「うわ! コイツ……心の声を利用して話し掛けて来やがった! 俺が返さないこと分かってたな!!」
(ハハッ、まあそうカッカしないでよ。目の前にいる悪霊は、 “A” と呼ばれていた異能教徒幹部が生み出した幻影だ。Aは幻影をそのままに行方を眩ましてしまった。これから君にはその幻影と戦ってもらう)
「ま、そういうこったろーと思ったぜ。しかも、幻影ならこっちは負傷しねぇじゃねぇか! 楽勝だな!」
(ちなみにAの幻影は強力でね……そこらの悪霊より格段にレベルは高いし、当然負傷するから気を付けてね……)
そして、夏目の心の声がパタリと途絶えると、目の前の悪霊は奇声を上げて動き始めた。
「コイツ……早い……!!」
悪霊は、奇妙な図体の割に楽との間合いを一瞬で詰め、二本の脚を突き刺してきた。
それを、咄嗟に目で追って楽は交わした。
「ハッ! 異能教徒の連中に比べたらヨユー!!」
しかし、
「うわっ! なんだこれっ!?」
楽は透明な糸に拘束されてしまった。
「見えない攻撃……!? アイツも使えるのか!?」
「いや、違う。目の前の攻撃を避けるのに夢中になって、死角から放たれた糸に気付けなかったのじゃ」
「クソッ……! 外せねぇよ……!」
そうこうしている内に、悪霊は迫る。
「解けねぇんだったら……」
ガツン!!
そして、そのまま楽は頭突きした。
「そのまま攻撃してやりゃあいいだけだ!!」
悪霊は自らの速度と楽の急な頭突きにより、もがいた後にそのまま消滅した。
消滅と同時に、楽の糸も消えて行った。
「なんだ、弱ぇじゃねぇか」
しかし、間髪入れずに次の刺客が現れる。
その姿を見て、楽は呆然とする。
「止水に……神崎……!」
現れたのは、異能探偵局の大学生アルバイト二人組、神崎杏と止水歩だった。
「ちょっと待てよ!! Aって奴が残した残骸の悪霊じゃねぇのか!? なんで止水と神崎が……!」
(説明し忘れていたね。Aの能力の幻影は、君が過去に見たことがあり、戦闘レベルが低い順に現れる。先程の蜘蛛のような悪霊もどこかで出会してるはずだ)
そんな時、愛はハッと声を上げる。
「楽、あの時だよ。異能祓魔院に助けられた廃屋……!」
楽は戦闘開始直ぐに暴走した為、どんな姿か記憶に薄かった。
「そうか……アイツ、普通に戦ってたらこんな弱かったんだな……」
「いや、そうでもないかも知れない。異能教徒との戦いで少なからず楽は強くなってる。あの時戦ってたら……分からなかったかも知れない……」
「で、その悪霊より俺の中で戦闘レベルが上に位置してるのが、神崎と止水のコンビって訳か……」
楽はそっと溜息を溢す。
「まあいいや。どうせ幻影なんだし。ぶっ飛ばすぜ」
すると、神崎は持ち前の異能力『透明化』をした。
当然、神崎の透明化は楽にも見えない。
しかし、
「右だ!!」
楽の気配を察知する鋭さは並外れていた。
神崎の咄嗟の息遣いや、目線、楽は頭を使わない分、それら技術に長けていた。
そして、神崎からの打撃を交わす。
「そのまま反撃して終わりだ!!」
しかし、楽の一点突破な攻撃もまた交わされる。
「あれ……今の絶対入ったと思ったんだけど……」
「楽、止水さんだよ。幻影だから会話はしてないけど、多分、楽の動きは止水さんに全部読まれて、神崎さんに伝えられてるんだと思う……」
「クソ……やり辛ぇな……」
相手の攻撃は当たらないが、こちらも当てられない。
早くも、その事実に気付いてしまった。
互いに一歩も譲らない戦い、相手は幻影の為、体力消費がない。
息も絶え絶えな中、突如二人の姿は消えた。
「あれ……まだ倒してねぇけど……」
(聞こえるかな? 今を持って、君が彼らと戦闘を始めてから一日が経過した。流石に俺も君たちを餓死させるわけにはいかないから、これから食事を与えよう)
すると、天井の一部が開き、肉や野菜のバランスのいい食事が降ろされてきた。
空腹に気付いた楽は、夢中で食べ始める。
「うめぇ! これもうめぇ!」
(食べ終わったら仮眠を取って大丈夫だ。君が再び目覚めたら、改めて戦闘開始だ)
「ほーい」
早くも楽はこの場所に順応していた。
緊張感や不安感もどこかに消えていた。
そして、仮眠を取り、再び二人が現れた。
「よぅし、今日こそぶっ倒してやる!」
楽には作戦があった。
神崎が透明化し、楽に接近、その瞬間、
「ハハッ! 神崎の動きももう読めるぜ!!」
楽は向かい合う神崎から瞬時に方向を変え、止水を蹴り飛ばした。
神崎も止水も、楽よりスピードがない。
止水が司令塔ならば、止水から倒せばいい、と言う結論に早くも至っていた。
「ハハッ、やっぱな!」
そして、そのまま神崎も蹴散らした。
「ちょっと、自分で考えた風を装わないでよ。私の提案でしょ?」
「は? 俺だって気付いてたっつーの!」
この作戦は、昨夜愛から提案されたものだった。
そして、次に現れたのは、隊長補佐、逸見桂馬だった。
「遠距離攻撃か……一気に間合いを詰めるか……?」
しかし、逸見は拳銃の類を持っていなかった。
「待って、楽! 何かおかし……」
愛が忠告する最中、逸見は既に楽の背後を取り、強烈な一撃を楽に与えていた。
「グアッ……!!」
そして、その勢いで反対側の壁に叩きつけられた。
「楽! 大丈夫!?」
「マジで痛ぇ……。なんでだ……逸見って接近戦も出来んのか……? あの爺さんに簡単にやられてたよな……?」
「きっと隠してた力があったんだよ。さっきの速度、むしろ異能祓魔院で一番近接戦闘に優れてるって考えた方がいいかも知れない……」
「でも……目で追えねぇしな……」
そうこうしてる間に、再び逸見からの攻撃。
またしても楽は大ダメージを負う。
何度か続き、楽は気絶してしまった。
それから何日も、気絶させられ、食事を摂り、睡眠を挟み、気絶をさせられる。
一向に逸見に勝てる未来が見えなかった。
「逸見ってあんな強かったのか……。動きは直線的なんだけど……避けられねぇんだよなぁ……」
食事を摂りながら、豚肉にも飽きてきた頃だった。
「そういや、なんで俺戦ってんだ?」
「アンタ……今更……? そんなことずっと前に気付いてるものかと思ってた……」
「愛なら分かるのか? なんか俺は、取り敢えず目の前に悪霊が出たから戦ってたんだけど」
「そりゃ、あの……夏目さん……? って人が、楽のことを鍛えようとしてるんじゃないの……? だって、殺す気もなければ帰す気もない、それでいて故人の異能を使ってまで楽と戦わせてるんだから……」
「そ、そうか……! 俺は鍛えられていたのか!! なるほどな!!」
「ほんとバカ……」
そして、楽の中で何かがカチッと変わる。
「ならよぉ、今までのままじゃダメってことだよな」
その、簡単に出た言葉は、愛の顔色を変えるのに十分すぎる一言で、確信に最も近い事柄だった。
「そ、そうよ……。なんでずっと逸見さんに気絶させられてまで続けているのか……。今のままじゃ勝てないからってことよ……!」
「そうか! なら変わればいいんだな!!」
しかし、言うは易しである。
「何を……変えるんだ……?」
「分からない……」
そして、食事を終え、就寝時間となった。
愛のモヤモヤした気持ちは続いていた。